自慢話が止まらないママ…
4歳の息子が通う幼稚園で、クラス懇談会が開かれたときのことです。担任の先生が、「今日は、皆さんにお子さんの最近の様子や、おうちでのエピソードなど、自由にお話しいただければと思います」とにこやかに言いました。すると、待ってましたとばかりに真っ先に手を挙げたのは、毎度おなじみの“自慢ママ”Aさん。「じゃ、私からいいですかぁ?」と場の空気も読まず、勢いよく話し始めます。
「うちの娘、またバレエのコンクールで入賞しました。最近はプロの先生から個別レッスンも受け始めて……。将来は海外の芸大狙いなんで、英語の教室にも通っているんです」と、まるで滝のように流れ出る自慢話。周囲がやや引き気味になっていることにもおかまいなしで、続けます。気づけば、夫の自慢と家庭の金銭的余裕にまで話が飛躍し、自分の優越感のアピールになっていました。
しかし、その後に続くママたちが語り出したのは、Aさんの話とはまったく別のものでした。「この前、子どもがカタツムリに話しかけてて、それがかわいくて……」「夕飯のとき“ママのおにぎりが世界一”って言われて泣きそうでした」など。
そこには“表彰歴”も“高収入の夫”の話題もなく、それでいて話すママたちの表情には、あたたかい愛情が滲んでいました。一方のAさんは、だんだんと笑顔が引きつり、落ち着かない様子。明らかに、さっきの自信が揺らいでいるように見えました。
そして、懇談会の空気を決定づけたのが、Bさんのエピソード。「うちの子、なかなか言葉が出なくて悩んでいたんですが、先週初めて“ママだいすき”って言ってくれて……。それだけで十分だなって思いました。周りの子と比べる必要、ないんだなって」。その言葉に、ほかのママたちも目頭を押さえます。それは、誰もが心の奥に持っていた「自分の子育てが間違っていないか」という“不安”や「ほかの子はあんなこともできるのに……」と誰かと比べてしまう“葛藤”に、光が差すような言葉でした。
すると、さっきまで自慢気に話していたAさんは、うつむきながら「ごめんなさい、私……」と涙をこぼし始めたのです。園長先生が「Aさん、どうされましたか?」と聞くと「私、自分に自信がなくて。だから子どもにはたくさんのことをできるようになってもらって、自信をつけてほしいって思ってたんです」と声を震わせながら話すAさん。「でもそうじゃないんですよね、子どもと向き合う時間が大切なのに……」と涙が止まらないAさんを見て、園長先生が「Aさんも、十分お子さんのことを思っているのは伝わりますよ」とやさしくなだめます。
そして「“何ができるか”や“ほかの子と比べてどうか”ということ以上に大切なのは、子どもたちが“自分は愛されている”と感じることだと思います。愛されている実感が、きっとどんな能力よりも心を育てるんだと思います」と続けました。
静寂のあと、ぽつぽつと拍手が起こり、「Aさんのお子さんも、いろいろな経験をさせてもらえてるし、ちゃんと愛されてる実感あると思うな」と隣の席のママがつぶやきました。その声は、たしかにAさんの耳にも届いたようでした。Aさんは無言で席を立ち、深々と頭を下げて会場を後にしました。
見栄や成果、コンプレックスばかりに気を取られるのではなく、日々の小さな幸せや成長を見落とさないように、子どもとの時間を大切にしようと感じた出来事でした。
著者:川中あいこ/40代・ライター。マイペースな4歳の息子と、おてんばな2歳の娘を育てるママ。夫は帰宅時間が遅く、平日ほぼワンオペ。転勤族で、日本中のおいしい物が食べたいと思っている。老後はどこに住むか想像するのが好き。
作画:yoichigo
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年5月)
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