悲しむ間もなく「全部あなたがやって」
義母は私のほうを見て、ためらいなく「葬儀の準備だけど、あなたが全部やってちょうだい」と言ってきたのです。
私は思わず「……私が、ですか?」と聞き返しました。すると義母は当然のようにうなずき、「だって、あなたの実家、葬儀の仕事でしょ?プロなんだから慣れてるはずよ」と一言。さらに義母は「とにかく安く済ませたいのよね。でも豪華にお願いね! うちは親戚も多いから恥をかくわけにはいかないの」と言い切りました。義父の死を悲しむ様子もなく、見栄ばかり気にする義母の発言に唖然としました。すると、夫が黙っていられず「母さん、そんな言い方はないだろ。父さんのことで気持ちの整理もついていないのに、全部押し付けるなんておかしいよ」と止めてくれました。ところが義母は不満そうに息を吐き「家族なんだから助け合うのが当然でしょ? 嫁なんだから、そのくらいやってもらわないと困るわ」と言い返してきたのです。
私は正直戸惑いました。義父には生前お世話になったし、夫の負担も少しでも減らしたいと思い、喉の奥の引っかかりを飲み込みながら「……わかりました。私にできることはやります」と答えました。すると義母は、当然だというような顔でうなずいたのです。
準備は全部私、口出しだけの義母
葬儀までの数日間、私は義実家と葬儀場を行き来していました。夫は喪主としての手続きに追われ、義母は「私は気が動転しているから」と言って、何ひとつ動こうとしませんでした。結果、式場との打ち合わせ、祭壇の内容、料理や返礼品の確認、親戚への連絡まで、すべて私が担当しました。
義母はというと、手伝わない代わりにダメ出しばかりで……。私が祭壇の案を見せると、義母は一目見ただけで顔をしかめ「これ、地味じゃない? もっとお金かかってそうにできないの?」と一言。 料理についても「これじゃ少なくない? ケチったって思われるじゃない! 恥をかくのは私なのよ?」 とため息混じりに言うのです。さらに、打ち合わせのたびに 「本当に身内価格なの? あなたの実家、これくらい融通きくでしょ?」 と、まるで私の実家ごと値踏みするような言い方をしてくるのです。それでも私は、義父のことを思い出しては踏ん張りました。
そして迎えた葬儀当日。私は控室で最後の確認を終え、ようやく肩の力を抜いたところでした。すると、義母が近づいてきて「お疲れ様。準備、間に合ってよかったわね」と声をかけてきました。その一言に、私はほんの少しだけ救われた気がしました。 しかし、次の瞬間、義母は笑いながら「じゃあ、準備も終わったし! 他人はさっさと帰って」と言い放ったのです。私は聞き間違いかと思い「……今、何と?」と聞き返しましたが、義母は不思議そうに首をかしげ「あなたもう用は済んだでしょ? 他人なんだから、ここにいる必要ないわよ」と当然のように答えるのです。私が「参列もしちゃいけないんですか?」と尋ねると、 義母は「あなたがいるとコネで葬儀を手配したって思われるでしょ? せっかく立派な式にしたんだから、余計な誤解は避けたいのよ」と言うのです。その瞬間、すべて腑に落ちました。私は“義父を送る家族”ではなく、 都合よく使われて、用が済んだら消える存在だったのだと。
ここで感情的になったら、義父の葬儀を台無しにしてしまうと思い「……わかりました。本当にいいんですね? では、失礼します」と一言。会場を出てすぐ、夫に「義母に“他人は帰って”と言われ、参列も断られた……。いったん帰ります。あなたは喪主として、義父を見送ることを優先して」とメッセージを入れ、私はその場を離れました。
義母から鬼電
帰宅してしばらくすると、義母から何度も着信がありました。電話に出ると、「どういうことなの! 葬儀屋が動いてないじゃない!」と怒鳴られました。 私は落ち着いて「私は遺族の一員として準備していました。でも『他人』と言われた以上、その立場はありません。不当な言動があった場合は担当を外れる決まりです」と伝えました。
その直後、今度は夫から連絡が入りました。会場がざわついていること、そして私が帰ったあと、義母が親戚の前で急に態度を変えたことを教えてくれました。 親戚が集まり始めたタイミングで、義母は突然ハンカチを取り出し「嫁が勝手に帰ってしまって……」 と、さめざめと涙を流し始めたそうです。義母の演技に激怒した夫は「妻から事情を聞きました。母が、準備を任せていた妻に“他人だから帰れ”と言いました。だから妻は帰りました。勝手に帰ったわけではありません」と告げたそうなのです。すると親戚たちが「泣けば済む話じゃない! 今日は故人を送る日でしょう」と義母を責め始めたのです。その流れの中で、夫は「妻は他人ではありません。大事な家族です。一緒に父を見送る権利があります」と言ってくれたのです。
私は夫に呼ばれて会場に戻り、遺影の前で静かに手を合わせました。親戚の方々が「大変でしたね」「嫌な思いをさせてごめんなさい」と声をかけてくれて、私は小さく頭を下げることしかできませんでした。
葬儀はそのまま、落ち着いた雰囲気で進みました。ふと横を見ると、義母は親戚の視線を避けるように、祭壇の後ろで小さくなっていました。さっきまでの涙も言葉も、もう出てきません。誰も慰めに行かず、会場には「これ以上、余計なことはしないで」という空気だけが残っていました。
私は大好きだった義父をきちんと見送れたこと――それだけで、十分でした。
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人を都合よく使って切り捨てれば、信用は一瞬で消えます。冠婚葬祭は、その人が「誰をどう扱うか」がはっきり出る場です。見栄より敬意――それが最後に残る評価なのかもしれませんね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。