私は内定していた会社を辞退し、夫を支えるため専業主婦として新しい生活を始めました。
結婚してしばらくは穏やかな日々が続いていましたが、出産をきっかけに、夫との関係は少しずつ変わっていったのです……。
豹変した夫
娘が生まれてから、私の生活は一変しました。
夜中の授乳やおむつ替えで睡眠はほとんど取れず、日中も家事と育児に追われる毎日。自分のことは後回しになり、身なりを整える余裕もなかったのです。
夫は「仕事だから」と言って、どんどん帰りが遅くなっていきました。「繁忙期だから会社に泊まる」と帰らない日も。片付いていない部屋、そして鏡で自分の姿を見るたびに、「夫の足が遠のくのも仕方ないかもしれない」と思っていました。
そんなある日、帰宅した夫が部屋を見てため息をつきました。
「一日中家にいるのに、なんでこんなに散らかってるんだ?」
「母親なんだから、家のことくらいちゃんとしろよ」
疲れ切っていた私は、うまく言葉を返すことができませんでした。言い訳に聞こえないように、夫の機嫌をこれ以上損ねないように……そう思っていたのに、言葉が出てこないのです。
そんな私を見て、夫は再びため息をつきました。
「少しは身なりにも気を使ったらどうだ?」
そのときの私は部屋着ですっぴん。連日の寝不足で、肌は荒れているし、髪の毛はぼさぼさでした。
「でも、もう、これでも、精いっぱいで……」という私の言葉を遮るように、夫は無情な言葉を突き付けてきました。
「もう無理だわ。俺たち、別れよう」
あまりにも突然の言葉に、頭が真っ白になりました。出て行こうとする夫に娘のことをどうするのかと尋ねると、「お前が実家に頼ればいい話だろ」の一言。
そして翌日、ポストには夫から送られてきた、記入済みの離婚届が入っていました。まだ幼いわが子を抱えて、私は途方に暮れました。
公園での運命的な出会い
それから数日は、さらに睡眠時間が減りました。家に子どもと2人きりだと気が滅入るばかりなので、私は娘をベビーカーに乗せて近くの公園へ向かうことに。
ベンチに座ってぼんやりしていると、小学生くらいの女の子が近づいてきました。
「赤ちゃん、何カ月?」
少し驚きながらも、「まだ3カ月だよ」と答えると、女の子は興味深そうにベビーカーをのぞき込みました。
「ちっちゃいね。かわいい」
その一言だけで、少し心がゆるんだ気がしました。しばらく女の子は娘を見てほほ笑んでいましたが、ふと私のほうに向き直り、真剣な顔でこう言ったのです。
「ママ、眠れてないでしょ?」
思いがけない言葉に、思わず言葉に詰まりました。
「うちのママも、赤ちゃんのとき大変だったって言ってた。だからね、無理しちゃダメなんだって」
そして、少しだけ間をおいてこう続けたのです。
「ママがつらいと、赤ちゃんもびっくりしちゃうから」
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていたものが一気に崩れ、涙があふれてきました。
思いがけない助け
私が泣き出したのを見て、女の子は驚いた様子で「ちょっと待ってて」と言い、すぐ近くのベンチのほうへ走っていきました。
戻ってきた女の子が連れてきたのは、彼女のお父さん。落ち着いた雰囲気の男性で、泣いている私に少し戸惑いながらも声をかけてくれました。
「もし私でよければ、お話聞きますよ」
私はその言葉に安心してしまい、これまでの経緯を少しずつ話しました。
「まずは状況を整理したほうがいいですね。きっとお力になれると思います」
そう言ってくれた女の子のお父さんの職業は、なんと弁護士。2年前に妻を亡くし、現在は娘さんを男手ひとつで育てていると言いました。
そして、夫が突然出て行った場合でも、別居中の生活費(婚姻費用)や、離婚した場合の養育費を夫が支払う義務があることなど、冷静なアドバイスをくれたのです。
このまま娘と2人、路頭に迷うしかないのだろうか……と悲観的になっていた私にとって、この親子との出会いはまさに救いのように感じられました。
明らかになった真実
その後、私は女の子のお父さんのアドバイスを受け、一度実家に身を寄せ、今後について整理することにしました。
夫は私の連絡先をブロックしているようで、私から連絡することはできませんでした。しかし、共通の知人から私が実家に戻ったこと、本格的に離婚に向けて準備を進めていることを聞いたようで、焦ったのか突然ブロックを解除し、「一度話し合いをしたい」と夫から連絡してきたのです。夫の予想以上に状況が深刻だと感じたのかもしれません。
そして話し合いの場で、夫の行動が明らかになりました。仕事を理由に家を空けていた間、実際には別の女性と会っていたのです。
夫は「家庭に居場所がなかった」と言いましたが、それは言い訳にすぎません。そして、浮気は明らかな有責行為です。
夫は再構築を望みましたが、私の決意は揺らぎませんでした。慰謝料や財産分与、養育費について具体的に取り決め、私は夫と離婚して、娘と新たな生活を始めることにしたのです。
この出来事を通じて、夫婦であっても、考えていることは言葉にしなければ伝わらない。そして、つらいときに誰かに頼ることは決して悪いことではないと実感しました。
今は娘と2人で、少しずつ前を向いて生活しています。あのとき、あの女の子とお父さんに公園で出会わなければ、私は娘と2人で本当に路頭に迷っていたかもしれません。あの日の出会いが、私の人生をたしかに変えてくれました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。