婚約者に芽生えた違和感
当時の婚約者とは、すでに式場を決めて結婚式の準備を進めていました。申し込み金も支払い、打ち合わせも始まり、すべて順調に進んでいると思っていたのです。
ところが途中から、彼の様子が少しずつ変わっていきました。打ち合わせを直前でキャンセルする。連絡をしても既読のまま返ってこない。ようやく電話がつながったとき、彼は軽い口調で「俺、申込金までは出したし? 残りのお金はそっちでお願い。そういう分担でいいじゃん。あとは当日払いだから、それまでにお金くらい用意できるでしょ!」と言い放ったのです。
結婚式は二人で準備するものだと思っていた私には、そのあまりに無責任な言葉がどうしても引っかかりました。さらにそのころ、彼のスマホには特定の女性から頻繁に連絡が来るようになっていました。問い詰めても、「仕事関係だよ」「ただの相談相手」とごまかすばかり。けれど私の中では、少しずつ確信に近いものが生まれていました。
この人はもう、私との結婚に気持ちが向いていないのではないか――と。
そんな状態のまま準備を続けることはできず、私は彼に、はっきりと「婚約破棄」を突きつけました。 彼は何か言いたげでしたが、私はもう疲れ切っていて、これ以上彼と揉める気力もありませんでした。 私は「あとの手続きは、名義人であるあなたが責任を持ってやっておいてね」と告げ、私は彼のもとを去りました。こうして私たちの婚約は、最悪な形で幕を閉じました。
終わったはずの結婚式
私はその苦い経験を「人生の勉強だった」と整理し、前を向いて生きていくことにしました。 それからしばらくして、私は今の夫と出会いました。彼は私の過去を丸ごと受け止めてくれる誠実な人で、驚くほどトントン拍子に話が進み、出会って半年のスピード婚を決めました。
そして、今の夫との結婚式を1カ月後に控えた、前撮りの日のことです。憧れていた白無垢に身を包み、優しく微笑む夫とカメラの前で最高の瞬間を刻んでいました。幸せの絶頂にいた、まさにその瞬間でした。 私のスマホに、見覚えのない番号から着信が入ったのです。
「結婚式の料金が未納ですので、至急お支払いをお願いします!」
電話の向こうの事務的な声に、私は一瞬で現実へと引き戻されました。混乱しながらも私は「は……? 何かの間違いでは? 先ほどお支払いしましたけど……?」そう答えると、電話口のスタッフの方も困惑した様子でした。するとスタッフの方が「え? ◯◯さんですよね?△△さんとの結婚式の件でご連絡したのですが?1年前から『延期』のお手続きをされていた名義の件なのですが。新郎様が、残金は新婦様が支払うとおっしゃっているのですが、本日が最終期限でして……」というのです。
その言葉を聞いた瞬間、全身の血が引いていくのが分かりました。それは以前、婚約破棄したときの式場のスタッフだったのです。私は「延期!? キャンセルしたんじゃなかったの!?」と怒りと共に、嫌な予感が一気に背中を駆け抜けました。
元婚約者の身勝手な計画と、自業自得の結末
事情を聞くうちに、元婚約者のあまりに身勝手な計画が明らかになりました。彼は私と別れた後、正式なキャンセルをせず、式場の規約で延期ができるギリギリまで手続きを更新し続けていたのです。さらに、あろうことか彼は、私との予約をそのまま使い、当時浮気をしていた例の女性と式を挙げようとしていたのです。
式場側がなぜそんな無茶な変更を認めたのか――。理由は単純でした。契約名義が彼のままだったからです。私との式は正式にキャンセルされないまま、延期扱いで残されていました。いよいよ挙式当日になり、残金の支払い確認が必要になったタイミングで、契約時に登録されていた連絡先の一つである私にも連絡が来たのでした。そのとき電話口から元婚約者が「おい、式場から連絡きたんだけど!? あの結婚式の金、まだ払われてないってどういうことだよ!」と激怒! あまりの言い分に、私は呆れを通り越して笑いが出てきました。
私は「……何言ってるの? 浮気したのはあなたでしょ。私、今まさに別の素敵な男性と結婚するための、前撮りをしてるんだけど。あなたの名前も顔も、二度と思い出したくないの。いい加減にして」と一言。そしてスタッフの方に「とんだご迷惑をおかけして本当にすみません。でも、私はその件とは完全に無関係ですので……。今後の支払いのことは、すべて彼本人に聞いてください」そう言って電話を切りました。電話を切った瞬間、今の夫が「大丈夫だよ、何も心配いらない。……あんな奴のために君の涙を流す必要なんてないからね」と優しく抱きしめてくれました。夫は私の目をじっと見つめ、温かい手で私の頬を包み込みました。その誠実な眼差しに触れたとき、さっきまでの怒りも恐怖も、すうっと溶けていくのが分かりました。
その後、元婚約者からは連絡がなく完全に縁が切れました。一方で、私は今の夫と温かな家庭を築き、可愛い娘にも恵まれました。家族と囲む食卓は、あの頃のトゲトゲした空気とは無縁の、穏やかな光に満ちています。
◇ ◇ ◇
結婚は人生の大きな節目。だからこそ、相手の誠実さを見極めること。そして、何より自分自身の直感を信じることが、幸せへの一番の近道なのかもしれません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。