妊娠中の食事・栄養素
妊娠したら、赤ちゃんにすくすく成長してもらうため、また、ママになる体作りのために、「とりたい栄養素」を1日でとれるよう意識して食事をしてください。 主食・主菜・副菜を中心に、献立を考えてみてくださいね。
妊娠中の食事について

いつから食事に気をつける?
妊娠初期(妊娠15週ごろまで)は、つわりにより食事摂取が困難な時期です。この時期は体内に備わっている栄養素等で赤ちゃんは成長するため、無理して食事をとる必要はありません。葉酸は、赤ちゃんの先天異常である神経管閉鎖障害の発症リスクの低下に関係しているので、サプリメントで補給しましょう。
一般的につわりが落ち着く妊娠中期(16週ごろ)から、赤ちゃんの健やかな成長のために、これまで以上に栄養バランスのとれた食事を心がけていきましょう。
食事が与える赤ちゃんへの影響
妊娠中の食事は、ママの健康維持だけでなく、赤ちゃんが健康に育っていくためにも大切です。ママがとった栄養素等は、赤ちゃんの発育を促したり、生まれた後に免疫力をあげて病気から守ってくれたりします。
妊娠中は栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。
厚生労働省が提唱する「食事バランスガイド」
妊娠中の栄養バランスを考える際には、厚生労働省が提唱している「妊産婦のための食事バランスガイド」を活用しましょう。このガイドは、主食・副菜・主菜・乳製品・果物の5グループに分類し、妊娠中に、なにを、どのぐらい1日に食べるとよいかが明示されています。
最近では、胎児期や新生児期の栄養状態は、赤ちゃんの将来の健康に関連すると言われています。ママと赤ちゃんのからだづくりのために、必要な栄養素をバランスよくとるよう心がけましょう。このガイドを参考に、5グループのバランスを意識して食事をとることで、栄養素等を効率よくとり入れることができます。
妊娠中の食事でよくある質問
妊娠中に卵や牛乳など特定の食品を食べ過ぎると、赤ちゃんがアレルギーになるというのは本当ですか?
妊娠中に食物アレルギーの原因となる食品を控えることで、赤ちゃんのアレルギー疾患を予防できるという科学的な根拠は現時点では確認されていません。
このため、アレルギー予防を目的とした食事制限は勧められていません。妊娠中は栄養バランスに配慮した食事を心がけることが、ママと赤ちゃんの健康にとって大切です。
「妊娠中は葉酸が重要」とよく聞くのですが、どのくらい摂取する必要がありますか?
厚生労働省では、食事から葉酸を1日あたり0.4mg摂取することに加え、サプリメントなどの栄養補助食品からも0.4mgの葉酸を補うことを推奨しています。
1日の葉酸摂取量は、体重55kgの場合、1mg未満であれば過剰摂取に当たらないとされていますが、1~10mgを摂取すると、発熱・蕁麻疹・かゆみ・紅斑・呼吸障害などの葉酸過敏症を引き起こす可能性があります。適量を守って、無理なく葉酸を摂取することが大切です。
妊娠中に必要な1日の摂取カロリーを教えてください。
妊娠中は、非妊娠時よりもエネルギーを多めに摂取することが推奨されています。
▽ 非妊娠時の必要量
- 1700~1750 kcal(身体活動レベル 低い)
- 2000~2050 kcal(身体活動レベル 普通)
- 2300~2350 kcal(身体活動レベル 高い)
例えば、デスクワーク中心の方は身体活動レベル「低い」の必要量を確認しましょう。職場での移動が多い方、接客などの立ち仕事の方は「普通」に、移動が多く、立ち仕事中心の方、あるいはスポーツを習慣的にしている方は「高い」に該当します。
▽ 妊娠期の付加量
- ・妊娠初期:50 kcal増
- ・妊娠中期:250 kcal増
- ・妊娠後期:450 kcal増
上記を目安に、妊娠時期に合わせた適切なエネルギー量を摂取するよう心がけましょう。
450 kcalは、例えば以下のような食品の合計になりますので参考にしてください。
例)
おにぎり1個・豆腐1/2丁・トマト1/2個・りんご1/2個・牛乳をコップ半分ぐらい
参照)厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
妊娠中食べてはいけないもの
注意したい嗜好品
おなかの赤ちゃんは胎盤を通して栄養をもらっていますが、飲酒するとアルコールも同じように運ばれ、赤ちゃんのもとに届き、 胎児性アルコール症候群を引き起こす可能性があります。少量の飲酒でも、妊娠期間中のどの時期でも生じる可能性があり、いまだに安全な基準値が医学的に証明されていません。
カフェインは、妊娠中は胎盤を通して、授乳中は母乳を介して赤ちゃんに届きますが、1日1〜2杯程度なら影響は心配するほどのものではないと考えられます。多く飲む場合にはカフェインレスのほうが安心です。
注意したい食品:
コーヒー、日本茶、紅茶、チョコレート、コーラなど
ノンカフェインの飲みものとしてハーブティーがありますが、妊娠中は避けたほうがよいものもあります。子宮収縮を促すものや神経系へ作用するものです。市販のハーブティーを購入するときは、パッケージの成分表示や注意書きを確認し、「妊娠中は控えてください」と明記されているものは避けましょう。
