「客に皿の違いなんてわからん」とキャンセル
トラックに荷物を積み込もうとしたそのとき、スマホが鳴りました。相手は和食店の大将です。
「あー、例の皿だけどさ、やっぱ全部キャンセルで」 「えっ…? 今日が納品日ですよ? いま積み込んでます!」「いや実はさ、海外の業者から似たような皿を半値以下で仕入れられることになってね。客に皿の違いなんてわからん。経費削減だよ、経費削減」
私は耳を疑いました。1年前から打ち合わせを重ね、試作を繰り返してきた集大成です。「それはあんまりです! 契約書だって交わしていますし、今更キャンセルなら全額請求させていただきます!」 私が食い下がると、大将の声色がドス黒いものに変わりました。
「おう、勝手に請求書を送れよ。1円も払わないけどな。文句があるなら裁判でも何でもしろ。ウチの顧問弁護士が相手してやるよ。お前の個人工房なんて、裁判費用で先に潰れるだろうけどな」
在庫の山を前に呆然…そこへ訪問者が
一方的に電話を切られ、私は呆然と立ち尽くしました。こちらは弱小工房。裁判になれば勝てるとしても、時間と費用で体力が持ちません。在庫の山と借金だけが残る……そうして絶望していたときのこと。
以前、個展に足を運んでくれた温泉宿の支配人が、突然工房を訪ねてきたのです。普段であれば内情を話すことはありませんが、このときは本当に参っていて……思わず事情を打ち明けました。
すると、「この器、すべてうちの宿で買い取らせていただけませんか?」 まさに地獄に仏。私の器は、無事に宿へと嫁ぐことになりました。
リニューアル後の和食店で起きたこと
一方、海外製の激安食器を導入した和食店では、思いもよらないトラブルが相次いでいたようです。
地元の飲食店事情に詳しい知人の話によると、取り寄せた器の中には「欠け」や「ヒビ」があるものが混ざっていたとのこと。さらに、ホームページの写真とは仕上がりが異なる部分もあり、「こんなはずじゃなかった」と困惑する事態になったそうです。
そして、より深刻だったのは常連客の冷ややかな反応でした。リニューアル後の変化を楽しみにしていたものの、「なんだか安っぽくなった」といった声が広まり、店の評判にも影響が出始めているようです。
「倍払うから持ってきてくれ!」突然の連絡
そんなある日、大将から電話がありました。「お、おい! やっぱりお前の皿が必要だ! 倍払ってもいい、今すぐ持ってきてくれ!!」焦りきった声で叫ぶ大将。しかし、私は冷静に答えました。
「どういうことですか? すみませんが、あの器はもう手元にありません」 「はあ!? 捨てたのか!?」 「いえ、◯◯様(宿の名前)にすべて納品しました」「なっ…!?」
現在、その和食店は悪評が広まり、ほとんど開店休業の状態だと聞いています。どうやら大将は雇われの立場だったようで……器を一方的に変更したことも発覚し、立場が危うくなっているとのこと。
一方で私は、これからも誠実さを大切にしながら、変わらず器づくりに向き合っていきたいと思っています。
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契約や信頼関係を軽んじた対応は、巡り巡って自分に返ってくることも。最後に残るのは、価格ではなく“信頼”なのかもしれません。
【取材時期:2026年2月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。