原則として身体介護は資格無しではできない
訪問介護員(ホームヘルパー)として働くには、基本的に介護の資格が必要です。ホームヘルパーは患者の自宅を1人で訪問し、食事や入浴、排泄などの介護を提供する仕事です。身体に直接触れて行う介護は専門知識と技術を要するため、法律上も資格を持った人でなければ提供できません。最低でも「介護職員初任者研修」(旧ホームヘルパー2級)を修了していれば、訪問介護で生活援助から身体介護まで一通り行えます。無資格のままでは、患者の体に触れる介助を基本的に任されないため、訪問介護員として継続的に働くつもりであれば早めに資格を取得する必要があります。
コロナ禍の臨時措置は終了している
2020年に新型コロナウイルス感染症が拡大した際、介護現場の人手不足に対応するための特例措置が設けられました。介護職の実務経験がある無資格者に限り、緊急時にホームヘルパーとして身体介護を行うことが一時的に認められました。あくまで非常時の臨時措置なので、現在はすでに終了しています。今後同様の特例がない限り、ホームヘルパーとして働き続けるには正式な資格取得が求められるでしょう。
介護施設でも資格無しでは働けない
介護施設であっても原則として無資格で介護職に就くことは難しいのが実情です。施設では資格がない人を補助スタッフとして採用する場合もあります。その場合も、必ず有資格の先輩職員が指導・監督し、無資格者は補助的な業務に留まります。また、2024年からは「認知症介護基礎研修」の受講が義務化されるなど、施設・在宅を問わず介護に携わる人は一定の研修受講が必須となりました。たとえ無資格で介護職に就職できたとしても、働き続けるためには決められた期間内に必要な研修を修了しなければなりません。つまり、施設介護であっても無資格のまま長期に働き続けることはできず、いずれ資格や研修をクリアすることが求められます。
無資格OKの訪問介護の求人もある
基本的には資格が必要ですが、実際には「無資格OK」と記載された求人も存在します。介護業界は慢性的な人材不足に陥っており、人手確保のために未経験・無資格者を歓迎する事業所も増えてきました。厚生労働省の調査でも、訪問介護員の数%は資格を持たないまま従事しています。無資格OKの求人を出す事業所は、入社後に資格取得を支援してくれたり、研修を受けながら働ける体制を整えていることが多いです。「資格はないけれど介護の仕事に挑戦してみたい」という人に門戸を開き、働きながらスキルを身につけてもらおうという狙いです。ただし、無資格で採用された場合でも、最終的には資格を取得することが前提です。事業所から資格取得支援金や研修の時間調整といったサポートを受けつつ、働きながら必要な資格を目指す流れになります。無資格OKの求人は、あくまで人材確保の入口であり、将来的には資格取得まで視野に入れて就業することになる点を理解しておきましょう。
資格無しで訪問介護に就職したときの仕事内容
無資格のまま訪問介護事業所に就職できた場合、いきなり一人前のホームヘルパーとして患者宅で介護を任されることはありません。資格を取得するまでの間は、資格がなくてもできる範囲の業務を中心に担当することになります。具体的には以下のような仕事内容からスタートするケースが一般的です。
家事や見守りなど介護保険適用外のサービス
生活援助や見守りといった、自費扱いのサービスを担当します。事業所によっては保険外の独自サービスを提供していることがあり、介護保険適用外の家事支援であれば無資格者でも従事可能です。具体的には、患者のご自宅で部屋の掃除や洗濯、食事の準備、買い物代行といった家事全般のお手伝いをする仕事があります。また、高齢の患者の傍について話し相手になったり見守ったりすることもあります。草むしりやペットの世話など、介護保険では対応できない依頼を引き受けることもあるでしょう。こうした業務は直接身体に触れる介助ではないため無資格でも任されやすく、生活援助を通じて患者との接し方や現場でのマナーを学ぶ良い機会にもなります。
