姉からのお願いを断れず…思わぬ事態に
「ごめん、急きょ病院に行きたくて……今日だけ娘を預かってもらえない?」
姉はシングルで、頼れる人が近くにいません。迷った末に、私は「わかった」と答えました。4歳になる姪っ子には、会議中だけ別室で動画を見てもらうことに。お菓子も飲み物も用意し、あとはいつも通り仕事をするだけ。
参加者は私、社長、そして同僚のA。会議の滑り出しは順調。――そのはずでした。
姪っ子のひと言に、思わず凍りつき…
会議の途中、背後で「ガチャ」とドアが開く音がしました。
「パパー!!」
振り向くと、姪が小走りでこちらに向かってきていました。どうやら動画が止まってしまい、助けを求めに来たようです。しかも最近、ごっこ遊びの影響で、なぜか私のことを「パパ」と呼ぶのがブームで……そのまま口から出てしまったようでした。
頭が真っ白になりました。慌ててカメラと音声をオフにし、姪に「ごめんね、今お仕事中。戻って待ってて。動画はあとで直すから」と伝えると、姪は「うん……」としょんぼりしながら部屋に戻っていきました。
カメラと音声を再びオンにすると、社長から「かわいい娘さんね」と声をかけられたため、私はすぐに事情を説明しました。「申し訳ありません。今日は姪を一時的に預かっていまして……別室で待たせていたのですが」と伝えると、皆が状況を理解してくれました。こうして、会議は何事もなかったかのように進んでいきました。
ですが、ほっとしたその瞬間、画面の端で同僚のAが笑ったように見えたのです。
「一体誰が…?」切り取られた動画に困惑
会議は無事に終わり、プレゼンもうまくいきました。――よかった。今日はこれで終わり。そう思っていた数時間後、部内チャットがざわつき始めたのです。
「隠し子がいるって本当?」
「バツイチ?」
「4歳くらいの女の子だって……」
誰かが“会議中の一場面”だけを切り取り、勝手に話を膨らませている――そんな空気がありました。さらに追い打ちをかけるように、社長から個別チャットが届きます。「いま社内で噂が出ている。事実確認をしたいから、チャットをつなげますか」
責めるような口調ではありません。むしろ冷静。それでも心がざわつきました。噂の発信源は、だいたい見当がついていました。同僚のAです。
実は以前から、私が社長直下の案件を任されるたびに、Aは遠回しに不満を口にしていました。「俺のほうが社長案件向いてると思うんだけどなぁ」「評価って不公平だよね」だからこそ、今日の“姪の乱入”は、Aにとって格好のネタになったはずです。
社長と面談―動画を切り取った人物は
社長との面談で、私は「姉の急な事情で姪を預かったこと」を正直に説明しました。社長はうなずきながら話を聞いたあと、こう言いました。「確認するのは、あなたの事情じゃない。噂がどこから出たのか、よ」
そして社長は、社内ルールに従って淡々と調査を進めました。翌日、社長から呼び出しがあり、そこには私と社長、そして同僚のAがいました。社長はまず私に向かって言います。「あなたについては問題ありません」 続けてAに視線を移し、「問題はあなた。昨日の社内チャット、あなたが“噂の種”を投下している」と指摘しました。
Aは「そんなつもりは」と笑ってごまかしましたが、社長は画面に履歴を映します。そこには、Aが複数の社員に送っていたメッセージが並んでいました。「あなたは会議に出席していたのだから、“姪”だということは知っていたはずよね?」Aの顔から、さっと血の気が引きました。
社長はさらに続けます。「事実を知っていながら、あえて“子ども”と表現した。噂を広げたのはなぜ?」Aが黙り込むと、社長は静かに言いました。「仕事は、足を引っ張って取るものじゃない。今後については考える」Aは明らかに動揺していました。
その後、社長は社内に短いメッセージを出しました。「昨日の噂は事実と異なる。関係者には注意する。今後、憶測の拡散には厳しく対処する」ざわついていたチャットは、ぴたりと静まりました。帰ろうとしたとき、社長は私に小さく声をかけてきました。「大変だったわね。これからも、足を引っ張られることがあるかもしれないけれど、あなたの仕事は誠実だし、自信を持って進んでいって」
私はお礼を伝え、帰宅しました。姪の「パパ!」は最悪のタイミングでしたが――仕事への姿勢は、きちんと誰かが見てくれている。そう感じた出来事でした。
◇ ◇ ◇
日ごろから誠実に仕事と向き合っていれば、きちんと見てくれている人はいるもの。だからこそ、日々の仕事に丁寧に向き合っていきたいですね。
【取材時期:2026年1月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。