取引先との飲み会が増え、帰宅は深夜になることが多くなりました。週末も「付き合いだから」と言って家を空けがちに。自営業になれば忙しくなることは理解していましたが、想像していた以上でした。
次第に私たちの生活はすれ違い、夫婦の会話も目に見えて減っていきました。
起業してからというもの、私の誕生日もクリスマスも年末年始も、夫は仕事を理由に不在でした。あまりにもそれが続いたため、「本当に仕事だけなのだろうか」と疑う気持ちが芽生えます。悩んだ末、私は調査会社に依頼する決断をしました。
違和感は確信へ…
届いた報告書には、目を疑うような内容が記されていました。夫は、取引先の社長の娘と交際していたのです。彼女の自宅を頻繁に訪れ、一緒に過ごしている様子が確認されていました。
さらに最近では、彼女が産婦人科に出入りしている様子も報告されたのです。
私たち夫婦は、夫の希望を優先し、子どもを持たない選択をしています。何度も話し合い納得した上での決断でしたが、子どもとの生活を夢見ていた私にとって、決して簡単なものではありませんでした。
――それなのに彼女は夫の子を……? そんな考えが頭をよぎり、胸が締めつけられました。裏切られたという思いに動揺し、悲しくなったのも事実です。
けれど、それ以上に強く湧き上がってきたのは、違和感が確信へと変わったことで生まれた、冷めた感情でした。
「泣き寝入りはしたくない……」私は感情に流されることなく、状況を冷静に見つめ、不倫相手のもとを訪ねました。
夫の不倫相手
突然の訪問に、彼女は明らかに緊張していました。それでも、私が終始落ち着いて話したことで、次第に警戒心を解いていったのです。
話を聞くうちにわかったのは、彼女もまた、多くのことを夫から隠されていたという事実。夫は「妻とはすでに不仲でいずれ離婚する予定だ」「子どもができたら責任を取る」「事業も順調で、将来は安定した生活ができるから3人で幸せに暮らそう」と彼女に言っていたようです。
事実を知った彼女はひどく動揺し、「傷つけるつもりはなかった」「幸せな未来があると信じ込まされていた」と、涙ながらに打ち明けてくれました。だからといって、許すことはできませんが……。
その時点では、彼女はまだ別れるつもりはないように見えました。ただ、私と直接会い、これまで聞かされていた話が事実ではなかったと知ったことで、彼女の中に大きな不信感が生まれたのはたしかだったと思います。
夫の離婚宣言
ある日、夫から慌てた様子で電話がかかってきました。「彼女が妊娠した。だから離婚してくれ」と言う夫。私は「うん、知ってたよ」と返しました。
私の中に、夫への愛情はもう残っていませんでした。「慰謝料をきちんともらえるなら、離婚で構わない」淡々とそう告げると、夫は拍子抜けした様子。
さらに私は、調査会社に依頼していたこと、不倫相手と会ったことを伝えました。夫は取り乱し、やがて言葉を失いました。
夫の事業はあまりうまくいっていないことも私は知っています。慰謝料が目の前に立ちはだかって、気が遠くなったに違いありません。
夫と彼女の別れ
ここからは、のちに夫から聞いた話。結論から言うと、夫は私に離婚宣告をしたすぐ後、彼女から別れを告げられたそうです。行き場を失った夫が私に電話をかけてきて、すべてを懺悔したのです。
彼女にとって、私と会ったこと自体が決断の引き金になったわけではないようです。ただ、私の口から語られた夫婦としての関係性は、彼女が夫から聞かされていた話と大きく食い違っていました。
「もうすぐ離婚する」「夫婦関係は破綻している」そう信じてきた前提が崩れたことで、彼女は初めて、夫の言葉そのものを疑うようになったのだと思います。
別れの決め手になったのは「自分が取引先の娘だから、結婚することで事業を安定させようとしている」という夫の本心に気付いてしまったことだと、夫は振り返ります。事実、夫もそのような気持ちを否定しませんでした。夫のことなので、きっと日々の会話に滲み出ていたのでしょう。
「信頼できない相手とは家庭を築けない」そう言って、彼女から別れを告げられた夫。彼から聞いた話はこれですべてです。
「事業のために彼女と関係を持ったのに、捨てられた自分」という立場に立って私に話すことで、同情してもらえるとでも思ったのでしょうか。けれど、そんな考えが通用する状況ではありませんでした。
私の心は決まっています。それに不貞の証拠も十分にそろっており、離婚は確実です。財産分与も私に有利な形で決着しました。
今は独身生活を楽しんでいます。おひとりさまが、こんなにも気楽で自由だとは思いませんでした。これまで夫に振り回されてきた分、この時間を大切にしていきたいと思います。
◇ ◇ ◇
誰かを思って寄り添うことと、相手にとって都合のいい存在になることは、まったく別のものです。その事実に、夫自身が向き合う日が来ることを願うばかりです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。