「うちの夫ってこれかも?」
義実家への帰省は、いつも少し憂うつでした。それは、夫婦仲の悪い義妹に会うのがわかっていたからです。義妹の夫は仕事が忙しく、帰省するときはいつも義妹と3歳の甥っ子のみ。義妹は甥っ子の目の前でも、本人が居ないことをいいことに、平気で自分の夫の悪口を話します。「うちの夫は本当に気が利かなくて」「頑固すぎてありえなくない!?」と、愚痴を聞くたびに私は心の中で「また言ってるよ……」とうんざり。甥っ子も、幼いながらに複雑そうな表情を浮かべているのが痛々しいのです。
その日も、義妹の悪口が止まりませんでした。私の夫が静かに娘に絵本を読んでいるそばで、私に向かって「ねえ、聞いてくれる? うちの夫、本当にどうしようもないの。私が『あれして』って言っても、全然動いてくれなくて。もう何度言っても無駄なのよ。もう『気が利かない男』の代表みたいなものだわ」と毒づきます。
一通り義妹が愚痴を言い終え、ため息をついたそのときです。夫が絵本を閉じ、おもむろに立ち上って「〇〇(義妹の名前)。文句を言うだけでは何も変わらない。二人には、これがちょうどいいと思うんだ。これで少し考えてみたら?」と何かの書類をカバンから取り出して渡したのです。
「何これ? こんなものでどうしろって言うのよ?」と最初は怪訝な顔をしていた義妹でしたが、読み進めるうちに表情が変わっていきました。そしてその書類の中に何かを見つけると「お兄ちゃんありがとう! これだわ!」と目を丸くして夫にお礼を言います。
「何を渡したの?」と夫に聞くと「俺のバイブルだよ」と言う夫。その日、夫が渡したものは、私には結局わからずじまいでした。
それから半年後、再び義実家で会ったとき、私は驚きました。義妹の夫も久しぶりに来ていたのですが、彼が席を外したときも、義妹は悪口を一切言わないどころか、「あの人、本当に頼りになるの!」と、自分の夫のいいところをうれしそうに話すのです。「なんか二人の雰囲気変わったね」と私が話すと、義妹は「お兄ちゃん(夫)のおかげ」と言います。そしてそこで、夫が半年前、義妹に渡したものの正体が判明したのです。
聞いてみると、夫が義妹に渡したのは、娘の保育園で保護者向けに配られたプリントだったそう。それは「個性を知り才能を育む、タイプ別対応術」という、子どもの生まれ持った気質に合わせた褒め方や叱り方を指南する内容でした。園の参観でもらってから、ずっと義妹に見せたいと思っていたようです。
義妹の夫は資料によると、「言葉を濁さず具体的に指示する」「『なぜそうするのか』という理由を明確に伝える」といった関わり方がいいタイプ。子どもとどう接するのがよいのかを知るための資料でしたが、大人の人間関係にも通ずるものがあると夫は考えたようです。
義妹はその資料を見て、それまで感情的に自分の思いを一方的に伝えていたのを、「〇〇してほしいんだ。理由はね、こうこうこうだから。ここに置いておいてくれる?」と、伝え方を変えてみたところ、夫婦のコミュニケーションがスムーズにいくようになったそうです。
「私が何度言っても動いてくれなかったのは、私の伝え方が悪かったんだ……って気づけてから、すごく意識が変わったの」と義妹は言います。
義妹夫婦の間には穏やかな空気が流れ、甥っ子も以前よりニコニコしており、「パパとママ仲良しなの!」とうれしそうでした。
子育てに関するプリントが、まさか夫婦関係の修復に役立つとは、本当に驚きです。相手にあわせて言葉の伝え方を変えることは、コミュニケーションにおいて重要なこと。相手に変わってほしいと願う前に、まず自分の伝え方を見直すことも、あらゆる人間関係をよりよくする第一歩だと、私も学びになった出来事でした。
著者:松原櫻子/30代・ライター。2歳の娘を育てる母。イヤイヤの地雷を踏まないように、日々忍者のごとくそろりそろりと歩いている。
作画:Pappayappa
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年6月)
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