田中病院(山口県周南市)産院ごはん
経験豊富な料理長が追求する、産婦人科病院のキッチン
橋本さんは、15歳で調理師免許を取得後、ホテルのレストランをはじめ、数々のキッチン立ち上げに携わってきました。また、ご自身でもフレンチレストランを開業して繁盛店に仕立て、コンサルタントとしても活躍されていたご経歴をお持ちです。そんなご経験からか、産婦人科病院のキッチンにでも、経営者さながらに「どうやって患者さんに寄り添えるか」をトコトン追求する姿勢が印象的でした。
田中病院との出会い
「京都でフレンチダイニングを経営していましたが、地元・山口の商工会から誘いがあり、地元でもお店を出しました。ありがたいことに店は予約が取れない繁盛店になり、コンサルタント業をしているときに、田中病院から依頼がありました。外食産業と産婦人科病院のキッチンでは、意識や感覚が大きく違い、改革を進めていくなかで、自分が責任を持って料理長として入ることになりました。まずは、ダイニングを改装し、レストランをオープンさせることから始めました。以前は少し暗い空間でしたが、果たしてこの空間で患者さんが楽しく食事ができるのかを考え、楽しく明るい空間に改修しました」
田中病院にとっての「お祝い膳」とは?
「田中病院にコンサルタントとして関わっている時期、薄暗いダイニングでは楽しく食事ができないと考えて、お祝い膳をやめ、ご夫婦がお部屋でくつろいで食べられるような『ペア食』というメニューを作りました。
その後、レストランがオープンしたことを機に、お祝い膳を復活させたのですが、ある疑問を感じました。『お祝い膳というものは、病院から強制的に出している食事であり、入院中に食べたくない患者さんもいるのではないか?』と、そう思ったんです。入院中にご主人と予定が合わないから、仕方なくひとりで食べなくてはならない、子どもがいるから入院中は落ち着いてフルコースなんて食べられないなど、せっかくのお祝い膳を残念に思う患者さんもいます。
そこで、退院してからも、お祝い膳を食べられるようにしたところ、患者さんから好評をいただいています。クリスマスの時期の予約も多かったりしますが、なかには、旦那さんとではなく、女性同士で食べに来たほうが楽しいと言って、ママ友と来られる方もいらっしゃいます(笑)」
お祝い膳は自慢のフレンチフルコース
「ご主人の分だけでなく、お子さんの分の食事も柔軟に対応しています。いわゆる『お子さまランチ』というものは廃止して、好きなものを3つ伺ってご用意しています。たとえば、小学生高学年なら大人に出すコースの半分のハーフコースなど、飽きないで確実に食べてもらえるように、要望を聞いてお出ししています」
常食は和食が中心
「病院では生ものを出さないところが大半ですが、最近は産婦人科を中心に生ものも提供するところが増えてきています。田中病院でも、院長と相談して生ものを提供するようにしました。妊娠期間は生ものが食べられない長い期間があります。出産して最初に食べるのは病院の食事なので、ぜひ生ものもお出ししてあげたいと思い、お刺身などの海鮮料理もお出ししています。山口県は港が多いので、地物を中心に新鮮な魚を仕入れています。もちろん、その日に天然ものでいい魚がなければ、こだわらずに養殖でもいいものを仕入れてもらっています」
バランス良くたべていただくために
「朝食は和食と洋食を交互にお出ししています。ランチはカフェのようなカジュアルなもの、夕食は豪華なものにしています。やはり、入院中の食事を楽しみにしていただいているので、よろこんでいただけるよう、考えて提供しています。病院として推奨することではありませんが、お酒が好きだった患者さんは長い妊娠期間、がまんしてきているので、どうしてもということであればグラス1杯のビールを特別にお出しすることもあります。もちろん、院長に承諾が得られた方だけですけどね」
味付けに対する取り組み
「和食であれば、出汁と醤油にもこだわって、塩分が多くならないようになるべく塩を使わないようにしています。たとえば、焼き魚でも塩を抑えて、醤油をかけたい人はお好みでどうぞ、というスタイルにしています。醤油にはこだわっていて、醤油屋さんに頼んで減塩醤油を作ってもらっています。その減塩醤油をミニボトルに入れて、田中病院オリジナルラベルを貼ってお一人おひとりに差し上げています。ラベルには『30%減塩』としっかり書かせてもらっていますよ」
メニューは作らない。患者さんの数と状態に対応
「患者さんに寄り添うために、決まったメニューは作りません。その日の患者さんの数や、患者さんの好き嫌い、体調などに合わせて、メニューを考えています。そのうえで、旬の食材や入荷してきた新鮮な食材に合わせてメニューを考えます。野菜もめずらしいものが入ってくれば使い、仕入れた食材に合わせて作ることを基本にしています。患者さんが食事を残された場合は、必ず看護師経由でお話を伺います。もし体調が優れなくて食べきれなかった場合、量を減らす対応以外にも、どんなものなら食べられそうか伺って、できる限り対応するようにしています」
キッチンとしてできること
「入院中にどのように過ごすのか、退院の日をどうやって迎えるのかを常に考えています。極端なたとえになりますが、キッチンが出す食事を『おいしい、おいしい』と毎回完食していただいたとしても、『退院するのが不安だなぁ』という状態で退院されるよりは、食事は多少残されたとしても、安心したお顔で元気に退院してもらいたいのです。そのために、キッチンとしてできることは何か、常に考えています。食事の残し方から体調を伺うことはもちろん、食べたいものが何かあれば、できる限り対応するようにしています。
患者さんからの声に耳を傾けるのは大変なことです。その日その日によって変えること自体が大変で、アレルギーや好き嫌いにも対応しなくてはなりません。ときには厳しいご意見を頂戴することもあります。それでも、患者さんに寄り添わなくては元気に退院してもらえないと考えています」
「料理人よりもカウンセラーを目指しているような意識なのかもしれません。おいしい料理を作って『どうだ、おいしいだろ?』という押し付けではなく、何を求められているのかを考えて、どれだけリラックスしてもらって、精神的に楽になってもらい、笑顔で退院してもらえるかを目指しています。だから、食材をどうしたい、メニューをどうしなきゃいけない、ということよりも、どうしたら入院中をリラックスして過ごしてもらえるかを中心に考えています」
レストランは自由に使っていただきたい!
「レストランは自由に使って、リラックスして過ごしてほしいですね。プロジェクターもありますから、上のお子さんが来たときは大きな画面でアンパンマンを見せてあげてもいいですし、部屋にいると気が滅入るのであればレストランで読書や映画鑑賞をして過ごしていただくのもいいですね。ご親族やご友人など、訪問者が来られたときでも、部屋ではなくレストランで、みなさんお揃いで過ごされるのもオッケーです。おいしい食事と居心地のいいレストランを通して、田中病院で充実したときを過ごしていただきたいです」
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