監視が始まった日
入社3年目の春、うちの部署に異動してきた50代の男性社員、通称「ストップウオッチ男」。最初は普通の先輩だと思っていました。
でも、彼の本性が明らかになるまで、そう時間はかかりませんでした。彼は社員の「離席時間の管理」をし始めたのです!
トイレに立つ、給湯室でコーヒーを入れる、会議室に移動する……すべての行動を、彼は手元のストップウオッチで計測。そして毎日夕方になると、<本日の離席状況報告>というタイトルで全社にメールを送信。
「Aさんの離席時間:合計14分32秒」
「Bさんの離席時間:合計20分32秒。給湯室滞在7分18秒」
こんな内容が、実名入りで全社員に配信されるんです。最初は誰もが「冗談だろ……?」と思いました。
エスカレートする監視行動
さらに問題だったのは、彼が気に入らない社員に対しては、実際の時間を水増しして報告していたこと。

私も何度か被害に遭いました。トイレに3分しか行っていないのに「12分の長時間離席」と報告されたり、上司との立ち話を「無駄話で15分のサボり」と書かれたり……。
同僚の中には、彼の監視を恐れて水分を控えるようになった人もいました。トイレを我慢して体調を崩す人まで出てきて、もう職場の雰囲気は最悪。
直属の上司が「いいですよ、そういうのは……」と注意しても、彼はニヤニヤ受け流し、頑なに続けていました。
運命の逆転劇
そんなある日、私は役員の一人から呼び出されました。
「緊急の案件があるから、今すぐ別室に来てくれ」
私は急いで資料を持って、普段使わない役員会議室へ。そこで役員と2人、新規プロジェクトの極秘打ち合わせを約3時間行いました。
守秘義務があるため、誰にも報告できない案件。私は携帯の電源も切り、完全に業務に集中していました。
ところが、夕方にメールチェックをすると……驚愕のメールが届いていました。差出人は例のストップウオッチ男。宛先は、役員全員を含む全社員。
「営業部・〇〇、本日13時より16時まで、合計3時間の無断離席。居場所不明。重大な職務放棄として報告します」
私は血の気が引きました。確認もせずに、こんな虚偽の報告を……。
予想外の展開
ところが、そのメールが送信された直後。まさかの展開が待っていました。
送信から10分後、先ほどの役員本人から全社宛に返信が届いたのです。
「本日13時から16時、彼は私と一緒に打ち合わせをしていました。報告者は、確認もせず虚偽の内容を全社に配信したことになります。人事部は至急調査を」
会社中が騒然となりました。

そして翌日、人事部による本格的な調査が開始。すると、ストップウオッチ男の“仕事”の実態が次々と明らかになっていきました。
彼は1日の大半を、社員の監視だけに費やしていたこと。自分に割り当てられた本来の業務は、ほとんど手つかずだったこと。取引先からのクレームも複数放置していたこと……。
「人の監視ばかりして、自分の仕事を全くしていない」役員の一言が、すべてを物語っていました。
その後……
結局、ストップウオッチ男は、誰とも接触しない閑職部署へ異動。もちろん、あの悪名高い<離席報告メール>も廃止されました。
職場の空気は一変し、みんなが安心して働けるようになりました。トイレも、コーヒーブレイクも、気兼ねなく取れるように。今思えば、あの役員との極秘会議が、すべての転機だったんです。
もし虚偽報告を送らなければ、彼の監視は続いていたかもしれません。でも、彼は調子に乗りすぎた……。人を監視する前に、自分の仕事をちゃんとやるべきだったんです。
それ以来、私は“人のあら探しをする前に、自分の足元を見ろ”という教訓を胸に刻んでいます。
※AI生成画像を使用しています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。