希望しているのにもかかわらず、なかなか妊娠しない場合は、早めに対策を取ることも大切です。今回は、不妊症や男女の不妊の原因、不妊の検査や治療について解説します。
不妊症とは
不妊症とは「妊娠を望む健康な男女が避妊せずに性交しても1年以上妊娠しないこと」と定義されています。(※)
不妊症は、男性側または女性側に原因がある場合と、両方に原因がある場合、原因がわからない場合があります。これまでは一方的に女性が原因と思われることが多くありましたが、男性や女性に原因がある割合は、ほぼ半々とされています。
※参考:日本産科婦人科学会「不妊症」
女性の不妊の原因
女性にみられる不妊の原因には、次のようなものがあります。
■排卵に問題がある場合
ホルモンバランスに問題があり、卵胞が育たなかったり排卵が起こらなかったりする場合があります。特にホルモンバランスの乱れによる月経不順では、月経時に出血があっても排卵が伴わないことがあります。月経不順の方は排卵障害の可能性がありますので、なかなか妊娠できない場合は病院へ受診してみましょう。
<ホルモンバランスの乱れの原因となる疾患>
・甲状腺疾患
・高プロラクチン血症
・多嚢胞性卵巣症候群
・早発卵巣不全
・精神的ストレス
・極度の肥満、ダイエットによる月経不順
■卵管に問題がある場合
細菌感染や炎症などによって卵管がふさがったり、くっついたりすると精子が卵子に到達できなくなり、妊娠の確率は低くなります。
<原因となる疾患>
・卵管閉塞
・卵管狭窄
・性器クラミジア感染症
・子宮内膜症
■子宮に問題がある場合
子宮筋腫や子宮の形に異常がある場合、受精卵が着床できないことがあります。
<原因となる疾患>
・子宮奇形
・子宮筋腫
・子宮内膜ポリープ
・子宮粘膜化筋腫
・アッシャーマン症候群(子宮内膜の細胞の層の一部が欠けてしまい、くっついてしまう病気)
■子宮頸管に問題がある場合
子宮頸管を満たす粘液量が少なかったり、精子が侵入しにくい形をしていると、不妊症の原因になることがあります。
<原因となる疾患>
・子宮の奇形や子宮頸部の手術後
・子宮頸部の炎症
・頸管粘液の異常
■免疫に問題がある場合
免疫異常で抗精子抗体(精子を障害する抗体)を持つ女性の場合、精子の動きが悪くなるため、精子が卵子に到達することができません。
男性の不妊の原因
男性にみられる不妊の原因には、次のものがあります。
■精子の形成に問題がある場合
精子の数が少なかったり、精子の運動性が悪かったりすると、不妊症の原因になります。
<原因となる疾患>
・精索静脈瘤(精巣周辺の陰嚢部に発達した静脈のこぶ)
・染色体異常
・停留睾丸(陰嚢の中に睾丸が入ってない状態)
■射精に問題がある場合
過去の炎症(精巣上体炎)などにより精子が通る管が詰まっている場合があります。精子がペニスの先端まで通る道が詰まっていると、射精しても精子が排出できません。
■男性の性機能に問題がある場合
ストレス、動脈硬化や糖尿病の疾患の原因などなんらかの原因でペニスの勃起に問題が生じることを性行為がうまくいかなくなることがあります(ED:勃起障害)。
■加齢による影響
男性は35歳ごろから、精子の質の低下が起こります。
不妊症検査の内容と費用
日本生殖医学会では、不妊期間を1年として不妊症と診断し、検査と治療を開始したほうが良いとしています。
■女性に対する検査
産婦人科の不妊外来を受診した際に、問診により、既往歴、月経周期、喫煙、飲酒などの生活習慣などが質問されます。その後、診察して以下のような検査がおこなわれます。
・内診・経膣超音波検査
超音波プローブを腟に挿入して、子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣のう腫などの病気の検査をおこないます。病気の疑いがある場合は、さらにMRI検査や腹腔鏡検査をおこなうことも。
・子宮卵管造影検査
子宮の入り口から造影剤を注入し、子宮の形に異常がないか、卵管の詰まりがないかを調べる検査です。子宮卵管造影により治療的な効果もあり、卵管の通りがよくなることもあります。
・ホルモン検査
血液検査では、女性ホルモンの分泌や甲状腺の機能などを調べます。月経周期にあわせて検査がおこなわれます。
