そんな暮らしは長くは続きません。結婚してしばらくして、遺産が尽きたよう。後先考えずに使っていたツケが回ってきました。
すると義父と義姉は、夫にお金をせびるようになりました。わが家に押しかけてきて、玄関先で「お金を貸してくれ、家族が困っているのに知らんぷりするのか」と強い口調で詰め寄られることもしばしば……。
ご近所さんの手前、とても恥ずかしいのですが、居留守を使って彼らが帰るのをじっと待つことしかできませんでした。
義姉が態度を変えたワケ
そんなある日、突然状況が一変する出来事が起こります。義姉の婚約が決まり、義父と義姉からお金をせびられることがなくなりました。どうやら結納金をもらったようです。
これは私たちにとってありがたい展開。気は進まないものの、義姉から「絶対に来るように」と言われた両家の顔合わせに出席しました。
婚約者である彼は、地主の家に生まれた根っからのお金持ちで医師として働いています。「完全にお金目当てね……」私たち夫婦は、そっと顔を見合わせました。義姉の魂胆は丸わかりです。
さらに、みんなで話をしていると、義姉の婚約者が私の兄の同僚であることが判明しました。兄は婚約者が尊敬する先輩医師とのこと。それを知った義姉はころっと態度を変えました。
今まで横柄な物言いしか聞いたことがないのに、“超”がつくほど丁寧な話し方をし始め、「雰囲気がとても素敵なご家庭で……」と、私の家族を過剰に褒めてくるのです。
結婚式とお葬式
そんな兄も、まもなく結婚式を控えています。しかし結婚式まで数日というある日、思いもよらぬ出来事が起こってしまいました。義父が事故で急逝し、その葬儀と兄の結婚式の日程が見事に重なってしまったのです。
夫婦で相談した結果、私が兄の結婚式へ、夫が義父の葬儀へ出席することにしました。
しかし当日、私が欠席だと知った義姉はすぐに連絡をよこし「嫁が義父の葬儀を欠席することは許されない。すぐにこい!」と、強い調子で責め立ててきたのです。
私は、丁寧に謝罪して電話を切り、スマホの電源を落としました。
結婚式に乱入
兄の結婚式は穏やかにスタートしました。しかしフラワーシャワーをしようと外に出た瞬間、喪服姿の義姉が乱入。新郎新婦を無視して私に強い口調で詰め寄り、葬儀に来るよう迫ってきたのです。
駆けつけた式場スタッフに制止された義姉は、そのまま会場の外へ誘導されましたが、フラワーシャワーが微妙な雰囲気になってしまったことは否めません。兄に申し訳ない気持ちでした。
なぜそこまでして、義父の葬儀に私を連れていきたかったのでしょうか……。欠席させていただいたけれど、義父を弔う気持ちはきちんと持っています。嫁に行った私が自分の家族の予定を優先させたから? それとも私へ強く出たいだけだったのでしょうか。私には理解できませんでした。
披露宴も終わりお客様も帰ったころ、再び義姉がやってきました。一緒にいるのは義兄(義姉の夫)です。また揉め事か……とため息をつくと、義兄が兄と兄嫁に平謝り。促されて義姉も頭を下げています。
どうやら兄の招待客の中に、義兄とも面識のある同僚がいたようです。その人が義姉の起こした騒ぎを動画に撮り、義兄へ送ったとのことでした。
調子にのった義姉
夫の話では、義兄は葬儀が終わってスマホを確認した途端、表情を硬くして席を立っていったそうです。きっとスマホに届いていたメールを見たのでしょう。驚きの速さで葬儀場を飛び出し、喪服を着替えて急いで結婚式場に向かったようです。
兄夫婦は驚きこそしたものの、義姉の行動を「過ぎたことだから」と受け止め、穏やかに許してくれました。そこで義姉が素直に頭を下げれば、終わりだったはずです。
しかしやさしい兄夫婦の態度に気をよくしたのか、義姉は途端に表情をゆるめ、まるで自分が被害者であるかのように、私へ説教を始めたのです。
「本来嫁なら義実家を優先すべきでしょ? 嫁がいない結婚式なんて恥ずかしかった! 今回みたいなこと、次は許されないからね!」
その瞬間、義兄の顔色が変わりました。慌てて義姉を押さえ、兄夫婦に何度も頭を下げて謝り続け、義姉を引きずるようにして会場を後にしたのです。
義姉夫婦が去ったあと、兄も兄嫁も苦笑するしかありませんでした。
義姉の末路
この出来事をきっかけに、義姉夫婦は正式に離婚することになりました。今回の乱入騒動だけが原因ではありません。以前から義姉の非常識なふるまいに悩まされ続けていた義兄は、ついに限界を迎えたのだそうです。
義姉は取り乱して夫に縋ろうとしましたが、彼の決意は固く、調停も淡々と進みました。
義姉に甘かった義父ももういません。気付けば義姉の周りには、誰一人味方はいなくなっていたのです。もちろんわが家も義姉を助けるつもりはありません。
◇ ◇ ◇
今や結婚は「家同士」ではなく「個人同士」がパートナーとして支え合うもの。互いの事情や気持ちを尊重することが、良い関係を続ける秘訣なのかもしれませんね。
そして、家族であっても距離の取り方はそれぞれです。相手の領域を尊重し合える関係が続けば、無理のない付き合い方ができるのだと感じました。
【取材時期:2025年11月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。