良心につけ込む手口
私は、旧キッチンの電気をつけた瞬間、絶句しました。なんとお義母さんが暗闇の中、キッチンの床に体育座りして、カップ麺をすすっていたのです。
涙目で私たちを見上げ、「私ってかわいそう」とアピールされ……。













リビングに戻ったユリさんは、暗い旧キッチンのほうを振り返り、複雑な表情。先ほどの、暗闇でカップ麺をすする義母の姿。その強烈な光景が脳裏に焼き付いて離れません。
「あんなことさせて、かわいそうかも……良心が痛む」
罪悪感に苛まれ、心が折れそうになるユリさん。しかし、ケンさんは冷静でした。大きくため息をつくと、ユリさんを諭します。
「ユリ、情に流されるな。あれは母さんの『いつものパフォーマンス』だ」
ケンさんは淡々と話し始めます。義母はあえて、ユリさんたちが来るのを計算して暗闇でカップ麺を食べて見せたのだと言います。
「母さんは、ユリが罪悪感を抱くことをわかってやってるんだ。ユリの良心につけ込む手口なんだよ。ここで俺たちが折れたら、今までの決意が全部無駄になる」
ケンさんの強い言葉に、ユリさんはハッとしました。義母は自分を惨めに見せて、今までの非常識でわがままな生活を取り戻そうとしているだけ……。
その執念深さと計算高さに気づいた瞬間、ユリさんの胸にあった同情は消え、「負けちゃダメだ。お義母さんのパフォーマンスには付き合わない!」と、決意を新たにしたのでした。
◇ ◇ ◇
不幸アピールだと頭では分かっていても、目の前でさみしそうにカップ麺をすする姿を見せられたら、良心が痛んでしまうのは普通の感覚ではないでしょうか。しかし、義母のような厄介な人は、その「普通の人の良心」を弱点として狙ってくるのかもしれませんね。
ここで罪悪感に負けて謝罪してしまえば、再び義母のわがままや非常識な行動に悩まされる日々に戻ってしまいます。ケンさんの言うとおり、沸き上がる罪悪感をグッとこらえ、放っておくのが最善策なのかもしれませんね。心を鬼にすることは、やしさを捨てることではなく、相手の支配から自分を守るための「線引き」です。冷静に現状を見つめる強さを持ちたいですね。
小出ちゃこ