・AMHアンチミュラー菅ホルモン検査
卵巣の予備能力や卵がどれくらいあるのか予測でき、卵巣年齢を知る検査です。
・性交後試験・フーナーテスト
性交渉をおこなった翌日に受診し、女性の子宮頸管粘液を採取して、その中に運動している精子が進入しているか、精子の数や運動率を調べます。体調によっても精子の状態は変化しますので、数回だけの検査することもあります。
・クラミジア抗体検査
性感染症の原因でもあるクラミジアは卵管をくっつけてしまうため、血液検査によって感染の有無を調べます。
・子宮がん検査
子宮頸部の細胞を採取し、がん細胞の検査をおこないます。
■男性に対する検査
・精液検査
プライバシーに配慮された個室に案内され、マスターベーションで採取した精液を検査します。もしくは自宅で採取した精子を2時間以内に病院に持参したものを検査します。精液量、精子濃度、運動率、運動の質、精子の形態、感染の有無などを調べます。検査結果に異常がある場合、精密検査がおこなわれます。
・泌尿器科的検査
精液検査で異常があった場合におこないます。不妊症に関する病気の既往歴の有無、勃起や射精などの性生活など問診をおこないます。
精巣などの外陰部の診察、精巣サイズの測定、精索静脈瘤の有無などを触診でチェックします。
■検査費用について
不妊検査は、保険適用になる分と自己負担になる分がありますので、初診では2~3万円は準備しましょう。
初診は、問診、内診、超音波検査、血液検査などがおこなわれ、一般的に内診と血液検査だと5,000円で健康保険適用内になります。
精密検査が必要になれば、数十万円の費用がかかる可能性もあります。
病院によって不妊検査の費用が異なりますので、あらかじめ費用の目安についても確認しておくとよいでしょう。
不妊治療の内容と費用
不妊治療のステップとして、タイミング法など自然妊娠をサポートするものから、排卵誘発や体外受精など人工的な授精が段階的におこなわれます。
●治療内容について
・タイミング法
排卵日の2日前から排卵日までに、夫婦の性生活をもつタイミングの指導がおこなわれます。排卵予定日数日前に経腟超音波検査で、卵巣内の卵胞の大きさを測定することで、排卵日を推定します。また、ホルモンの分泌状態から排卵日を予測します。
・排卵誘発法
内服薬や注射で卵巣を刺激して排卵を促す方法です。排卵のない女性に使用されますが、人工授精や体外受精などにも使用されることがあります。
・人工授精
手を使って採取した精液から運動している成熟精子を回収して、子宮の中に注入する方法です。妊娠に至らない場合は体外受精へ進みます。
・体外受精
腟から細い針を穿刺して卵巣から卵子を取り出し、体外で精子と受精させます。受精に成功した受精卵は、培養して分割させ、子宮の中へ移植します。1回の体外受精で複数の受精卵が得られた場合、残った受精卵は凍結します。
・顕微授精
体外受精で精子と卵子が自然に受精しない場合に、細い針で精子を卵子の中に注入して受精させる方法です。
●費用について
不妊治療でも気になる人が多いのが、治療にかかる費用です。不妊治療にかかる費用の目安は以下のようになります。
【健康保険適用内】
タイミング法 1~2万円
【健康保険適用外】
人工授精 1~4万円
体外受精 20~60万円
顕微授精 30~70万円
まとめ
不妊治療がうまくいかないと、気分も落ち込むことも多いと思います。不妊治療をきっかけに夫婦が険悪な雰囲気になってしまうケースも少なくありません。そのため、不妊治療は高額で長期間に及ぶこともあるので、夫婦でコミュニケーションをしっかり取ることが大切です。不妊で悩んでいる場合は、まずは原因を明らかにするために医療機関に相談してみましょう。
※参考:
・日本生殖医学会「一般のみなさまへ 不妊症Q&A」
・日本産科婦人科学会「不妊症」
・一橋大学 国際・公共政策大学院「コンサルティングプロジェクト最終報告書『不妊治療をめぐる現状と課題』」
・日本産科婦人科学会・Reason for your choice「生殖補助医療(assisted reproductive technology: ART)の実際」