約束の再会
当時、「大丈夫? 何か困っているの?」と、クラスでは人付き合いが苦手だった私に、勇気を出して話しかけてくれました。さらに、A子さんの母・B美さんが作ってくれたお弁当を分けてくださり、「無理しないでね」と温かい言葉をかけてくれました。あのとき感じた安心感と、人のやさしさに救われた気持ちは、今でも心に残っています。
それから10年後。私は上京して働きながら飲食関連の仕事を続け、小さなコンサル会社を立ち上げました。そして仕事の都合で久しぶりに地元へ戻ることになり、当時お世話になった親子にどうしてもあいさつしたいと思い、家を訪ねました。
しかし、以前より老朽化が進んだ家と、どこか疲れた表情のA子さんとB美さんの姿を見て、胸がざわつきました。事情を聞きたくなり、A子さんに「よかったら少しお話しできませんか」と声をかけました。
窮状を聞いて…
喫茶店でA子さんから話を聞くと、ここ数年の間にさまざまな困難があったことがわかりました。家族の事業がうまくいかず生活が不安定になったこと、A子さんが勤めていた飲食店が閉店し、現在は次の仕事を探していること。加えて、家の老朽化も進み、維持すべきか手放すべきか悩んでいるとのことでした。
私はかつて助けてもらった恩を返したい気持ちが込み上げ、「もしよければ、この家を生かして飲食店にできないでしょうか」と提案しました。
私には古民家をカフェとして再生する支援経験があり、A子さんには料理の仕事の経験がある。無理のない形で協力できれば、生活の再建にもつながるのではないかと思ったのです。
A子さんは驚きつつも、「そんな方法もあるんですね」と前向きに受け止め、母娘で相談した上で取り組む決断をしてくれました。
恩返しのカフェが生んだ未来
改修工事を経て古民家カフェはオープンしました。A子さんの丁寧な料理、B美さんの家庭的な一品が評判となり、地域の人々が集まるあたたかな場所になりました。
地元の農家や生産者とつながりながら、地元食材を使ったメニューを増やすことで、地域との関係も広がり始めました。お客さまとの交流を通じてイベントを企画する機会も増え、カフェは地域の小さな拠点として定着していきました。
ある日、営業が落ち着いた午後、私はA子さんに「少しは恩返しができたかな」と尋ねました。すると、A子さんは「あのとき助けてもらったのはこちらも同じです。今こうして一緒に取り組めていることが、本当に励みなんです」と笑顔で返してくれました。
恩を返すつもりだった私が、気付けば新しいつながりや学びをもらっている。そんなことを実感する時間でした。
まとめ
10代のころに受けた小さな親切を、年月を経て自分なりの形で返せたようでよかったですね。古民家カフェの再生を通して、恩人との再会だけでなく、地域との新たなつながりも生まれました。「恩返し」は一度きりの行為ではなく、支え合いながら続いていくものなのだと気付かせてくれますね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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