そんな妹は大学を出た後、就職もせずアルバイトを転々としています。実家暮らしなので生活に困ることはなく、たまに私の家に来ては欲しいものを持って帰っていたため、不自由さを感じなかったのでしょう。
そんな妹が突然の“家を出る宣言”! まさかそんな日が来るとは思っていませんでした。彼氏と一緒に暮らすのだと嬉しそうにしています。
安堵したのも束の間、相手を聞いて私は真っ青になりました。妹の彼氏は私の夫だったのです。
妹の略奪
それが発覚したのは、妹からの電話でした。「ごめんね〜! お姉ちゃんの旦那さんと私、付き合ってたんだ♡ 今日まで全然気づかないなんて、お姉ちゃんらしいよね」
さらに妹は悪びれる様子もなく「私って昔から、お姉ちゃんのものが欲しくなっちゃうんだよね〜。姉妹って好みも似るんだね」「結局、彼は私を選んだってことだよね。お姉ちゃんも、彼の気持ちが離れてるの、少しは感じてたでしょ?」と、申し訳ないそぶりすら見せません。もう何を言っても無駄でした。
妹と一緒に暮らすために、夫は密かに家を出る準備をしていたとのこと。妹に言われるがまま夫のデスクを見ると、パソコンの脇に夫の署名が入った離婚届が置かれていました。
夫が妹を選んだワケ
信じたくない気持ちを抑え、私はすぐに夫に連絡を入れました。「本気で出ていくつもりなの? 結婚してまだ1年も経ってないのに……」
電話の向こうで、夫はため息交じりに答えました。「本気だよ。悪いけど、もう決めた」
理由を聞くと、彼の口から出てきたのはあまりに軽い言葉でした。
「お前は真面目で、家計の管理も家事もきっちりやってくれる。でもさ、そのぶん小言も多かったろ? 『お金の使い方、ちゃんと考えて』『今後のこともあるし節約しよう』って……窮屈だったんだよ」
妹は、私とは正反対の性格です。夫が何か提案するたびに、「いいじゃん、買っちゃおうよ~」「なんとかなるって!」と全肯定する妹が自分にはあっていると言うのです。
そして夫は、「正直、若くて明るい妹と一緒にいるほうが元気になれるんだ」「俺にだって幸せになる権利がある」と、胸にグサリと刺さる言葉を投げつけました。
さらに夫は、「弁護士とか慰謝料とかはやめてくれよ? 大ごとにしたくないからさ」と、責任を取る気はない様子。その瞬間、私の中で何かが冷めていきました。
「……わかった。そこまで言うなら、もういい。こんな人にしがみついていた自分が、馬鹿みたいだね。離婚で構わないです」と言って電話を切りました。
心の底から怒りと悔しさが湧き上がりましたが、不思議と涙は出ませんでした。「この人たちとは、もう関わらない方がいい」と、どこか冷静な自分もいたのです。
その後、妹と夫は私の前から姿を消しました。「お姉ちゃんの旦那もらった♡」というふざけた更新を最後に妹のSNSは更新が止まり、母曰く電話番号も変わったそうです。
両親は今になって「妹を甘やかしすぎた」と私に詫びました。もっときちんと育てていれば、こんなことにはならなかったと……。
夫がいなくなったことはショックでしたが、両親が支えてくれたこともあり、なんとか立ち直ることができたのです。
取り残された家族
妹たちが駆け落ちしてから5年が経ったころ、突然妹からメッセージが届きました。
「私ね、ついにママになるの♡ 彼との赤ちゃんができました〜!」
一瞬、時が止まりました。まるで何もなかったかのように連絡をしてくる妹には怒りしかありません。
「バツイチになった後、ずっと実家で暮らしてるんでしょ? 私ね、里帰り出産しようと思って。だから実家の私の部屋あけてほしいの♡ お姉ちゃんがいたら、きっとお母さんたち気使うじゃん? 荷物まとめて出ていってくれたら助かるな〜」
5年経っても、口ぶりはあのころのまま。私は直接話したほうが早いと思い、妹に電話をかけました。
「今更帰ってきて、実家の世話になろうなんて本気?」と聞くと、妹は当然のように「初孫ができた私が優先でしょ?」と言います。
実家に部屋を用意してと譲らないので「実家はもうないよ」と、妹の知らない事実を伝えました。「あんたの知ってる“実家”はもうないの。あの場所は売却して、更地になってるよ。いま私は、両親と違うところで暮らしてる」
実家を手放したワケ
「ちょっと待って! なんで!? 更地って……あの家、どうなっちゃったのよ!?」電話の向こうで妹が取り乱しました。
私は、5年前の出来事を簡潔に伝えました。妹がSNSに投稿したことを発端に、近所にどんな噂が広まり、どれだけ暮らしづらくなったか。両親と私が、どれだけ悩んだ末に地元を離れたのか。そして、売却の決定打となった、ストレスによる母の体調不良まで……。
それを聞いてもなお、妹は「新しい家の場所を教えてよ。里帰りできないと困るんだけど」と声を荒らげました。しかし教えるつもりはありません。「もう頼らないで。自分たちのことは自分たちで考えてほしい」と告げて、電話を切りました。
駆け落ちまでしたのに……
その後、妹から長いメッセージが届きました。そこには妹からの謝罪が書かれていたのです。
駆け落ち後の元夫は仕事が見つからず、やっと見つかった仕事も数年足らずで会社が倒産。今は生活するのがギリギリなのだそう。妹は例のSNS投稿をきっかけに友だちも離れていったのだとか。そして実家を出たあとに待っていたのは慣れない家事。しかも仕事との両立をしなければならず、気力も体力も限界だと言うのです。
妹は私に何度も詫び「許してほしい」「助けてほしい」と綴っていました。これが5年前、「幸せになる」と豪語して出て行った2人の末路です。
しかし、今更妹に手を差し伸べるつもりはありません。これは私だけでなく、両親の意思でもあります。
産後の手伝いをしてあげたいのはやまやまだけれど、今私たちが折れたら、妹はまたつけあがるかもしれません。今は行政のサービスも充実しているので、なんとか乗り越えられるはずです。
「今更頼らないで! 自分たちで頑張って。きちんと生きていれば、周りの人も力を貸してくれるはずだよ、きっと!」と告げて電話を切りました。
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家族だからといって、相手のやさしさに甘え続ければ関係はゆがみます。「お姉ちゃんだから」「家族なんだから」という言葉で我慢を強いると、いつか取り返しのつかない溝が生まれるでしょう。
家族の支えや思いやりを当たり前だと思わず、互いを大切にしたいですね。
【取材時期:2025年11月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。