「予算は4,000万くらいかな。頭金は1000万円くらいあれば理想! お前の実家に援助してもらおう!」あまりにもあっけらかんとした言い方に、私は思わず固まりました。自分たちの家なのに、私の親を頼る気でいるなんて……。
そう伝えると、夫は一瞬不思議そうな顔をして言いました。
「え? だってお前の家、金あるじゃん。結婚祝いとか誕生日とか、結構くれてるだろ? 孫のためって言えば、むしろ喜んで出してくれるって」軽口のつもりだったのかもしれません。でもその一言一言が、私にはものすごく失礼に聞こえたのです。
マイホームは援助ありき!?
たしかに私の両親は節目節目に結構な額のお祝いを包んでくれます。だからと言ってマイホームのお金をくれというのは、また別の話。自分たちの収入で無理なく払えるローンを組むのが当然だと思っていました。
そうきっぱり伝えると、夫は「じゃあローン前提で考えてみるよ」と渋々言いました。
しかし、やはり最後には「でもさ、もし向こうから援助したいって言い出したら、そのときはありがたくもらってもいいよな?」と、まだ諦めていない様子が見え隠れ……。
夫の実家訪問
それから数日後、母から電話がありました。夫から家を建てる話を聞いたと言うのです。
詳しく聞くと、夫が「近くまで営業で来た」と言って、ひとりで私の実家に立ち寄っていたことがわかりました。実家は実際の営業エリアとはまったく違う方向にあるので、夫は敢えて訪れたのでしょう。
そこで夫は、家のローンが高額なことや、ボーナスがカットされて家計が苦しいことを、ひどく落ち込んだ様子で話していたそうです。それでも「家族を守れる家を建てたい」と熱心に語っていたと、母は言いました。
しかしボーナスがカットされた事実などありません。今月もいつも通り支給され、本人も金額に満足していたはずでした。母も、話をしていて違和感を覚えたようです。
そして、さらに気になることを口にしました。以前、妊娠のお祝いとして包んだお金について、私がいくら受け取ったのか確認してきたのです。
私が「30万円だった」と伝えると、母は言葉を失いました。両親は50万円包んだつもりだったというのです。あの日、私はつわりがひどく、実家へ行けませんでした。そのため、両親はお祝いを夫に託したのです。
私が手にしたお金との差額は20万円。考えたくはありませんでしたが、夫がこっそり自分の財布に入れたと考えざるを得ませんでした。
「家族を守れる家を建てたい」という言葉自体が、すべて嘘だったとは思いません。だからこそ、その言葉を盾にして両親に嘘をつき、甘え、ずるく振る舞っていた夫が、余計に悲しかったのです。
私は母に状況を伝え、これからのことを相談しました。
300万円の援助
翌日の朝、私は夫にこう伝えました。「うちの両親に家を買うって報告したら、援助しようか? って言ってくれたよ!」
夫はそれを聞いて飛び跳ねんばかりに喜んでいます。「で、いくらくらい援助してくれるの?」と目を輝かせる夫に、私は淡々と答えました。
「300万だって」すると夫の表情が一転「え? 300万だけ?」夫の様子からは「もっと出してもらえるはずだった」という本音が透けて見えました。このご時世に300万円の援助はとてもありがたいことなのに……。
夫は顔をしかめ、「この物価高で? 新築ってどんだけ金かかるか知ってる? 300万だけって……正直、もっと出してくれるかと思ってた」と、信じられない一言をこぼしたのです。
さすがに黙っていられず、「そんなふうに言うなら援助は断る」と私がきっぱり告げたのですが、夫は不満な素振りを隠そうともしませんでした。
母からの提案
次の日、母からビデオ通話がかかってきました。画面に映っていたのは、母の隣で居心地悪そうに座る夫の姿。どうやら仕事帰りに、また実家へ立ち寄っていたよう。援助の増額を交渉しにいったのだろうとすぐに察しがつきました。
母は穏やかな口調で、夫の話と私から聞いていた内容があまりにも食い違っていること、そして妊娠祝いの金額に差があったことを淡々と確認しました。夫は言い訳を重ねましたが、最終的には差額の着服を認め、深く頭を下げたのです。
「孫へのお祝いをそんなふうに扱う人に、大金を預けるわけにはいかないわよね」そう前置きしたうえで、母はひとつの条件を提示しました。
「もっと援助をするなら、名義は娘と私たちにする」万が一のとき、娘と孫が住む場所だけは守りたいと言っていました。
それを聞いた瞬間夫は露骨に動揺し、名義は自分で持ちたい、万が一のときに自分だけ不利になるのは納得できない、と感情的に反発しました。すると母はにこやかに笑い「だったら300万で十分ね。あなたのための援助じゃないの」と告げました。
そのひと言で、夫は完全に黙り込んだのです。
私たちのマイホーム
その夜、帰宅した夫は深く頭を下げました。お祝い金のことも、援助に期待しすぎていたことも、すべて自分の過ちだと認め、二度と同じことはしないと繰り返しました。
私はすぐに許したわけではありません。けれど、おなかの子とこれからの生活を考え、条件をはっきり伝えました。次に同じことをしたら、そのときは本当に離婚を考えること。そして、援助は一切受けず、家も子どものことも自分たちの稼ぎだけでやっていくことです。
しばらく黙り込んだあと、夫は迷いを隠せない表情のまま、それでも「わかった」と答えました。
その後は現実的な予算で家探しをし、背伸びしすぎない一軒家に落ち着きました。理想だった設備はいくつか諦めましたが、無理のない返済額で身の丈に合った選択です。
夫はこっそり抜いていたお祝いの差額のお金も返し、両親にも直接謝罪しました。両親は笑って受け入れつつ、私にだけ「限界が来たら、いつでも帰っておいで」と言ってくれました。
今もローン返済は続き、楽な暮らしではありません。それでも、「誰かに甘えて建てた家」ではなく「自分たちの等身大の家」で家族と暮らせていることを、私は誇りに思っています。
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今回の体験談は、甘えが当たり前になる前に立ち止まり、夫婦で現実と向き合うことの大切さを教えてくれますね。マイホームや教育資金などをめぐる大きなお金の話は、家族の価値観や信頼関係がはっきり表れる場面でもあります。
親族からの「援助」はとてもありがたいものですが、そのお金をどんな気持ちで受け取り、どう向き合うかが大切なのかもしれませんね!
【取材時期:2025年11月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。