「結婚のお祝い、何がいい?」と尋ねた私に、「は? その話やめてくれない? もう破談になったから」と冷たく返してきた幼なじみ。ついこの間、SNSで「運命の式場見つけた♡」とつぶやいていたばかりなのに……。
彼女はいらだちを隠そうともせず、「ちょっと浮気しただけなのに、それがバレて……たかが一度の浮気で婚約破棄なんて器ちっちゃすぎだわ」と吐き捨てるように言ったのです……。
勘違いした幼なじみから浴びせられた衝撃の言葉
「そんな……浮気したの? それなら悪いのは浮気したあなたじゃない!」と思わず言うと、「は? あんたまで説教モード? プロポーズすらされたことないくせに!」と彼女。
私は少しだけ躊躇しながらも、事実を告げることにしました。
「あ……実は、婚約したんだよね」
「はぁ!? 婚約!? あんたが!?」
先月、彼からプロポーズされたことを伝えると、彼女の態度は一変。私が彼女の破談を知っていて、マウントを取るために連絡してきたのだと、とんでもない勘違いを始めたのです。
もちろん、そんなつもりはまったくありませんでした。しかし、何を言っても彼女の耳には届きません。それどころか、私の婚約者のことを根掘り葉掘り聞き出し、「どうせ冴えない貧乏人なんでしょ?」と見下したように笑うのです。
「ちょっとやめてよ。真面目な人よ」と答えると「真面目さじゃごはんは食べられないのよ。職業は?」と聞いてきます。
「……彼の、お父さまが経営するクリニックで働いてるの」
その瞬間、幼なじみの声のトーンが上がりました。
「え、うそ、じゃああんたの婚約者って、院長の息子!? 結婚したら院長夫人じゃない! あんたが院長夫人とか、マジでありえないんだけど!」
電話の向こうでわめき散らす幼なじみに、私はただあきれるしかありませんでした。友人の幸せを素直に喜べないどころか、嫉妬と憎しみをむき出しにする彼女の姿に、心の底からがっかりしてしまったのです。
結婚直前に婚約者の口から出た信じられない名前
それから数カ月――。
来月に控えた両家顔合わせについて婚約者に電話すると、「ごめん。その話、なかったことにしてほしいんだ」と言う彼。
「俺、君とは結婚できない。ほかに、本当に愛する人ができたんだ!」
「どういうことよ!?」と語気を荒くして問い詰めると、「俺はもう、彼女しか見えてないんだ……」と彼。そして彼の口から、あろうことか、幼なじみの名前が飛び出してきたのです!
どうやら私のSNSに載せた彼の写真を見て、幼なじみが一方的に連絡先を探し当てて2人は知り合ったのだそう。幼なじみが彼に猛アプローチをかけたようでした。「運命を感じた」「彼女と一緒にいると自信が湧く」などと熱っぽく語る婚約者の姿に、怒りを通り越して私の気持ちは急速に冷えていきました。
「そう……わかった。そこまで彼女に夢中なんて、さすがにあきれちゃった。婚約は破棄しましょう」
私は自分でも驚くほど冷静にそう告げました。こんな形で裏切るような人と結婚しなくて済んで、むしろ安心したくらいです。もちろん、婚約破棄の責任はきちんと取ってもらうと伝え、彼との関係に終止符を打ちました。
数日後、彼のお母さまからお電話がありました。涙ながらに「息子の不始末で、本当に申し訳ないことをしました」と何度も謝ってくださり、私も胸が痛みました。
お母さまは、「あの子は昔から、兄と比べられることにずっと引け目を感じていたようで……。私たちも何度も叱ったのですが、新しい彼女に夢中なようでまったく耳を貸さなくて……本当に情けない限りです」と、力なくおっしゃいました。
その言葉で、すべてが腑に落ちました。 そういえば彼は昔、『お兄さんは医者として優秀で、僕は全然ダメなんだ』と寂しそうに笑っていたことがありました。兄へのコンプレックスで自信をなくしていた彼に、幼なじみが猛アタックをかけてきた。彼の心の隙間に、ちょうどぴったり彼女がハマってしまったのでしょう。
致命的な勘違いによりすべてを失った幼なじみと元婚約者
それから数カ月後――。
