とわ助産院(神奈川県横浜市)産後ケア施設レポート

先輩から引き継がれた助産師魂を次の世代に

とわ助産院の山本院長と神奈川県助産師会の村上会長にお話を伺ってきました。

村上会長「2009年、当時、この地で鈴木助産院を運営していた鈴木おとわ院長がご高齢のため、助産院の運営を閉院されることになり、神奈川県助産師会が引き取らせていただきました。そして、山本院長に助産院の院長をお願いする形で『とわ助産院』を開設いたしました。とわ助産院の『とわ』は、鈴木おとわ院長の『とわ』と、この助産院を”永遠に”存続させたいという意味を込めています。

とわ助産院は会立助産院ですので、山本院長にはとにかく妊婦さんの安全管理を徹底しておこなってもらっています。医療機関との連携も素早く対応してくれるので、安心してお任せしています。助産院というと、院長のカラーがでるところが多いと思いますが、山本院長は助産師会の方針も深く理解してくださっているので、院長のカラーを押し出すのではなく、妊婦さんの安全を優先し、最善を尽くしてくださっていると感じています」

神奈川県助産師会の村上明美会長

山本院長「とわ助産院は常勤の助産師2名、他に非常勤の助産師4名で運営しています。だいたい1カ月に5、6件、年間で40~50件のお産があります。ママと赤ちゃんは出産日を入れて4日間、とわ助産院に入院します。

とわ助産院は、母乳育児、自然分娩などを希望している妊婦さんの利用が多いですね。健康管理も母乳育児もご本人がとても意欲的で自立した方が多いように感じます。産後もお買い物ついでに立ち寄られる方も多いんですよ。ママたちと私たちが密にかかわれるのが助産院の良さだと思っています。病院の場合だと、買い物帰りに助産師に会いに立ち寄るなんてないでしょう?

母乳外来はとわ助産院で出産した方だけではなく、他の産院で出産した方たちも利用されています。1回1時間で4,000円(初診は6,000円)で、おっぱいのトラブル、仕事と母乳育児の両立、断乳についての相談が多いですね。それと同時に育児の悩みも相談される方がほとんどです。中にはお姑さんの愚痴を言って帰られる方も(笑)。

育児の大変さやママの頑張りってなかなか分かってもらえることがないですよね。だからとわ助産院ではママのお話を聞いてあげて、ママが頑張っていることを認めてあげる、つらいことに共感してあげるようにしています。みなさんお帰りのころには笑顔になっている方が多いんですよ。母乳外来は卒乳まで利用していただけるので、なかにはお子さんが3歳になるまで定期的に来られるママもいらっしゃいます」

とわ助産院(助産院・産後ケア施設)の山本年映院長
どこか家庭的な雰囲気がある診察室
お産するお部屋と入院するお部屋は一緒で洋室・和室から選べます

ママに自己肯定感をもってほしい。バースレビューでお産を振り返ります

村上会長「2013年に横浜市が産後ケア事業に着手し、8カ所の助産院でテスト運用を開始しました。開設当初、とわ助産院の産後ケアの利用者は年間20数名でしたが、現在は年間30~40名が利用されています。横浜市民であれば横浜市から6泊7日まで助成金がでるため、6泊7日で利用される方が多いですが、日帰り利用の方もいらっしゃいます」

産後ケア施設の2階は入院部屋。天井は子宮をイメージしているとのこと

山本院長「とわ助産院の産後ケア施設は、産後4カ月まで利用していただけるのですが、出産した産院を退院してそのままこちらに来られる方が多いですね。高齢出産が増えているため、その方自身の体力の問題だけでなく、ママやパパの親が高齢のために育児のサポートが得られない方、母乳育児にしたいが理想どおりにいっていない方、帝王切開の傷が回復していない方などさまざまです。そのほか、産後の回復が思わしくない方や産後のサポートがない方に、出産した産院側が心配してとわ助産院の産後ケア施設の利用を促すこともあります。

朝、とわ助産院にママが到着したら、どんなことを求めてこちらに来られたかを確認します。体の回復のためという方もいれば、母乳育児を軌道にのせるためなど来院目的はさまざまなので、その目的に沿ってケアをしていきます。帝王切開の影響で足がむくんでいたらオイルマッサージなどもします。そのためすべてひとり一人に合った個別の対応で、決まった対応というのはありません。

病院に入院中は沐浴指導や退院指導が主で、なおかつ集団指導であることが多く、退院後に何を教わったんだろう…となるママたちも多いようです。病院のスタッフから『20ccミルクを足して』と言われても、赤ちゃんが飲まないからどうしたらいいんだろうと悩んでしまったり。でもとわ助産院に来てもらえれば『おっぱいがでるようになったからミルクを飲まなくなったんだよ』とママに一言伝えてあげられます。

ママから休息を取りたいという希望があれば、授乳の後に夜2、3時間赤ちゃんを預かることもあります。でも、預かりすぎると今度はママたちがご自宅に戻ってから困ってしまうので、そうならないようバランスをとりつつ対応するのが私たちの腕の見せ所でもあります」

山本院長「また『バースレビュー』という、お産を振りかえる時間をもつことをとても大切にしています。通常、出産した後はバタバタしてお産を振り返る時間があまりとれないですよね。でも、ちゃんと振り返らないと、自然分娩を希望していたけれど帝王切開となったり、生まれた赤ちゃんが少し小さめで保育器などで処置を受けたりなど、希望通りのお産ができなかったママは、自分を責めたり、後悔したりして、お産自体が心の傷として残ってしまうんです。

