こども家庭庁はいらない? 一時金を配ることのデメリット
――「こども家庭庁を解体して、その予算を子育て世帯に直接配るべきだ」という意見も出ていますが、どう思われますか?
山田太郎議員(以下、山田):たしかに「こども家庭庁をなくして、その分の予算を使って子ども一人あたりに1,000万円ずつ配ればいい」という考え方もあるかもしれません。ネットでは「もし、こども家庭庁を解体したら、ひとりあたり900万円くらい配ることができる」という意見も目にします。
ですが、予算には限りがあります。もし、現金配布を実行したら現在おこなっている支援、保育園や育児休業制度、障害児支援などに回すお金はなくなってしまいます。
――とはいえ、お金を給付することで解決できることも多いように思えてしまいます。そう考える人も少なくないのではないでしょうか?
山田:子どもにまつわる問題は複雑で、単発の支援では解決できないことばかりです。たとえばいじめや不登校、虐待、ヤングケアラーなどの課題は、背景にある社会構造を変えなければ、同じ問題が永遠と繰り返されてしまうからです。お金で解決できるものではありません。
「一時金を配って解決する」という考え方は、痛み止めを飲むようなものです。一時、楽にはなるでしょうが、本当に必要なのは社会全体で子どもと家庭を支える仕組みづくりなんです。
ですから、「(こども家庭庁を)解体して予算を配る」ことは、保育・育休・障害支援などの再分配機能(税や社会保険料を財源に、必要な家庭や子ども支援に資源を振り分ける仕組み)をなくすことにつながりますので、国民一人ひとりが自分の力だけで生活をやりくりすることが求められ、結果として負担が大きく増えるでしょうね。

税金の使い方で大事なのは「公正」であって「平等」ではない
――子育てを応援する人たちがいる一方で「子育て世帯ばかりが優遇されている」という声も聞かれますが、どう思われますか?
山田:税金の使い方を考えるときに大事なのは、「平等」ではなく「公正」です。
みんなが税金を払っているからといって、「全員に同じだけ支援をすれば公平だ」と考えるのは間違いです。
もしそうしてしまえば、社会養護(虐待、貧困、病気などの理由で保護者のもとで暮らせない、または適切に養育されない子どもを、社会が公的な責任で養育・保護する仕組み)や障害福祉のように、本当に支援が必要な困っている人を助ける制度がなくなってしまいますね。
「平等」と「公正」を混同してしまうと、大切な循環が止まってしまいます。公正に配るというのは、困っている人ほど手厚く支援するという設計のことです。
――なぜ「平等」だと支援がなくなってしまうのでしょうか?
山田:社会は、「困っている人をより手厚く支える」という考えのうえで成り立っています。
保育や教育に使われるお金も、子育て世帯への“優遇”ではなく、社会全体で子どもを育てるための“税金の再分配”です。子どもが健やかに育つ環境を整えることは、将来の労働力や経済、そして地域コミュニティを支える“未来への投資”でもあります。
一見すると“人のためのお金”に見えるかもしれませんが、実は“自分たちの未来のためのお金”なんです。つまり、本当に支援が必要な人を支えることが、結果的には自分たちの未来のためにもなることになるということです。
地域によってコストやニーズの差はありますが、国としては保育や児童手当、育休、障害支援など、最低限のサービスを全国どこでも受けられるようにしています。そして、そこに“地域ごとの工夫”や“市民の参加”が重なることで、より豊かな支え合いの社会が生まれるのだと思います。

自治体に「現場の声」を届けることが、「国民の声」を政策に反映させることになる
――“地域ごとの工夫”や“市民の参加”とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか。私たち国民は、国の政策にどのように関わっていくべきだと思いますか?
山田:「困っているから国が何とかしてくれ」という考え方だけでは、民主主義は成り立ちません。
いまの日本では、ひとつの法律を変えるにも国会の承認が必要で、法律というルールのもとで動かなければなりません。すぐには動けないけれども、こうした“法の支配”こそが社会の安定を支えています。
「国が動かない」と不満を口にする前に、その制度の中でどう声を上げるか、どう改善を求めるかを、国民一人ひとりが考える必要があります。社会を変えるのは政府ではなく、国民の意思なんです。政策は「現場 → 自治体 → 国」の順に上がっていくのが基本の流れです。
――では、私たちはどのようなルートで声を上げればよいのでしょうか?
山田:まずは自治体に相談してください。子どもやその親御さんたちと直接関わっている自治体が、最初に課題を見つけて寄り添える存在です。
自治体の相談窓口へ困りごとや改善要望を伝えるのもいいですし、パブリックコメント(意見募集)に参加してみる、自治体の議員さんや地域の子育て担当者さんが開催する説明会や報告会にいってみるのもいいと思います。そのほかに、SNSや地域メディアを活用し、課題や事例を発信することは、直接出向かなくても声を上げることができる方法の一つですね。
メディアには、そうした「小さな声」を拾い上げ、社会全体に共有していく役割があります。自治体と市民のあいだに橋をかけ、同じ悩みを持つ人たちの存在を可視化する。報道や地域発信を通して課題が共有されることで、行政の動きや政策にもつながっていくと思います
国が一人ひとりの声を直接聞くことは難しいですが、自治体が現場の声を受け止め、国に届けることで仕組みが動く。その流れを支えるうえで、メディアもまた欠かせない“現場の目と耳”の一部だと感じています。
――ママたちの子育て政策への関わり方がよくわかりました。では最後に、そんなママたちへメッセージをお願いします。
山田:日本は国民が主役の国です。国に何とかしてもらうのを待つのではなく、自分たちが社会をつくるという意識を持っていただければと思います。
国民が声を上げ、自治体が動き、国が制度を整える。この循環が動き出したとき、初めて“こどもまんなか社会”が実現します。一人ひとりの声が政策を変える力になります。今こそ、みんなで社会をつくっていきましょう。
◇◇◇
山田氏は「子育て政策をめぐる議論の中では『たりないもの』に目が向きがちですが、日本にはすでに、保育・医療・障害支援などを通じて子どもと家庭を支える、世界的にも手厚い再分配の仕組みが整っている」と指摘します。
大切なのは、その仕組みを時代に合わせて育てていくこと。それを後押しするのは制度そのものではなく、社会に関わる一人ひとりの意識と声なのかもしれません。
子育てに関わる私たちの日々の声や経験が、その土台を少しずつ強くしていきます。ベビーカレンダー編集部も、子どもや家庭を取り巻く現実を伝え続けることで、一人ひとりが「子どもを主語にした社会」について考えるきっかけをつくりたいと思います。

山田太郎氏とベビーカレンダー編集長 二階堂