母はもともと気性が荒く、わがままな性格でした。私が仕事の合間を縫って作った食事に「味が薄い」と文句をつけ、テレビ通販を見ては「あれが欲しい、これが欲しい」と言いたい放題。その上、身の回りの世話をしている私には感謝の言葉もなく、「あんたより、お兄ちゃんと暮らしたかった」と私の心をえぐるようなことばかり言っていたのです。
音信不通だった兄が突然やって来て…!?
ある休日のことでした。いつものように母から家事のダメ出しをされながら掃除をしていると、インターホンが鳴りました。モニターを見ると、そこにはなんと5年も音信不通だった兄の姿があったのです。
呆然とする私をよそに、母は「お兄ちゃんが帰ってきてくれた!」と大喜びで玄関を開けました。すると、兄の後ろには見知らぬ女性の姿が。なんと、兄は私たちが知らない間に結婚していたのです。
驚くことに、兄が連れてきた義姉もかなり強烈な性格でした。初対面の私にあいさつもせず、ズカズカと上がり込んで家の中を見回すと、「へえ! 広い家じゃない。家電は最新のものばっかりだし、外のベンツもこの家のものでしょ? ここなら家賃も浮くし最高ね」と、まるで物件の内見に来たかのような口調で言ったのです。
身勝手な兄夫婦による実家乗っ取り
兄もニヤニヤしながら家中を物色しており、どうやら「実家には母が隠し持っている金がある」と勘違いしたようです。
「お前、いいご身分だな。どうせ母親のスネかじりだろ? 親の年金でぜいたくしやがって」
兄は勝手な言いがかりをつけると、本題を切り出しました。
「俺たち、結婚式や新婚旅行で金がかかって、今アパートの更新もキツイんだよ。だから、これから俺たちが母さんと同居する。お前みたいな寄生虫は邪魔だ。自分の物だけ持って、今すぐ出て行け!」
つまり、生活苦から逃れるために快適な実家を乗っ取ろうという魂胆のようです。
しかも母まで、「私はお兄ちゃん夫婦と暮らすほうが幸せよ。あんた、そろそろ出ていけば?」と兄の肩を持ち、私を追い立てます。
その瞬間、私の中で何かがプツンと切れました。
「わかった。言われた通り、自分の物は全部持って出て行くね!」
私はそう兄たちに告げました。しかし、続けて冷静に条件を出しました。
「でも、今すぐは無理だよ。引っ越し業者の手配もあるし、新居も探さないといけないから。3週間だけ待って。その間に荷物をまとめて出て行くから」
兄と義姉は顔を見合わせ、「まあ荷造りくらいさせてやるよ」「3週間後には絶対出ていってね」と、渋々了承しました。私は「ありがとう」と短く答え、その日から静かに、しかし着々と“ある準備”を進めました。
作戦実行!私の持ち物はすべて新居へ
そして3週間後の引っ越し当日。私は手配しておいた業者に指示を出し、次々と荷物を運び出させました。
私の服だけではありません。大型テレビ、ドラム式洗濯機、最新の冷蔵庫、ソファ、ダイニングテーブル……。家の中にある「私の所有物」すべてです。
母は「お兄ちゃんたちがアパートで使っている家具を持ってくるだろうから、あんたの使い古しなんていらない」と言い、私が荷物を運び出すのを黙って見ていました。
万が一、私が去った直後に母に何かあっては後味が悪いため、兄たちが到着する予定時刻までは、自費でヘルパーさんに来てもらい、母の身の回りの世話をお願いしておきました。すべての搬出を終えると、私は自分の愛車に乗り込み、空っぽになった実家を後にしたのでした。
それから数時間後。私と入れ違いで実家に引っ越してきた兄から、スマホに着信がありました。おそらく到着早々、空っぽな家の中を目の当たりにして驚いたのでしょう。
電話に出ると、兄は明らかにパニック状態で怒鳴り散らしてきました。
「おい! 家の中の家具や家電はどこにやった!? テレビも冷蔵庫も、洗濯機もないじゃないか! これじゃ生活できないだろ!」
私は冷静に答えました。
「え? 『自分の物だけ持って行け』って言ったのはお兄ちゃんでしょ? だから約束通り、私の持ち物をすべて新居に移動させたのよ」
「はあ!? あれがお前の物なわけないだろ! 親の金で買ったくせに!」
突きつけた真実と、絶縁宣言
まだ状況が飲み込めていない兄に、私は隠していた事実を突きつけました。
「知らないと思うけど、私、IT企業で部長をしていて、それなりの収入があるの。家の家電も、外にあった車も、リフォーム費用も全部私が自分の給料で支払ったものよ。もちろん、すべての領収書やカード明細も保管してある」
電話の向こうで、義姉の悲鳴のような声が聞こえました。
「ちょっと! どういうこと!? お義母さんはお金に余裕があるみたいだから、借金返済もラクになるって言ったじゃない!」
兄は絶句し、何も言い返せずにいました。私は冷たく言い放ちました。
「私が生活費を出していたから、実家が裕福に見えていただけだよ。そこにあるのは、古びた家と、これからお世話が必要なお母さんだけ。あとはよろしくね」
私がそう告げると、電話の向こうでは、あてが外れた兄と義姉の罵り合いが始まっていました。もう関わりたくないと思い電話を切ろうとしたそのとき、突然母が電話口に出てきました。
「待って! 私が悪かったわ。今まで通り、2人で生活しましょう? ね?」
手のひらを返したようにすがりついてくる母。しかし、私の心はすでに冷めきっていました。
「もう無理だよ。大好きなお兄ちゃんと一緒に暮らせてよかったじゃない。二度と連絡しないで」
私はそう告げて電話を切り、着信拒否に設定しました。
その後、仲の良い親戚から聞いた話では、母と兄夫婦は今も家具のないガランとした実家で暮らしているそうです。しかし、兄夫婦が作った借金の返済と、わがままな母の介護に追われ、家庭内は修羅場が続いているとのことでした。
一方、私はというと、実家の呪縛から解放されたことで仕事にさらに打ち込めるようになりました。その後、念願だった海外転勤が決まり、赴任先で出会った今の夫と結婚。現在はかわいい娘にも恵まれ、穏やかで幸せな家庭を築いています。家族を大切にしてくれる夫と娘に囲まれ、私は今、心から「家を出てよかった」と思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。