介護施設での介護業務
就職先の事業所がデイサービスや有料老人ホーム、グループホームなどの介護施設を併設・運営している場合、働きながら介護の基礎を学ぶケースもあります。訪問介護は基本的に1対1のケアですが、施設内介護であれば複数のスタッフで患者を支援するチーム体制です。そのため、無資格の新人でも先輩職員に付き添って実践を学びやすい環境となっています。施設では食事の配膳下膳やシーツ交換、移動の見守りなど簡単な業務から始め、徐々に食事介助・排泄介助などの身体介護の補助にも携わることができます。施設で介護スキルを身につけつつ、並行して資格講座に通ったり勉強したりすることで、より知識が定着しやすくなるメリットもあります。十分な現場経験を積んでから資格を取得すれば、自信を持って訪問介護の仕事に移行できるでしょう。
有資格者の訪問介護への同行
無資格で訪問介護事業所に入社した場合、先輩ヘルパーの訪問に同行して補助業務を行うのが一般的です。経験豊富なホームヘルパーに付き添い、患者宅での介護の手順やコツを現場で学びます。具体的には、先輩が身体介護をしている横で物品を渡したり、入浴後の後片付けを手伝ったり、食事介助の際に簡単なサポートを行ったりします。直接患者の体に触れる介助そのものはできませんが、その周辺業務を担いながらプロの技術を間近で見て覚えていきます。訪問先での立ち居振る舞いや患者との接し方など、座学だけでは学べないスキルを身につけられる貴重な機会です。資格取得までの間は常に先輩の同行のもとで業務を行い、独り立ちできるようになるまで徐々に経験を積んでいきます。働きながら研修を受講して資格を取得すれば、晴れて一人で患者宅を訪問できるようになります。このように同行期間中は「研修生」として位置付けられるため、焦らずじっくり現場経験を積むことが大切です。
事業所での事務作業
訪問介護の仕事は患者宅での介助だけではなく、事業所内での事務的な業務も発生します。無資格で直接介護業務ができない間は、事務所内でスタッフの一員として内勤業務を任される場合もあります。具体的には、電話対応、スケジュール調整、記録の整理、介護に使う備品の在庫管理・発注などです。こうした事務作業は介護の資格がなくても可能な仕事であり、事業所運営になくてはならない役割です。現場経験前に事務を経験しておくことで、訪問介護サービス全体の流れを把握しやすくなる利点もあります。また、患者やその家族と電話でやり取りする中で、コミュニケーションの取り方や介護現場のニーズについて学ぶこともできるでしょう。事務所で働きながら先輩ヘルパーの活動をサポートし、介護への理解を深めつつ資格取得の勉強を進めるといった形で経験を積む人もいます。
訪問介護で資格が必要な仕事の内容
前述のとおり、訪問介護において資格のない人には任せられない仕事があります。具体的に資格が必要な業務として代表的なものを挙げると、以下のようなものがあります。
- 食事介助
- 入浴介助
- 清拭(せいしき)
- 排泄介助
- 更衣介助
- 体位変換
- 移動・歩行介助
- 通院等の付き添い
患者の身体に直接関わる介助は、高い専門性と安全配慮が必要な業務です。介助方法を誤ると患者の身体に負担をかけたり事故につながったりする恐れがあるため、単独で担うには一定の資格・研修を修了していなければなりません。訪問介護は基本的にヘルパー1人で患者宅に伺うため、現場で即座に適切な判断・対応ができるスキルが必要です。有資格者であれば、研修で学んだ知識や技術に基づき、安全かつ適切に身体介護を提供できます。反対に無資格のままでは法律上もこうした身体介護を行うことは許されていません。なお、訪問介護には「生活援助」と呼ばれる掃除・洗濯・調理などの業務も含まれますが、生活援助だけであっても介護保険サービスとして提供する場合は原則的に資格が必要です。
