次はいよいよ、私の父に彼があいさつをする番。彼が緊張しているのはもちろん、実は私も同じくらい緊張していました。彼にずっと隠していた、ある秘密を打ち明けようと決めていたからです。ところが……。
父へのあいさつを控えたある日…
父へのあいさつを3日後に控えたある日、彼から訪問を延期したいと連絡がありました。母親が倒れ、看病や家事で忙しいとのこと。最近、彼が定時でそそくさと帰宅するのを不思議に思っていましたが、そういう事情だったのかと納得しました。
「少し時間がほしい」という彼に、私は快く同意。未来の家族のために何かできることはないかと尋ねましたが、彼は「大丈夫」と繰り返すばかり。お母様が大ごとにしたくないと言っていると聞き、何かあればいつでも声をかけてとだけ伝えました。
それから1週間後のある夜、私は会社で彼にまつわるある噂を耳にして、真相を確かめるため彼に連絡すると「今、自宅で看病しているから無理だ」と返事がきました。そう言われては仕方なく、私は「わかったよ、バイバイ」とあっさり引き下がったのです。
それから1カ月、私は彼に連絡せず、彼からも何の連絡もありませんでした。結婚の約束をした間柄とは思えない現状。そろそろ彼と話さなくては……そう思っていると、彼から「大事な話がある」と連絡が。そして彼は、その日、仕事が終わると、私の部署まで会いに来て、半ば強引に私をカフェに連れ出しました。
彼のいう、大事な話にはおおよその見当はついていましたが、一応、彼の話を聞いてみた私。彼は、母親の看病で大変な時期に支えてくれた女性と恋に落ちた、と言います。
部署は違いますが、同じ会社で働いている私たち。彼の噂はすぐに耳に入ります。彼が新しい彼女ができたと言いふらしていると聞き、私は真相を確かめようと、あの夜に電話をかけたのです。看病で忙しいと嘘をつかれてしまいましたが……。
しかし私は、あのとき彼が新しい彼女とデート中だと知っていました。さらに、お母様の体調が悪いというのも嘘だと気づいていたのです。問い詰める気力も失せた私は、その瞬間、彼との別れを決意したのでした。
彼から別れ話を切り出され…
「実はお前に飽きちゃってさ」
「婚約は白紙で!」
そう別れを切り出し、どこか私をバカにしているような態度の彼。
「結婚の予定はないですが……?」
婚約者を1カ月も放っておいて何を今さら……。それに、結婚を目前に控えた男性が、母が倒れたなどと嘘をつき連日連夜合コンに参加。さらには、そこで出会った女性にあっさりと乗り換えたのです。とても信じがたい話ですが、すべて事実。同じ会社に勤めているので簡単に調べがつきました。彼に言われる前から、私の中ではとっくに彼との婚約は白紙に戻っていたのです。
「は?」
私の話を聞いて苛立つ彼。気丈に振る舞う私が気に入らなかったようで、彼は「浮気を知っても泣きもしない女はかわいげがない。仕事ができて顔もいいけど、そういうところが足りない。少しは隙を見せて女らしくしたらどうだ!?」と、説教を始めてきました。
挙句の果てには「新しい彼女はお前と違って、かわいくて、ちょっと抜けてて放っておけない。守ってあげたいと思わせてくれる理想の女だ。おまけに金持ちのお嬢様なんだよ。お前を捨てて彼女を選んだ俺は人生の勝ち組だ! せいぜいお前も頑張れよ!」と悪態をついて去っていきました。
別れ話をしてから1カ月後、社内では私が会社を辞めるという噂が流れました。すると彼は、私が振られたショックで辞めるのだと思い込んだらしく、慌てて会いに来ました。自意識過剰にもほどがあります。
急な退職に見えたかもしれませんが、実は以前から決まっていたこと。私は近々、当社の得意先である企業へ転職するのです。その話を聞いて驚いている彼に、さらに「実は私、あの会社の社長の娘なのよ」と、真実を教えてあげました。
私は転職先の企業の跡取り娘。社会勉強のために父の知人である社長にお願いし、今の会社で、いち社員として働かせてもらっていたのです。私の正体を知り、愕然とする彼。なぜそんな大事なことを黙っていたのかと私を責めましたが、黙っていたわけではありません。父へのあいさつの場で打ち明けるつもりでした。その機会を潰したのは、彼自身なのです。
私の正体を知った彼の哀れな姿
その後、彼は「話がしたい」と言って会社の近くで私を待ち伏せをするなど、しつこく連絡してくるようになりました。どうやらお嬢様の彼女とは別れたそう。親のお金で遊んで暮らす彼女と比べ、跡取りという立場に甘えず仕事に打ち込む私のほうが魅力的だとか……。私の価値が高いと見るや、また乗り換えようと必死な彼。本当にあきれます。
そういえば、彼の嘘に気づいたきっかけがあります。一度、心配になって彼の実家の前を車で通ったとき、彼のお母様が元気にご近所の方と立ち話をしていたのです。車を停めてお母様にあいさつをした私。「ご体調はいかがですか?」と声をかけると、お母様は「元気があり余ってるくらいよ! この前の健康診断の結果もオールAだったわ!」と教えてくれました。
母を早くに亡くした私にとって、親の病気を嘘に使うことは決して許せることではありません。やり直したいと彼は言いますが、もう手遅れ。父も彼の裏切りを知って激怒していますし、関わるつもりは一切ありません。
彼と別れてから、父はさっそく見合い話を持ってきました。今お付き合いしている人は、私のことを本当に大切にしてくれる素敵な人。私を裏切って捨ててくれた彼には、むしろ感謝しています。
「婚約を白紙にしてくれてありがとう」
あなたのおかげで、私は本当の幸せを掴むことができそうです♡
◇ ◇ ◇
親の病気という許されない嘘は、2人の信頼関係を完全に崩壊させました。結婚という大きな決断の前に相手の本性を見抜けたのは、不幸中の幸いだったのかもしれません。つらい経験を乗り越えた先には、必ず明るい未来が待っているはずです。今の素敵なお相手と幸せになれることを願っています。
【取材時期:2025年9月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。