しかし、事態は翌日に一変します。深夜、私のスマホに義妹から震える声で連絡が入ったのです。「お母さんが危篤なの! すぐに病院に来て!」
義母は夫と旅行に行っているはずなのに、なぜ地元の病院に……? 急いで病院へ駆けつけましたが間に合わず、義母は息を引き取りました。
病室で泣き崩れる義妹や義母のきょうだいたち……。その輪の中に親孝行な息子であるはずの夫の姿はありません。私は何度も電話をかけました。しかし、夫は一度も電話に出ることはありませんでした。
夫の旅行の相手は…?
翌朝、ようやく連絡がついた夫は、寝ぼけたような声でこう言い放ちました。「母親と旅行中なんだから、何度も電話してくるなよ」
そのひと言で、すべてを察しました。母親と旅行というのは夫の嘘。私は騙されていたのです。
怒りで視界が歪む中、私は冷たく事実を告げました。「お義母さん、亡くなったよ」
数秒の沈黙の後、夫は「何の冗談だよ」と取り乱しましたが、私の怒りは収まりません。さらに義妹から聞かされた事実は、追い打ちをかけるように私を絶望させました。
夫は頻繁に「実家に泊まる」と言って家を空けていたのですが、義母は「息子は年に数回しか顔を出さない」とこぼしていたそう。夫は「実家に泊まる」と嘘をついて、不倫相手と密会していたのでしょう。
「不倫してるの?」という私の問いかけに「だからなんだよ。そもそもお前が家庭で口うるさいから、俺だって息抜きが必要だったんだ!」と開き直る夫。すべての責任を私に押し付けるような身勝手な言葉を投げつけてきました。
親族席に座るな!
葬儀当日、夫は平然とした顔で会場に現れました。しかし、葬儀場で彼を待っていたのは、事情を知り激怒した親戚一同。「お前のような親不孝者に見送る資格はない」と冷たく言い放たれ、夫は親族席への着席を断固として拒否されたのです。
焼香の列に並ぶ一般参列者に混じるよう促された夫は、私に「俺は実の息子だぞ!前の席に座れるように説得してくれ!」と泣きついてきました。
しかし私は「嫌に決まってるでしょ。私もあなたに参列してほしくないの」と突き放します。
夫はなおも「男なら遊びの1つや2つ、あって当然だろう。葬儀の場にまで私情を持ち込むなんて、お前こそ空気が読めてないんじゃないか?」と、どこまでも自分を正当化する主張を続けました。そればかりか、夫は「母親が死んだなら、俺には遺産が入るんだ。今離婚したらお前も損だぞ」と、亡くなったばかりの義母を金づる扱いしたのです。
あまりに卑劣な言葉の数々に、私は悲しみを通り越し、冷めた怒りを感じていました。結局、夫が親族席に座ることは許されず、身内から完全に排除された状態で葬儀は厳かに執り行われました。
夫の末路
義母の四十九日を終え、ようやく身の回りの整理がついたころ、私は用意していた離婚届を夫の前に突きつけました。
「遺産があるなら、慰謝料も払えるよね」 私の言葉に夫は青ざめました。 実は義母に遺産と呼べるほどの蓄えはほとんど残っておらず、彼が当てにしていた金などどこにもなかったのです。
多額の慰謝料だけを背負わされた夫は、不倫相手にも見捨てられ、現在は孤独で苦しい生活を送っているようです。一方私は独身に戻り、穏やかな日常を過ごせるようになりました。あの日、勇気を出して縁を断ち切ったことで、ようやく自分自身の人生を取り戻せたと実感しています。
◇ ◇ ◇
「親孝行がしたい」というやさしい言葉が、まさか自分勝手な嘘だったなんて……。信じて送り出した家族にとって、これほど悲しい裏切りはありません。
その場しのぎの嘘は、一度ついてしまうとそれを隠すためにまた新しい嘘を重ねることになってしまいます。そうして積み上げた嘘はいつか必ず自分に跳ね返り、一番大切にしなければならない家族や親族からの信頼を一瞬で失わせてしまうのです。
自分に正直でいること、そして身近な人を大切にすることは、当たり前のようでいて、実はとても大切なことではないでしょうか。
【取材時期:2025年12月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。