「プログラマーは不要」新社長の暴論
就任早々、新社長は僕ら運用チームを呼び出しました。彼は、僕らが大切に守ってきた顧客データベースを指差し、鼻で笑いながらこう言い放ったのです。
「これからはAIの時代。プログラマーなんて高給取りを抱えておくのは無駄なんだよ。このプロジェクトにはデータもお前たちも、もう不要だw」
僕と、隣にいた同僚は耳を疑いました。服のサイズ感やリピート率の分析データがあってこそ、AIも正確な提案ができるはず。同僚が「過去の嗜好データがなければ、AIだって誰に何を売ればいいか判断できませんよ」と必死に説明しましたが、新社長は机を叩いて遮りました。
「古いデータはトレンドの邪魔なんだよ! ストレージ容量の無駄。今日中に全部削除して、明日からは地方の物流倉庫に異動してもらうからな」
現場を全く理解していない、あまりにも短絡的な判断。彼は「明日からは俺が導入した最新AIが勝手に売ってくれる」と豪語しています。僕は最後に一度だけ、冷静に確認しました。
「社長、本当に消していいんですね? 復旧は一切できませんが、本当によろしいですね?」
新社長は顔を真っ赤にして叫びました。「あぁ、いいからさっさと消せ! 二度と聞くな!」
僕らは静かに覚悟を決めました。「分かりました。お望み通り、すべて削除します。それと、僕は倉庫へは行きません。今日で退職させてください」
お望み通り「DELETE」実行
オフィスに戻った僕らは、淡々と作業を進めました。新社長が「ゴミ」と断言した累計100万件にも及ぶ顧客のサイズ感調整ログ、そしてサイトの動線を支える独自のプログラム……。それらすべてをサーバーから消去するためのコマンドを入力しました。
同僚が「本当に消しちゃいましたね……」と呟きましたが、僕は頷きました。「社長が公式に業務命令を出したんだ。何度も確認もしたし、僕らに責任はないよ」
画面に表示される「DELETE」の進捗バーが100%になるのを見届け、僕らは私物をまとめてオフィスを後にしました。
その夜、チームのメンバーで集まって打ち上げをしました。「明日から自由だね」と笑い合いながらも、どこか寂しさを感じていました。しかし、この後に起こる大混乱を、その時の僕らはまだ知る由もありませんでした。
崩壊したシステムと新社長の末路
数日後、僕のスマホに新社長から何度も着信が入っていました。一度だけ出ると、電話の向こうで彼は半狂乱になって叫んでいました。
「おい! サイトがエラーだらけで動かないぞ! 誰にDMを送ればいいかも分からないし、AIが全然違う層に広告を出してクレームの嵐だ! すぐに戻って直せ!」
僕は冷静に答えました。「社長がおっしゃった通り、古いデータはすべて削除しました。何度も確認しましたよね? AIが数秒で新しい仕組みを作ってくれるのではなかったのですか?」
実は、彼が「ゴミ」と呼んだデータは、ブランドの信頼そのものでした。好みを無視したAIの暴走により、常連客は一斉に離脱。慌てて外部業者を呼んだようですが、10年分の信頼(データ)を買い戻すことはできず、ブランドは存続の危機に。
結局、独断で資産を破棄させた新社長は親会社から大目玉を食らい、わずか1ヶ月で解任されたと聞きました。一方僕と同僚は、以前から誘われていた別のECブランドにチームごと引き抜かれ、今では理解あるオーナーのもと、データと感性を大切にする仕事で以前より高い評価を得ています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。