【医師監修】妊娠中の腹痛の原因と対処方法
妊婦さんにとって、気になる症状の1つに腹痛があります。妊娠中に起こる腹痛にはさまざまなものがありますが、妊婦さんのなかには、赤ちゃんに何か起こったのではないかと不安になる方もいらっしゃると思います。今回は妊娠中に起こる腹痛について、その種類や原因、腹痛が起こったときの対処法、そして注意が必要な腹痛について解説します。
- 【目次】
- ・妊娠中の腹痛の原因
- ・妊娠中の腹痛の対処方法
- ・注意が必要な腹痛を見分けるポイント
- ・まとめ
- ・腹痛に関するQ&A
妊娠中の腹痛の原因
妊娠中に起こる腹痛は、妊娠に伴う体の変化によって起こる自然なものと、できるだけ早い対処が必要なものとに分かれます。妊婦さんに起こりうる腹痛の原因として次のことが考えられます。
妊娠に伴う体の変化によって起こる自然なもの
■便秘
便秘の腹痛は、おなかが大きくなる妊娠末期に特に起こりやすく、便秘の腹痛を陣痛と間違える方も珍しくありません。
妊娠すると、女性ホルモンのプロゲステロンの分泌量が増えます。プロゲステロンは、おなかが張りを抑え、赤ちゃんの成長に合わせて子宮が大きくなるように子宮の筋肉を緩く保つ働きがあります。しかし、プロゲステロンは、子宮だけでなく子宮と同じ種類の筋肉である消化管の活動も抑えてしまうため、消化管の動きが悪くなります。さらに、妊娠の経過で子宮が大きくなってくると胃や腸を圧迫してしまうようになります。
このようなことから、食べた物の消化に時間がかかるようになり、また食べた物が消化管を通るのにも時間がかかるようになるのです。妊婦さんは便やガスが貯まりやすくなり、腹痛として感じることがあります。
■おなかが大きくなることによるもの
おなかが大きくなると、腹筋やおなかの皮膚が大きく引き伸ばされるために、おなか全体、もしくは下腹部あたりに痛みを感じる妊婦さんがいます。これは、おなかが大きくなってくる妊娠中期以降に起こります。
■前駆陣痛
妊娠9カ月以降、いよいよ出産が近くなってくると、不規則な腹痛が起こることがあります。おなかが張るような痛みを感じる方もいれば、腰が痛いと感じる方もいます。前駆陣痛は、分娩に向けての準備が始まっているというサインです。
できるだけ早い対処が必要なもの
■異所性妊娠(子宮外妊娠)
受精卵は、通常であれば子宮体部の内膜に着床します。しかし、なかには受精が成立したあと子宮体部の内膜にたどり着く前に、卵管やそれ以外の場所で着床してしまうことがあります。このような妊娠を異所性妊娠といいます。
異所性妊娠の場合は、妊娠初期に下腹部に痛みが出たり治まったりする症状が現れることがあります。現在は早期に診断ができるので少なくなりましたが、卵管で赤ちゃんを覆う袋(胎嚢)が成長し続けると、卵管の壁が破れてしまうケースもあります(卵管破裂)。卵管破裂では、強い腹痛と多量の出血がみられます。
■流産や切迫流産
妊娠22週未満で妊娠が終わってしまうものを流産といい、流産が考えられるときには下腹部に痛みを感じる場合が多くあります。
流産にもいくつか種類があり、すべてに腹痛が起こるわけではありません。稽留流産(けいりゅうりゅうざん)は自覚症状がないことが多く、出血があってもわずかであることから、妊婦さん自身も流産したことに気づかない場合もあります。しかし、稽留流産以外では、流産が起こると腹痛と出血が続きます。流産までいかないけれど、流産の危険性が高くなっている切迫流産は、流産に比べおなかの痛みも出血も少ないと言われています。
■切迫早産
切迫早産とは、妊娠22週0日〜36週6日であるにも関わらず、おなかの張りがあり、子宮口が開き始めている状態を言います。切迫早産では陣痛と同じく規則的なおなかの張りがあり、下腹部に痛みを感じるようになります。また、おしるしのような出血や破水を伴うこともあります。
■羊水過多症
羊水は妊娠週数が進むにつれて増加し、妊娠30週ごろがピークで、出産予定日ごろには減ってきます。妊婦さんのなかには、何らかの原因で羊水が多くなりすぎてしまう方がいて、羊水の量がおよそ800mlを超えると羊水過多症と診断されます。羊水が増えて大きくなった子宮によりおなかが張るため、おなかの比較的浅い部分で痛みを感じる方がいます。
