「食い尽くし」が止まらない彼
交際を始めて半年が過ぎた頃、私は彼の“食い意地”に違和感を覚えるようになっていました。でも、その時の私は「男の人ってこんなものかな」と自分を納得させていたのです。
ある日、私たちは駅前のラーメン屋に入りました。食券制だったので各自が支払うスタイルのお店です。私は奮発して「特製全部のせラーメン」を注文。チャーシュー、煮卵、メンマ、海苔……贅沢な具材がたっぷりのった一杯です。
運ばれてきたラーメンを前に、私が写真を撮ろうとした瞬間、彼が「スープ一口ちょーだい」と言いながら、自分の箸とレンゲをスッと私の器に突っ込んできました。スープを味わうのかと思いきや、彼が狙っていたのはチャーシューと煮卵でした。器用に具材をさらい、自分の器に移して食べ始めたのです。
「えっ?」
驚く私に、彼はニヤニヤしながら「麺は残ってるじゃん、細かいな〜」と言いました。私は何も言えず、ラーメンを黙々とすすりました。
それだけではありません。ある日の夜、私が楽しみにしていた期間限定の新作アイスを買って帰りました。すぐ食べようと手を洗って戻ってくると……テーブルに開封された袋が。
「ねえ!これ私の楽しみだったのに!」
「溶けそうだったから救助した」
彼はドヤ顔で言いました。まだ帰ってきて3分も経っていないのに、そして真夏でもないのに、溶けるはずがありません。でも彼は悪びれる様子もなく、残りのアイスを食べ続けていました。
私は思いました。「食い意地が張ってるだけ……結婚すれば直るかな」と。今思えば、この時点で別れるべきだったのです。
両家顔合わせで起きた「信じられない事件」
交際2年が過ぎ、彼からプロポーズを受けました。私は迷いましたが、「彼も年齢を重ねれば落ち着くはず」と信じて、結婚を決意。
そして迎えた、両家の顔合わせの日、格式高い料亭での会食が予定されていました。
会食は和やかに進み、美しい懐石料理を堪能しながら、両家の会話も弾んでいました。彼も珍しく大人しく、私は内心ホッとしていました。
そして食事が終わり、最後に料亭特製の饅頭が運ばれてきました。
「本日は誠にありがとうございました。最後に当店自慢の和菓子をお召し上がりください」
仲居さんが退室し、私の父が御礼の挨拶をはじめました。「本日は、このような素晴らしいお席を……」父が緊張しながら口を開きかけた、その時。彼は自分の分の饅頭を一口でバクッ。「うまっ、これ!」と空気を読まない声を上げました。
父は言葉を詰まらせながらも、気を取り直して挨拶を続けました。「娘をよろしくお願いします……」父が深々と頭を下げた、まさにその瞬間。彼の手がスッと伸びました。
「お義父さん、食べないんすか? 甘いの苦手? じゃあ俺が」
制止する間もなく、彼は父の皿にあった饅頭を鷲掴みにして口に放り込んだのです。

母は絶句、父は口を開けたまま硬直。彼の両親だけがオロオロしている。私が「ちょっと!」と声を掛けると、彼は小声でこう言いました。
「なんだよ、お義父さん手つけてなかったじゃん。どうせ残すなら新鮮なうちに俺が処分したほうがSDGsだろ?」
この人とは結婚できないーー未来が見えた瞬間
その瞬間、私の中で何かが冷めました。怒りではありませんでした。それは、深い恐怖でした。
この人は、私の父への敬意よりも、目の前の1個の饅頭が大事なんだ……そう理解した時、私の頭の中には未来の光景が次々と浮かんできました。
もし子どもが生まれて、その子が食べるのが遅かったら? きっと彼は「食べないなら俺が」と言って、子どものおかずや誕生日ケーキすら奪うんだ……。
私はスッと立ち上がり、静かに言いました。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。この結婚、やっぱりなかったことにしてください」
彼が「は? なに言ってんの?」と笑いましたが、私は彼を見ませんでした。父と母の目を見つめて、深く頭を下げました。
父はしばらく黙っていましたが、やがて静かに頷きました。「……わかった。お前の決めたことなら、父さんは何も言わない」
私たちは席を立ち、料亭を後にしました。背後から彼の「ちょっと待てよ!」という声が聞こえましたが、振り返りませんでした。
あの日、私は1個の饅頭のおかげで、取り返しのつかない結婚を回避できました。人の大切なものを、尊重できない人と、家族にはなれない。今は別の人と幸せな結婚生活を送っています。本当に、あの時決断してよかったと心から思っています。
※AI生成画像を使用しています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。