保育園に通い始めてしばらくしたころ、送り迎えのときによく話しかけてくるママがいました。そのママが、A子さんです。
A子さんはとても社交的で、最初は「気さくな人だな」と思っていました。しかし会話を重ねるうちに、少し違和感を覚えるようになったのです。
マウントを取ってくるママ友
A子さんは何かにつけてお金の話をする人でした。
「うちは夫の仕事が忙しくてねぇ……でもその分稼ぎはいいから、私は自由にさせてもらってるんだけど」
「年に2回以上は海外旅行に行くの! お金はかかるけど、やっぱり子どもたちには早いうちからいろんな経験をさせておきたいじゃない?」
さらに、私が離婚してシングルであることを知ると、A子さんはこう言ったのです。
「ひとりで子育てって大変でしょう? 私には絶対できないわ」
言葉自体は心配しているようにも聞こえましたが、どこか私を見下しているような雰囲気を感じました。子ども同士は仲良く遊んでいましたが、私はA子さんとはなるべく距離を保つようになったのでした。
公園でママ友に言われた一言
週末になると、私は娘と近所の公園へ行くのが習慣でした。体を動かすのが大好きな娘は、公園でたくさんの友だちと遊ぶようになり、私たちにとって大切な時間になっていました。
しかし、とある週末、いつものように公園で遊んでいると、A子さんとその子どもがやってきたのです。
子どもたちはすぐに一緒に遊び始めましたが、私の姿を見るなりA子さんはわざとらしく声を上げました。
「えっ、その格好で来たの? ジャージって……さすがに近所の公園とはいえ、どうなの?」
その日、私は動きやすいようにジャージを着ていました。娘と公園で遊ぶときは、いつもそんな服装だったのです。
私は特に気にしていなかったのですが、そのママは少し笑いながら言いました。
「もう少し、ちゃんとした服を着たほうがいいんじゃない? 貧乏くさいよ」
周りに人もいたので、私は少し気まずい気持ちに……。
私がジャージを着ている理由
そのときでした。近くで遊んでいた子どもたちが、こちらに駆け寄ってきたのです。
そして、A子さんに向かってこう言いました。
「おばちゃん知らないの? このママ、すごいんだよ!」
思いがけない言葉に、A子さんは驚いた顔をしていました。
実は、昔からダンスが大好きで、幼少期から教室に通って練習をしていた私。地元のイベントなどでは、よくパフォーマーとして出演していました。
社会人になってからは忙しくなり、踊る機会は減る一方でしたが、離婚をきっかけに生活が一変し、娘と過ごす時間が増えたことで、また体を動かす楽しさを思い出したのです。娘とのコミュニケーションのためにも、公園で娘と一緒に軽くダンスをすることもありました。
動きやすいようにジャージを着ていたのは、ダンスをするため。最初は娘と踊るだけでしたが、いつの間にか周りの子どもたちが興味を持って集まるようになりました。
「一緒に踊りたい!」
そう言ってくれる子も増え、自然と公園で簡単なダンスを教えるようになっていたのです。
心の距離が縮まった瞬間
事情を知ったA子さんは少し驚いた様子でしたが、信じられないようでした。
「どうせ、たいしたことないでしょ……」
子どもたちが「いつもみたいに踊ってよ!」と言うので、私は簡単なダンスを披露。しばらくすると周りの子どもたちがまねをし始めて、公園は一気ににぎやかに。
「楽しそうね……」
A子さんがぽつりと言ったのを聞き逃さず、私はにっこり笑って、「よかったら、一緒に踊りませんか?」と声をかけました。最初は照れてぎこちない動きでしたが、最後にはA子さんも声を上げて笑いながら、一緒に踊っていました。
帰り際、A子さんはこう言いました。
「さっきは失礼なことを言ってしまって、ごめんなさい」
私が気にしていないことを伝えると、ホッとしたような表情を見せたA子さん。それからは、公園でA子さんと顔を合わせると一緒に子どもたちと体を動かすようになりました。
ダンスは特別な道具もいらず、大人も子どもも一緒に楽しめるものです。娘と始めた小さな習慣が、思いがけず人とのつながりを広げてくれました。
これからも娘と一緒に、楽しく過ごしていけたらと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。