注意したい栄養素
動物性のビタミンA(レチノール)は、妊娠3カ月くらいまでは、赤ちゃんの成長に影響を及ぼす可能性が高いので、レバーやうなぎなどを毎日、大量に食べ続けたり、サプリメントをとり過ぎないようにします。ときどき食事にとり入れることや、摂取量を守ったサプリメントの利用であれば問題はほとんどありません。
注意したい食品:
レバー、うなぎ、キンダラなど
注意したい食べもの
一部の魚には、比較的多くの水銀が含まれており、偏って大量に食べると胎児の発育に影響を与えることが明らかにされています。しかし、魚は栄養バランスの良い食事には欠かせないものなので、摂取する魚の種類と量について注意しましょう。
注意すべき魚介類の種類と量:
1回80gとして週に1回まで…金目鯛、めかじき、クロマグロ、メバチマグロ
1回80gとして週に2回まで…クロムツ、ミナミマグロ
妊娠中は免疫機能が低下して、リステリア菌に感染しやすくなります。妊婦が感染するとリステリア菌が胎盤や胎児へ感染し、流産を引き起こすことや生まれた新生児に影響が出ることがあります。食品を介して感染する食中毒なので、原因となる食品を避けるようにしましょう。
馬刺し、牛刺し、レバ刺しなどの生の肉を食べると、トキソプラズマ症に感染することがあります。トキソプラズマ症は健康な人がかかると軽度の症状を示すのみですが、妊娠中の女性が感染すると、胎児に重篤な症状をもたらすことがあります。肉を食べる際には十分に加熱することが大切です。
悩みがちな食べもの・飲みもの
加工食品 (ウインナー、ハム) |
塩分や添加物が多めなのでとり過ぎには注意を。 | |
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レトルト食品 | 不足しがちな野菜を足して上手に活用しましょう。 | |
インスタントラーメン | 野菜、卵などを足して食べましょう。スープはなるべく残して。 | |
刺身・魚卵 | 生魚にはまれに食中毒の原因菌が。妊娠中はできれば控えて。 | |
甲殻類 | 食中毒が心配なので、新鮮なものをしっかり加熱して。 | |
キムチなどトウガラシを使った辛い料理 | 刺激が強いのでほどほどに。 | |
カレー | 市販のルウは塩分や脂質が多めなものもあるので、具沢山にしてルウの量を加減して。 | |
味噌汁・スープ類 | 箸が立つぐらい具だくさんにして、汁は少なめに。 | |
洋酒入りスイーツ | 少量ならOK。ほどほどに楽しんで。 | |
チョコレート | 含まれるカフェインは少なめですが、糖分が多く、ポリフェノール(※)も含まれているので、ほどほどに。 | |
スナック菓子 | エネルギー(カロリー)、糖分、塩分が多く含まれていることがあるので、ほどほどに楽しんで。 | |
コーヒー | カフェインやポリフェノール(※)が含まれているので1日1〜2杯程度に。 | |
紅茶 | 1日2杯程度ならOK。 | |
日本茶 | 玉露はカフェインが多めなので控えめに。番茶やほうじ茶はカフェインが少なめ。 | |
ウーロン茶 | ウーロン茶にもカフェインは含まれるので、飲み過ぎには注意を。 | |
100%果汁ジュース | 糖分が多いので、ほどほどに。 | |
野菜ジュース | 通常の野菜不足を補う補助的なものと考えて。加糖、加塩されていないものを。 | |
スポーツドリンク | 糖分と塩分が多めなので飲み過ぎないように。 | |
炭酸飲料(加糖) | コーラなどカフェインが含まれているものも。糖分も多めなので控えめに。 | |
炭酸水 | エネルギー(カロリー)、糖分、塩分が含まれていないのでOK。 | |
甘酒 | アルコールが含まれていないものを選びましょう。糖分が多めなので飲み過ぎには注意を。 | |
栄養ドリンク・滋養強壮剤 | アルコールやカフェインが入っているものがあるので、表示の確認を。 | |
ノンアルコールビール | アルコールをまったく含まないものならOK。表示の確認を。 |
- ポリフェノールは、妊娠後期にたくさんとると、子宮収縮作用や動脈管早期収縮を生じるおそれがあるため、おやつの摂取量にとどめておきましょう。ポリフェノールが含まれるものには、チョコレートとコーヒー以外にもブルーベリー、アサイー、カモミールティー、緑茶、ルイボスティー、ココアなどがあります。

管理栄養士/相模女子大学栄養科学部教授
堤ちはる先生
相模女子大学栄養科学部教授。保健学博士。管理栄養士。日本女子大学大学院家政学研究科修士課程修了、東京大学大学院医学系研究科保健学専門課程修士・博士課程修了後、青葉学園短期大学専任講師、助教授、日本子ども家庭総合研究所母子保健研究部栄養担当部長を経て、現職。調理学、母子栄養学、食育関連分野を 専門とし、妊産婦・乳幼児期の食育に関する研究や、講演会・研修会などの講師を務める。厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」改定に関する研究会委員。