5億円規模の案件を持ち帰った日
ある日、私は長く交渉してきた建設関連の大型案件を会社に持ち帰りました。規模は約5億円。急いで発展担当者のBさんへ報告に行き、「こちらが案件資料です」と差し出しました。
すると、コーヒーを片手にスマートフォンを見ていたBさんは、書類を見るなり「すごいじゃないか!」と大げさに驚き、自分が担当として上司へ報告すると言いました。
私はその場では黙っていましたが、「この調子では、また成果を自分のものにされてしまうな……」と、複雑な気持ちになりました。
ふと視線を感じて顔を上げると、少し離れたところから一人の女性がこちらを見ていました。落ち着いたまなざしで、社内の空気を探っているような印象でした。見たことがない方でしたが、秘書室の人と話していたため、会社の関係者のように思えました。
営業部の停滞と、思わぬ人物の正体
数週間後、新規案件を獲得するため出張準備をしていた私は、Bさんから突然強い口調で呼ばれました。
「最近、まったく案件を取ってこないじゃないか!」
そこへ部長も加わり、「早く契約を増やしてくれないと困る」と不満を口にしました。そのとき、背後から落ち着いた声が聞こえました。
「あら……彼が持ってこないと、お二人ともお手すきになってしまうんですね」
振り返ると、以前こちらを見ていた女性が立っていました。部長が驚いたように声を上げました。「社長のご家族の……来週、社長に就任されるAさん……?」。女性は静かにうなずきました。
「今日は社内の様子を見学させてもらっていました。普段の働き方を知っておきたくて」
Bさんは顔を赤くし、慌てた様子になりました。
先代の「分業制」の本来の意図
部長は慌てて弁解を始めました。
「うちの営業部は、先代のころから獲得担当と発展担当を分けて仕事をしてきまして……」
Aさんは淡々と言いました。
「もちろん存じています。ただ、営業部は少し分業にこだわり過ぎているように見えました。部署では状況に合わせて柔軟に動き、お互いの成果を尊重しながら協力しています。先代の意図は『適材適所』であって、誰かの功績だけを強調する仕組みではありません」
その言葉に、部長もBさんも言葉を失っていました。
最終的にAさんは、部長親子にも獲得業務の経験を積むよう指示。営業部の働き方を見直す方針が示されました。
その後しばらくして、Bさんは外回りの大変さに戸惑っている様子でした。部長も、仕事の進め方の違いに悩んでいるようで、次第に職場に来なくなる日が増えました。最終的に、親子そろって部署異動を経て退職していきました。
一方で私は、Aさんの方針のもとで営業としての裁量も増え、少しずつ自信を持って働けるようになりました。
まとめ
Aさんは必要な改善には迷いなく手を入れ、先代から続く良い部分は残すという考えを徹底しており、その姿勢に多くの社員が励まされていました。そんな姿を見るたびに、私は「もっと成長して、胸を張って認めてもらえる存在になりたい」と思うようになりました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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