ある夜のこと。「しばらく在宅勤務に切り替えてもらえたの。『母体優先で』って言ってもらえて、助かったよ」私はその日の出来事を夫に伝えました。
不妊治療中「一緒に頑張ろう」「親に孫を見せたい」と繰り返していた夫は、子どもが生まれることを心から喜んでくれるものだと思い込んでいました。しかし返ってきたのは、意外な言葉……。
「子どもって、本当に産まなきゃいけないのかな」
何を言われているのか、すぐには理解できませんでした。頭では意味がわかっているのに、気持ちが追いつかず、言葉が出なかったのです。
これが夫の本音?
耳を疑うような言葉に、思わず「どういう意味?」と問い詰めると、夫は言葉を濁しながら続けました。
「周りのママって、みんなもっと若いだろ。うちの職場で子どもがいる同僚も、奥さんは20代とか30代前半とかでさ。どうしても比べちゃうっていうか……。45歳のママって、正直浮くよな……」
「じゃあ、『浮くからやめよう』って言いたいの? 何年も一緒に不妊治療してきて、ようやく授かった子なのに?」気づけば、声が震えていました。
「親に孫を見せたい」というのは夫の熱い希望でした。もちろん自分たちの子どもが欲しいという気持ちが一番ですが、夫の思いを胸につらい治療を頑張ってきたのです。それなのに今更年齢のことを持ち出すなんて、どういうつもりなのでしょう。
問い詰める私に、夫は「ごめん……」と小さくつぶやくだけ。このときの私は、『きっと戸惑っているだけ』『時間がたてば父親としての覚悟もできるはず』と、自分に言い聞かせるしかありませんでした。
立ち会い出産をドタキャン!?
そして迎えた出産当日。お産は想像以上につらく、何度も気を失いそうになりました。立ち会い出産をする予定だった夫はまだ連絡がつきません。夫不在のまま、元気な女の子が生まれました。
何度電話をかけてもつながらず。送ったメッセージも既読がつきません。ようやく返信が来たのは出産から数時間後のことでした。
「ごめん」という夫。その声を聞いて胸がざわつきました。
娘の誕生を喜ぶ前に、夫から送られてきたのは「離婚してくれないか?」というひと言。娘が生まれ、人生最大の幸せを味わっていたはずなのに、一気にどん底に落とされました。
理由を尋ねると「お前の子を育てる覚悟がない。正直に言うと、年下の彼女がいてさ。彼女も妊娠したんだ。俺はその子と一緒に生きていきたい」とまさかの展開に……。
涙で目の前がにじんで、画面の文字がはっきり見えませんでした。
夫はさらに追いうちをかけてきました。「年齢のことが引っかかってる。世間の目もあるし、父親として一緒にやっていく自信がないんだ」
最低な言葉でした。でも、それがこの人の本音なんだと、ようやくはっきりわかった瞬間でもありました。
夫の浮気相手の正体
その数日後、高齢出産いじりをしていた後輩から連絡がありました。「ご出産おめでとうございます〜♡ 45歳での出産、すごいですね!」
しかし出産したことはまだ会社に報告してはいません。なぜ彼女が知っているのでしょうか。
私が尋ねると「彼から聞いたんですよ〜。今、たまたま一緒にいるので♡ あ、言ってませんでしたっけ? 先輩の旦那さんの彼女って私なんです」
「いつからなの?」「どうして私の夫と?」「あなたは、私の不妊治療のことも知っていたよね?」と問い詰めるように打ち込むと、後輩は悪びれもせず続けました。
「45歳で妊娠なんて、どんな旦那さんなのか興味が湧いちゃって。近付いてみたら想像以上にイケメンで……」「彼『大きくなっていくおなかを見るだけで幸せ』って、毎日私に言ってくれるんですよ〜」
そのメッセージにはマタニティフォトが添えられていました。その写真に写った夫は、私には一度も見せたことのないような顔で微笑んでいます。
後輩との会話から、夫は「高齢ママである私」を、どこか恥ずかしい存在として扱っていたのだと気づきました。「私とおなかの子のためにも、早く決着をつけてもらえませんか?」と言う後輩の言葉に、私は小さく頷きました。
夫との離婚
「離婚には応じます。ただ、あなたと夫、それぞれに責任は取ってもらいます」後輩にそこまで言われて、私は不思議と冷静になっていました。怒りや悲しみよりも、静かな諦めの感情が、ゆっくりと胸の底から湧き上がってきていたのです。
実は、妊娠がわかった少し後から、私は夫に対して不信感を抱いていました。夫は「年齢がネック」「周りに迷惑かもしれない」と、何度も口にするようになったのです。あんなに楽しみにしていた妊娠だったのに、胎動や大きくなるおなかを気にしたことすらありませんでした。
私は、まだ動けるうちに最悪のケースを想定して準備を進めました。調べられることは調べ、必要な証拠も押さえています。今回のやり取りも、すべて記録に残しました。
後輩は「ちょっと待ってくださいよ! 私、妊婦なんですよ!? 責任って慰謝料とか? 無理に決まってるじゃないですか!」と焦った様子。
「妊娠しているかどうかは関係ない。既婚者と関係を持ったことの責任を取ってちょうだい」「条件は弁護士を通して決めます。夫にも同じように請求しますし、子どものことは養育費も含めて書面で取り決めます」とだけ返信して、私はスマホを置きました。
夫の末路
それから年月が経ち、娘が小学校にあがったころ、元夫からメッセージが届きました。久しぶりに私たちに会いたいとのこと。
話を聞くと、元夫は今の家庭で苦労している様子でした。今は奥さんになっている後輩は、子どものしつけにはゆるい一方で熱烈な教育ママになっているそう。子どもは勉強のストレスで荒れていると言います。
夫婦で子育ての方針を話し合っても平行線、子どもにどう接していいのかわからなくなっている様子。挨拶をしっかりし、場所をわきまえて過ごしている私の娘を見て、元夫はため息をつきました。
きっと元夫は私たちの生活を見て「理想的だった」と都合よく美化しているのでしょう。現実に向き合うのではなく、過去に逃げ込もうとしているだけでした。
案の定、元夫は最後に「やり直せないかな」と言いました。もちろんそんなつもりはありません。自分で選んだ人生です。子どものためにもしっかり向き合ってほしいと思っています。
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子どもを授かるタイミングは人それぞれです。大切なのは「何歳で産むか」ではなく、「どう向き合い、どう育てていくか」。周囲の価値観に振り回されず、自分と子どもにとって何が大切かを考えることの大切さを、改めて考えさせられますね。
【取材時期:2025年11月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。