定時で帰るはずの夫から、突然の告白
「俺、余命半年だって」
画面に並んだ文字を見た瞬間、頭の中が真っ白になりました。冗談だと思いたくて、「嘘でしょ? 変な冗談はやめて」と返したのですが、夫は「冗談じゃない。俺だって嘘であってほしかった」と続けます。
私はただ「どうして?」「どういうことなの?」と問い返すしかありませんでした。なぜなら、今年の健康診断では問題がなかったはずだからです。そのことを伝えると、夫は「健康診断とは別で、最近ずっと体調が悪くて病院に行ってた。今日、精密検査の結果を聞いた」と言いました。
「こんな大事なこと、なんでLINEで伝えるの?」思わずそう送った私に、夫は突然怒りをぶつけてきました。「俺だってつらいんだ。ひとりになりたい。今はお前に気を使う余裕なんてない」
責めるつもりはありませんでした。ただ、受け止めきれなかったのです。けれど、画面越しの強い言葉に心が萎縮し、私は謝ってしまいました。「ごめん」と。夫も「俺もごめん」と返してきましたが、私の胸をさらに冷たくしたのは、その次でした。「しばらくひとりになりたい」余命半年と告げたその日に、夫は家に戻らないと言ったのです。
夫「ひとりにして」…私ができることは?
夫は「残りの半年をどう過ごすか考えたい」と言いました。私は「わかった」と返しながらも、心の中ではずっと同じ言葉が渦を巻いていました。――私は妻なのに、なぜ一緒に考えられないのだろう。
私は、仕事は辞めるのかと尋ねました。けれど夫は「辞めない」と言います。会社にもまだ言っていない、告げられたばかりで整理できていない、だから矢継ぎ早に聞かないでくれ、と。私はまた謝りました。
それでも、私にできることを言葉にしたくて、「私の給料だけでも生活できる」と伝えました。夫は「ありがとう」と返し、「とにかく少し放っておいてくれ」を繰り返しました。
夫は「毎日連絡だけは入れる」と言い、その日から短いメッセージが届くようになりました。ただ、そこに夫婦らしい温度はほとんどありませんでした。心配したいのに距離を求められ、近づこうとすると拒まれる。私は、支えたいという気持ちの置き場を失っていきました。
夫が口にした「財産」…衝撃の連絡が
1カ月後のこと。夫から「久しぶりに家に帰ろうと思う」と連絡が入りました。私はその日、どうしても外せない打ち合わせが入っており……そのことを伝えると夫は不機嫌になりました。「余命宣告を受けている夫より大事なのか」と。
そして夫は「今日は報告がある」と言い出しました。何だろうと返すと、返ってきたのは予想外の言葉でした。「俺の財産は人生で最も愛した人に全額譲った」
一瞬、意味がわかりませんでした。夫の貯金が、100万円ほどであることは知っています。私は「私の口座には1円も振り込まれてないけど」と返しました。すると夫は「一番はお前じゃなかった」と続け、「ずっと前から好きな人がいた」「最後のわがままだと思って許してほしい」と言うのです。
不倫なのかと問うと、夫は「不倫じゃない。純愛だ。プラトニックで、相手は俺の気持ちを知らない」と主張しました。けれど私には、それが“美談”に聞こえませんでした。そして夫は、核心を口にしました。「離婚届にサインしてほしい」好きな人に気持ちを伝えてしまったら不倫になるかもしれないから、離婚してほしい、と。
余命宣告の矛盾…隠されていた真実は
「財産分与はしてもいいから」と夫は言いました。私は、その言い方にも違和感がありました。財産分与は“してもいい”ものではなく、当然の話です。にもかかわらず夫は、自分の都合だけで人生を組み替えようとしている。
さらに夫は「最期は彼女に看取られたい」と言いました。そこで私は、これまで抱えていたモヤモヤが、すっと晴れていくのを感じました。夫の言う「余命半年」は、なぜか現実味が薄い。余命宣告を受けたと言いながら、仕事は続ける、会社には言わない、診断書もなく説明は断片的。それなのに“彼女”の話だけは妙に具体的で……。
夫はその後も離婚を迫り、私は拒み続けました。夫は「残された時間がない」と訴えましたが、私の中では少しずつ確信が固まっていきました。そして、余命宣告から“半年”が近づいたころ。私は夫にメッセージを送りました。「余命半年って言ってたけど、調停に来られる?」
夫は「行くに決まってる」と返してきました。そこで私は、はっきり伝えました。――余命宣告は嘘でしょう。私はこの数カ月間に、必要なことを調べ、整理し、証拠として揃えていました。夫が本当に隠していたのは病気ではなく、不倫と、その先の事情だったのです。
調停の場へ…夫が懇願してきたこととは
調停の場で私が出した“事実”を前に、夫の態度は変わりました。強気だった言葉は消え、「どんな条件でものむから、親や相手の親には言わないでほしい」と懇願してきたのです。
けれど、順序が違います。どうやら不倫相手は妊娠しているようでした。プラトニックだと話していた夫の発言は、すべて嘘。子どもに罪はありませんが、嘘で人を踏みにじった行為には責任があります。誠実に生きると言うなら、まず自分たちが事実と向き合うべきだ――私は、そう伝えました。
私は、「義両親にきちんと説明すること」「不倫相手に渡した100万円は夫婦の共有財産にあたるため、返してもらうこと」「夫と不倫相手それぞれが慰謝料を支払うこと」これらを条件に、離婚に応じました。ただしそれは、“終わり”ではなく、私が自分の人生を守るための始まりです。前だけを向いて、進んでいきたいと思います。
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大きな不安や悲しみにつけ込むように、言葉を“免罪符”にしてしまう人もいますよね。違和感を飲み込み続けるほど心はすり減っていくもの。相手の言葉ではなく、事実と自分の気持ちを大切にして、人生を立て直していけるといいですね。
【取材時期:2026年1月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。