そんなある日、私は近所のママ友たち数人を招いて、試作中だった新メニューのカレーを食べてもらうことにしました。
カレーにナッツは“真似”なの?
「カレーの味、どう?」
少し緊張しながら聞くと、「カレーにナッツって合うんだね! おいしい!」とママ友のひとりが笑顔で言いました。ほっと胸をなで下ろした、そのときです。同席していた別のママ友が、スプーンを止めたまま黙り込み、そのまま足早に帰ってしまいました。
その様子が、少し気になっていました。
そして翌日の夕方、店のドアが、勢いよく開き、昨日黙って帰ったあのママ友が店に入ってきました。
「カレーにナッツを入れるなんて、私のパクリよね? アイデア料、払ってほしいんだけど!」
あまりにも突然、思いもよらなかった言いがかりをつけられて頭が混乱しましたが、私は気持ちを落ち着けて、できるだけ丁寧に説明しました。
「ナッツを使ったカレー自体、珍しいものじゃないし、私はあなたが作っていることも知らないよ。アイデア料は払わないよ」
けれど彼女は聞く耳を持たず、私の説明を遮るように、同じ主張を繰り返しました。
夫の言葉に我に返って
そのとき、店の外から「どうしたの?」と声がしました。
彼女を迎えに来たらしい夫が、心配そうに店へ入ってきたのです。事情を簡単に説明すると、彼は首をかしげてこう言いました。
「うちの家のカレーは昔からナッツを入れてたよ。母がずっと作ってた」
そして、彼女の方を見て、静かに続けました。
「君は母のカレーを参考にして、ナッツを入れるようになったんだろう? じゃあ君はうちの母にアイディア料を払ったか? 『真似された』『パクりだ』って決めつけて騒ぐ前に、少し落ち着こう」
その言葉に、彼女はしばらく黙り込み、やがてぽつりと口を開きます。
「……ごめんなさい。私、インフルエンサーをしてて、数日前にうちのカレーをSNSで紹介したばっかりだったから、つい真似されたと思っちゃったの。最近何でも自分の真似をされている気がして……余裕がなかったの」
私はそのママ友がSNSをしていることも、インフルエンサーだということも初耳でした。もちろんカレーの投稿なんて見ていませんでしたが、反省しているママ友の姿を見て、今回のことは水に流そうと思いました。
その日、ママ友とその夫は謝罪してくれました。そして後日、あらためて家族で店に食事に来てくれました。
「この前は本当にごめんなさい。あなたの特製カレー、ちゃんと食べ直したいなと思って」
私は笑って答えました。
「もちろん。ゆっくり味わってね」
ほどよい距離感で
正直なところ、あのときは突然の言いがかりにかなり驚きました。でも、きちんと話をして、誤解が解けたことにはほっとしました。感情的にならずに向き合えば、ちゃんと伝わることもあるんだと実感しました。
今の私たちは、顔を合わせれば自然に挨拶ができる関係です。それで十分だと思っています。小さなすれ違いはあっても、奪い合うより、分かり合おうとすること。そのほうが、ずっと気持ちよく毎日を過ごせるのだと。この場所を、そんな穏やかな空気で満たしていけたらいいなと思っています。
※ナッツ類は6歳以下の子どもには危険なので、与えるのはNGです。特に3歳未満は乳歯が生えそろっておらず、噛んですりつぶすことができません。3歳以上でも、ナッツ類が気管に入ると油分で肺炎を起こしたり、水分を吸って膨らみ気管をふさいてしまう危険があります。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。