訪問介護に必要な資格の種類
訪問介護で役立つ・必要とされる資格にはいくつか種類があります。それぞれ取得までの難易度や学ぶ内容、携われる業務範囲が異なります。ここでは訪問介護員を目指すうえで知っておきたい主な資格・研修について説明します。
生活援助従事者研修
生活援助従事者研修は、比較的新しく創設された研修制度です。この研修を修了すると、介護保険サービスにおいてホームヘルパーとして「生活援助」業務のみ従事できます。生活援助とは、患者の日常生活を支えるための掃除・洗濯・調理・買い物代行などの家事援助サービスです。したがって、生活援助従事者研修を修了しても入浴介助や排泄介助などの身体介護を行うことは認められません。あくまで家事支援専門のヘルパーとして活動できる資格と考えるとよいでしょう。研修のカリキュラムは概ね59時間程度と短期なので、比較的取得しやすいのが特徴です。ただし、開講しているスクールがまだ多くないため、地域によっては受講先を見つけにくい場合もあります。「ひとまず生活援助の仕事だけでも始めてみたい」という人には良い入り口となる資格ですが、将来的に身体介護も担いたい場合は次に述べる初任者研修の取得を検討すると良いでしょう。
介護職員初任者研修
介護職員初任者研修は、介護分野の入門資格として位置付けられる代表的な資格です。2013年に創設されたもので、以前の「ホームヘルパー2級」に相当します。130時間のカリキュラムを修了し、修了試験に合格すると取得できます。初任者研修を取得すれば、訪問介護で生活援助だけでなく身体介護も提供可能となります。ホームヘルパーとして必要な基本的業務を一通り担えるようになるため、訪問介護の仕事に就くうえでは実質的な必須資格といえます。講座内容は、高齢者や障害者の基礎知識、介護の具体的な方法、緊急時の対応、コミュニケーションの取り方、介護記録の書き方など多岐にわたります。難易度はそれほど高くなく、未経験からでも十分に理解できる内容なので安心してください。働きながら夜間や週末に通学して取得する人も多く、自治体や事業所の補助によって受講費用が無料または割引になる制度もあります。初任者研修を修了していると求人の幅も大きく広がり、無資格と比べて採用や待遇面で有利になることが多いです。そのため、訪問介護の仕事に本格的に取り組みたい方はまず初任者研修の取得を目指すことをおすすめします。
介護福祉士実務者研修
介護福祉士実務者研修は、初任者研修よりも上位に位置する資格です。450時間程度のカリキュラムが組まれており、無資格から全カリキュラムを受講する場合は6ヶ月以上かかります。実務者研修では、初任者研修で学ぶ基礎に加えて、より専門的・実践的な内容を習得できるでしょう。たとえば、患者ごとの介護計画の立て方、介護過程の展開、より高度な介護技術、さらには喀痰吸引や経管栄養といった一部の医療的ケアの知識・技術も含まれます。実務者研修を修了すると、訪問介護員として生活援助・身体介護の両方を行えるのはもちろん、サービス提供責任者の任用要件を満たせます。サービス提供責任者とは、事業所において訪問介護計画の作成やヘルパーたちの指導・育成を担うリーダー職です。将来的に訪問介護事業所でリーダーとして活躍したい方、あるいはさらに上位の介護福祉士資格の取得を目指す方にとって、実務者研修はぜひ修了しておきたい資格といえるでしょう。修了までに時間はかかりますが、その分幅広い知識と技能が身に付き、キャリアアップにつながります。
介護福祉士
