夫が残業に。義母と2人だけの食事で…
夫が帰ってこないとなれば、義母とふたりで食卓を囲むことになります。気まずくなるのは目に見えていました。思わず、そのままの気持ちを夫に伝えると、彼は「母さんはお前のこと気に入ってるじゃん」と軽く言いました。
私は思わず、乾いた笑いが出そうになりました。「気に入っている」という言葉が、どれだけ都合よく使われているか。今日だって義母は私の服装を見て「派手!」と言い放ち、作っている料理にも小言を挟んできたのです。
夫は「お前のことだから反論したんだろ」と言います。たしかに私は、年齢を理由におしゃれをやめたくないことを、きちんと言葉にしました。すると夫は「我の強い母さんに言い返せるのはお前だけだよ。母さんの言うことは気にしなくていいから」と、まるで褒め言葉のように言ったのです。私は、その言葉の裏にある「だから任せた」という空気を感じ取り、胸が冷えました。
義母と食卓を囲んでいると、義母は「あなたは口が達者でいいわねえ」と言い、私は「そうみたいですね」と返しました。そして心の中で、ひとつ決めました。夫が「気にしなくていいよ」と言うのなら、私は“気にしていないふり”をしながら、ちゃんと自分を守る選択をしよう。その決意は、数カ月後、別の形で試されることになります。
「ホテルに行きたい」のひと言に、夫は…
1カ月後の夜、時計の針は22時を回っていました。夫は「今日は早く帰る」と言っていたのに、連絡がつきません。時間が過ぎるほど、怒りは不安に変わっていきました。ようやく返信が来たのは、さらにしばらくしてからでした。「ごめん!思ったより遅くなっちゃった。今から帰るよ」。
私はほっとしながらも、その“遅れた理由”を聞かずにはいられませんでした。夫は、スマホの充電が切れていて連絡が遅くなったのだと、笑い混じりに説明しました。最近、夫が私に対して雑になっていると感じることが増えていた私は、その説明にひっかかりを覚えました。
すると夫は「来月から残業が減るから」と言ったので、私は久しぶりに旅行に行こうと提案しました。実は行きたいホテルがあるのだと伝えると、夫はなぜか妙に強く「ホテルじゃなくて旅館にしない?」と言い出したのです。
温泉のほうがゆっくりできそうだ、と理由を並べ、夫は「とりあえずホテルはなしで」と言いました。ホテルなら、わざわざ旅行で行く必要もないとも言います。違和感はありましたが、私は「じゃあ探しておくね」とうなずきました。その流れで、夫は今月末に急な出張が入ったことを告げました。私は「わかった」と軽く返し、みやげ話でも聞けたらいいな、くらいに思っていました。
夫が忘れていった茶封筒の中身は…?
数週間後、夫から出張先に着いたという連絡をもらったとき、玄関に茶封筒が置いてあるのに気づきました。仕事の資料かと思って手に取った瞬間、何かの券が滑り出てきました。見ると、ホテルの宿泊券。それも2人分でした。私は一瞬、思考が止まりました。
さらに目に入ったホテル名は、私が行きたいと言っていたあのホテルでした。偶然? それとも――。胸がざわつき、私は夫にメッセージを送りました。もしかして私へのプレゼント? サプライズ? と。返ってきたのは、間の抜けた「え?」という反応のあと、「そう! 実はそうなんだ!」という、苦しい肯定でした。
私は宿泊券を見つめ、宿泊日を確認しました。今日と明日です。「あなたは出張だよね。じゃあ、お義母さんと行こうかな」と冗談めかして送ると、夫は慌てて止めてきました。そして言い直したのです。あれは取引先へのプレゼントの予定だった、と。
さっきまで私へのプレゼントだと言っていたはずだと指摘し、取引先への贈り物を茶封筒に入れるのも不自然だと伝えると、夫はしどろもどろになり、「経費の関係があるから」と辻褄の合わない言い訳を重ねました。その瞬間、私ははっきりと理解しました。これは“贈り物”でも“仕事”でもなく、私に隠したい何かのための宿泊券なのだ、と。
義母を連れて夫の出張先へ…連絡すると
その日の数時間後、私は義母を連れてホテルにいました。自分でも、こんな行動に出るとは思っていませんでしたが、どうしても確かめたいことがあったのです。義母は「たまには粋なことするわねえ」と上機嫌で、ロビーのソファに座るなり、夫に電話をかけました。
「今どこにいるの?」。夫が出張中だと答えると、義母は「そんなの知ってるわよ。◯◯県のホテルにいるでしょ?」と笑い、「だから追いかけてきちゃった」と甘えるような声を出しました。そのやり取りを横で聞きながら、私は義母の“行動力”が、今回に限っては頼もしいとさえ感じていました。
案の定、夫は私に電話をかけてきました。息を荒くしながら「どういうこと!?」と問い詰めてきます。私は淡々と「宿泊券がなくても、身分証(身分証明書)でチェックインできた?」と返しました。すると電話口で、夫が「インターホンが鳴った……」とつぶやいたので、私は静かに笑いました。
夫が泊まる部屋へ義母が向かい…その結果
私が「あちゃ〜、お義母さん行っちゃったんだね」と言うと、夫が「はあ!?」と声を荒げます。そして最後に、ずっと言いたかった言葉を吐き出しました。「その部屋に一緒にいる女も、ついでに紹介してくれる?」。夫の息が止まる音が聞こえた気がしました。
私は静かに畳みかけました。私が何も知らないと思ったのか。ここ最近感じていた違和感が、ようやく形になった瞬間でした。私は電話越しに言いたいことだけを伝え、夫の顔を見ることなく自宅へ戻りました。
夫は帰宅後、私の前で「……ごめん」と頭を下げました。私は淡々と離婚届を差し出し、「サインよろしく」とだけ告げました。夫は「離婚したかったわけじゃない」「魔が差しただけ」「本気じゃなかった」と、ありきたりな言葉を並べました。結婚して1年しか経っていないのに魔が差す。その言葉を、私は信じることができませんでした。
後日、私は夫と離婚し、独身に戻りました。元夫は義母の言うとおり実家に戻り、今も義母の監視下で暮らしていると聞いています。ショックは大きかったけれど、今は離婚してよかったと思っています。悪いことのあとには良いことがあると信じて、私は自分の人生を、もう一度楽しんでいこうと思います。
◇ ◇ ◇
夫が、自分の行動ひとつひとつが妻にどんな不安や孤独を与えていたのかにきちんと向き合っていれば、結果は違っていたのかもしれません。夫婦関係は、相手の気持ちを想像し、誠実に向き合う姿勢があってこそ成り立つものなのだと、改めて考えさせられますね。
【取材時期:2026年1月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。