なかにはその後ずっと引きずってしまい、子どもを責めてしまうママもいます。そうならないように助産師は、今回のお産についてママに語ってもらい、何ができなかったと思っているのかを把握し、分娩時のご本人の頑張りや意思決定は赤ちゃんを守るために価値があったことを伝えて気が付かせてあげるんです。そうやって自分のお産を肯定感的にとらえることができると、とても前向きになれるんです。お産を肯定的にとらえること、誰かに認めてもらえること、自分自身が誰かに大切にされたと思える体験は、その後の育児をしていくうえで本当に大切なこと。だから入院後は必ず一緒にバースレビューをしています。

そして、一人ひとりの状態を探るために、私たち助産師はこの”手”でママたちの身体に触れるんです。というよりついつい無意識に手がのびてしまうんです(笑)。身体を触ると、緊張度、冷え、肩のコリ、足のむくみなど、あらゆることがわかります。もちろんおっぱいを触ることもあります。廊下で会ったからあいさつしただけのつもりなのに、話しているうちに気づいたら助産師がママの身体のどこかを触っていることがしょっちゅうあります。ママたちも慣れているので全く嫌がりません。嫌がるどころか、『ここを触って!』と喜んでくれるママ、触られてホッとしているママも多いように思います」

村上会長「本当に助産師はいつも妊産婦の身体のどこかに触れていますよね。助産師の手って本当に特別。その手を介してわかることがたくさんありますし、とても温かい。助産師の手のもたらす力って本当にすごいんですよ」

ロビーには助産院の実績や助産師のアイテム、写真などが飾られています

赤ちゃんとママの災害避難所になること、女性の一生をサポートできるようになることが当面の目標です

山本院長「とわ助産院が災害時のママと赤ちゃんの避難所になれるよう、現在、横浜市と協力してそのための準備を進めています。一般の避難所は共同生活になり、さまざまな方がいるので、子育て中や妊娠中の方はより一層ストレスを感じてしまいます。

助産院がママと赤ちゃんの避難所になれたら、避難中であっても気兼ねなくおむつ替えも授乳もできますし、赤ちゃんがどれだけ泣いてもお互いさまと思えるでしょう?そんなママと赤ちゃんがストレスなく過ごせる避難所がこの社会で必要だなと昨今の災害を通して痛感しています。だからこそ、ここがそんなふうになれるよう働きかけているところです」

村上会長「神奈川県助産師会会長として、わたしが考えていることは2つあります。1つは助産師の存在をもっと世の中に広めること。まだまだ助産師は社会での認知度が低いため、助産師の役割や、どこにいったら助産師に会えるのか知らない方がとても多い。もっと助産師の存在や役割を社会にアピールしなくてはいけないと思っています。

2つめは、助産師が女性の一生をサポートする存在になるということです。助産師を英語では『midwife』と言います。訳すと『いつも女性とともにいる人』です。つまり助産師は、出産や育児中の女性だけでなく、思春期や中高年、高齢女性も含め、女性の一生に付き添うのが本来の役割なんです。女性には更年期もあります。女性が更年期症状を我慢するとか、単に薬を内服するという対処ではなく、もっと前向きに食事や運動などの生活を工夫することで、更年期症状の改善が期待できます。超高齢社会において高齢女性が自立して楽しく元気に美しく健康に過ごせるような社会になっていくのが理想です。助産師がウィメンズヘルスサポーターとして女性の一生を支える存在になっていきたいと思っています」

山本院長「私たちは安全管理を第一に、ママに寄り添った温かいケアを心がけています。お気軽に立ち寄りください。お待ちしています」

産後ケア施設「とわ助産院」の概要

横浜市産後母子ケア事業の利用の場合

<提供サービス>
  • お母さんのケア
    健康管理や乳房ケアなど
  • 赤ちゃんのケア
    発育や発達のチェック、体重や排便のチェックなど
  • 育児の指導、相談
    授乳や沐浴方法、育児相談など
<ご利用いただける方>

以下の条件全てに該当する方(育児状況や産後の援助の状況等を審査したうえで、利用の可否を判断します。)

  • 産後4か月未満のお母さんと赤ちゃん
  • 横浜市民の方
  • 育児不安などから自宅での育児に支障がある方
  • 家族などから産後の支援が受けられない方
  • サービス利用時に母子ともに治療中の疾患がない方
<ご利用料金>
  • 日帰り型 9時~17時(昼食付)1日2,000円
  • 宿泊型  9時~翌19時(昼食2回・夕食・朝食付)1泊2日6,000円(その後1日追加ごとに3,000円追加)

※それぞれ7日間まで(利用日数は産後の援助の必要性を踏まえて、鶴見区福祉保健センター長が決定します)。

※市民税非課税世帯及び生活保護世帯は、利用料金は免除されます(証明書が必要です)

<お申し込み>

鶴見区福祉保健センターこども家庭支援課(育児状況や産後の援助の状況等を審査し、利用決定(不決定)通知をお送りします。)

電話 045‐510‐1850

横浜市産後母子ケア事業についてはこちら:
http://www.city.yokohama.lg.jp/kodomo/katei/sangoboshikea/

自費でご利用される場合

<ご利用料金>

30,000円×日数

<お申し込み>

要予約。2日前までにご予約ください。
電話: 045-834-7556

※事前の見学も受け付けています

ベビーカレンダー編集部


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