■常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)
分娩が始まっていないにも関わらず、胎盤の一部が子宮から剥がれ始めてしまう状態のことを常位胎盤早期剥離といいます。
常位胎盤早期剥離は妊娠30週〜36週で起こることが多く、突然下腹部に痛みを感じ、おなかが張るようになります。進行するまでは妊婦さんが自覚できる出血は少ないのですが、実は剥がれた胎盤と子宮壁の間に血液が溜まっています。軽症では自覚症状があまりなく、あっても軽い下腹部痛やおなかの張り程度で、出血もわずかです。
妊娠中の腹痛の対処方法
ここでは原因別に対処の方法について分けて解説します。
妊娠に伴う体の変化によって起こる自然なもの
■便秘
便秘による腹痛は、やはり便秘を解消することです。安定期に入ったらウォーキングやマタニティヨガなどの運動を取り入れ、腸の動きを助けるようにします。食物繊維を多く含むものを消化しやすいように刻んだり煮込んだりするなどして調理し、積極的に食べるようにしましょう。また、妊婦さんは汗をかきやすいので、水分も意識してとりましょう。
妊娠前から便秘だった方や食事や運動でも改善しない方は、病院で相談すると赤ちゃんに影響のない便秘薬が処方してもらうこともできるので聞いてみましょう。
■おなかが大きくなることによるもの
赤ちゃんの成長にともなって子宮はどんどん大きくなり、おなかに合わせて腹筋やおなかの皮膚も伸びるようになりますが、妊婦さんによっては大きくなるおなかのペースにおなかの皮膚がついていけないこともあります。普段からおなか周りの保湿をしっかりおこない、皮膚が潤っているようにしましょう。保湿されている皮膚は柔軟になりますから痛みが少なくなる可能性があります。
また、立って過ごす時間が長いなど、同じ姿勢を続けると赤ちゃんと子宮の重さがかかる方向に負担がかかるため、その部分の腹筋や皮膚が引っ張られて痛みが生じやすくなります。その場合は、一時的な対処にはなりますが、横になって休む時間を作るなどしましょう。
■前駆陣痛
前駆陣痛は、分娩が始まる前の準備のようなものです。もしかして陣痛かもしれないと焦ったり不安になったりするかもしれませんが、前駆陣痛は本来の陣痛と違い、しばらく続いたかと思うとおさまり、また始まったりと痛みの起こる間隔が不規則です。しばらく様子を見て、陣痛の場合はだんだん痛みが起こる間隔も定まり、短く強くなってきますので、10分以内の規則的な痛みの場合は病院に連絡しましょう。
できるだけ早い対処が必要なもの
・子宮外妊娠
・流産や切迫流産
・切迫早産
・羊水過多症
・常位胎盤早期剥離
これらが原因となっている場合には、病院で検査や診断を受けて治療を開始する必要があります。
痛みがあるときは横になって休み、痛みが強くなることがなく休めば治まる程度のものであれば様子を見ますが、痛みを感じるようであれば、早めにかかりつけの医師に状態を説明しましょう。
注意が必要な腹痛を見分けるポイント
次のような場合には、妊婦さん自身や赤ちゃんに何らかの問題が生じている可能性があるので、できるだけ早く診察を受ける必要があります。
・おなかの痛みが治まらない
・おなかの痛みが強くなっている
・おなかが硬く張ったままである
・出血が続いている(少しでも持続していれば注意)
・腹痛以外にも気分が悪い、頭痛、動悸がする、貧血のような感じがするなどの症状がある
上記の場合、病院で必要な検査をおこない、必要であれば通院もしくは入院して治療をおこない、体調を管理することになります。妊娠週数にもよりますが、緊急の場合には帝王切開で出産となることも考えられます。母子ともに元気であっても、いつ何が起こってもおかしくないのが妊娠と出産です。普段から自分の体調をチェックし、体調が悪いときには無理をしないことが大切です。
まとめ
妊娠中はさまざまな理由から腹痛が起こることがあります。腹痛のなかには、自分で対処できるものとそうでないものがありますが、妊娠中の腹痛のなかには母子の健康に問題が生じているものもあります。妊娠の継続や出産、次の妊娠にも影響を与える可能性がありますので、体を休めても腹痛が治まらないときや、腹痛以外の症状も出ていて具合が悪くなってきた場合などには、すぐに病院に相談してみましょう。