すっかり忘れていたころに、幼なじみから「私たちの結婚式の招待状、届いた?」とメッセージが届きました。
豪華な結婚式の計画を、勝ち誇ったように恥ずかしくなるほど自慢してきます。
延々と続く自慢話に、私はため息をつきながら、1つの事実を告げました。
「ぷぷぷ♡ 玉の輿に乗れるのは、やっぱ選ばれし女なの♡」
「お医者さんの婚約者……っていうか、院長夫人の座を奪っちゃってごめんね~」
「お医者さんって……誰のこと?」
「え?」
彼女のことですから、「院長の息子」というキーワードだけで舞い上がってしまい、彼が当然、医師免許を持っていると思い込んでいたのでしょう。
「彼、医学部も出てないし、医師免許もないよ?」
元婚約者はクリニックの経営や事務を手伝っているだけで、医療には一切関わっていないこと。そして、クリニックの後継者として期待されているのは、医師である兄のほうであることを、私は説明しました。
すると、慌てて電話をかけてきたと思えば、彼女はパニック状態で「そんな、嘘でしょ!? だって、『お父さんのクリニックで働いてる』って言ったじゃない! 医者だと思うでしょ、普通!」と何度も叫び、友人たちに「医者の彼と結婚するの」と吹聴して回ったと嘆き始めました。
「で、でも! 院長の息子ってのは本当でしょ!? お給料だっていいはずよね!?」
必死に希望的観測にすがりつく彼女に、私はさらに現実を突きつけます。
「あー、それも違うかな。お父さまの方針で、お給料は普通の事務スタッフと同じだって。かなり倹約家だよ。ご馳走と言えばファミレスっていうような人だもん」
今度は悲鳴を上げた幼なじみ。どうやら2人のデートはほとんど家で、幼なじみは彼の「君の家が落ち着く」という言葉を鵜呑みにしていたようです。彼がただ節約していただけだとも知らずに……。
「あの人、『いつか僕がクリニックを背負って立つから』とか言ってたのに……。ただの一般人じゃない! ……あっ! 結婚式の費用、誰が払うの…!?」
身の丈に合わない豪華な結婚式を計画していた彼女は、その費用の問題にようやく気づき、再び悲鳴を上げて電話を切りました。
1時間後――。
今度は泣きながら電話をかけてきた幼なじみ。案の定、彼には500万もの費用を支払えるだけの貯金はなく、式場への内金すら延滞していたそう。彼のご両親に援助を頼んでも、突っぱねられたそうです。
「ねぇ……少しだけでも、お金、貸してくれない?」
予想通りの彼女の言葉に、私は笑ってしまいました。もちろん答えは「NO」でした。
さらに数日後――。
今度は元婚約者から惨めな声で電話がかかってきました。
「彼女との結婚式、ダメになって……キャンセル費用で200万も取られるし……『医者でもないくせに』って彼女は連絡が取れなくなってしまった……」
親からも勘当され、クリニックも追い出されたそうです。
彼は泣き言を並べ、私とよりを戻したいと言い出しました。私への謝罪の言葉はひと言もなく、悲劇の主人公のような彼に私は気持ち悪さすら覚えていました。
「絶対に嫌。あなたとよりを戻すことはないわ」
私は冷え切った声でそう言い放ち、二度と連絡してこないように告げて電話を切りました。
その後――。
友人から聞いた話ですが、2人はキャンセル料をどちらが支払うかで泥沼の争いを繰り広げ、結局それぞれ半分ずつ、借金をして支払うことになったそうです。
ちなみに、元婚約者には弁護士を通して婚約破棄の慰謝料をきっちり支払わせました。 それも、2人が借金地獄に陥る一因となったのかもしれませんが……罪悪感はありませんでした。
人生、本当に何が起こるかわかりません。でも、このつらい経験のおかげで、人のうわべだけじゃなく本質を見ることの大切さを学べた気がします。これからは、自分を本当に大切にしてくれる人とのご縁を、ゆっくり探していきたいと思っています。
【取材時期:2025年5月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。