介護福祉士は介護分野で唯一の国家資格です。介護職としてのスキルと知識を証明する資格であり、現場での信頼度も非常に高いです。取得するには国家試験に合格する必要がありますが、受験資格を得るために「養成施設ルート」か「実務経験ルート」の2つがあります。養成施設ルートでは福祉系の専門学校や短大などで2年以上学び卒業すると受験資格が得られるでしょう。実務経験ルートでは、介護施設や在宅介護などで3年以上の実務経験を積んだうえで実務者研修を修了すると受験資格が与えられます。介護福祉士の資格を取得すると、サービス提供責任者や施設のリーダー・管理者などあらゆる介護職で重宝されます。訪問介護事業所によっては、管理者やサービス提供責任者の配置要件として「介護福祉士であること」が求められることもあります。そのため、将来的に介護業界で長く働きキャリアアップしたい方は介護福祉士の取得を目指す価値が大いにあります。試験合格までのハードルは他の研修に比べ高いですが、取得後は資格手当がついたり昇進のチャンスが増えたりと待遇面でもメリットが大きい資格です。
重度訪問介護従業者養成研修
重度訪問介護従業者養成研修は、主に重度の障がいをお持ちの方の自宅で介護を行うための専門研修です。高齢者向けの介護保険サービスではなく、障害福祉サービスの一つである「重度訪問介護」の従業者になるための資格といえます。重度訪問介護では、常に介助が必要な障がい者の方の日常生活全般を支援します。この研修は大きく基礎課程・追加課程・統合課程の3段階に分かれており、それぞれ2〜3日程度で修了できる短期集中のカリキュラムです。
- 基礎課程:比較的軽度な障がい区分(区分4・5)の患者に対する支援の基礎
- 追加課程:最重度(区分6)の方への支援や緊急時対応について学習
- 統合課程:喀痰吸引や経管栄養などの医療的ケアも含めて包括的に学習
特別な資格要件はなく、介護未経験の人でも受講可能です。研修を修了すれば、無資格からでも重度訪問介護のヘルパーとして働けます。重度訪問介護従業者養成研修で学ぶ内容は、長時間にわたる見守りやコミュニケーション支援など、障がい者支援特有の知識も含まれます。すでに介護職員初任者研修や実務者研修、介護福祉士などを持っている場合は、それだけで重度訪問介護の従業者要件を満たせます。障がいをお持ちの患者の在宅生活を支える重度訪問介護はニーズが高まっており、この研修を修了した人材も不足しているため、取得しておくと活躍の場が広がる資格の一つです。
資格無しの訪問介護職員の給料の目安
介護の仕事は他業種と比べると高収入とはいえませんが、資格の有無によっても収入には差が出ます。一般的に、無資格よりも有資格者のほうが高い給与設定となります。無資格で介護職に就いた場合、パート・アルバイトであれば地域の最低賃金に近い水準、時給にしておよそ950~1050円前後からのスタートが一般的だと考えましょう。介護職員初任者研修などの資格を取得すると、時給が100~200円程度上乗せされる求人が多く、だいたい時給1100~1300円程度に上がります。また、夜早朝や深夜、祝日などは割増賃金になるため勤務時間帯によっても差がありますが、基本給ベースで見ると資格の影響は無視できません。
正社員の場合でも、無資格者と有資格者では月給に明確な差があります。厚生労働省の調査によれば、資格を持たない介護職員の平均月給は約27万円、これに対して初任者研修修了者は約30万円、介護福祉士では約33万円と報告されていました。月収ベースで無資格と初任者研修では数万円、無資格と介護福祉士では5万〜6万円以上の差がある計算です。実際の給与体系でも、多くの事業所で「初任者研修修了で月○円アップ」「介護福祉士取得者は月○円の手当支給」といった資格手当が支給されます。さらに有資格者は昇進・昇給のチャンスにも恵まれやすく、結果として年収にも開きが出てきます。
訪問介護の仕事を長く続けていくならば、早いうちに初任者研修以上の資格を取得しておくことが将来の自分のためにもなるでしょう。資格を取ってスキルアップすることで、任される仕事の幅が広がり、患者から感謝される場面も増えるでしょう。加えて給料面でもメリットを享受できれば、生活の安定にもつながります。無資格からスタートする方も、ぜひ前向きに資格取得を目指してみてください。そうすることで、訪問介護の現場でより充実して働けるでしょう。