帰宅した父を囲み、久しぶりの家族団らん
40代後半の私は、両親と3人家族。ある日、股関節の手術以降、介護施設に入所している父が、介護タクシーを利用して日帰りで帰宅してきました。父は車椅子に乗っています。自宅にあらかじめ設置しておいた段差のスロープを使い、介護タクシーのドライバーが、安全に家の中まで移動させてくれました。
父が無事に到着して、私と母はひと安心。リビングで、父のために介護仕様に高さを変えたこたつに座り、3人でしばらくおしゃべりを楽しみました。それからテレビを見たり、みかんを食べたり、本当に久しぶりの家族団らんです。みんなでたくさん笑う時間を過ごしました。
ただ、心配だったのは父のトイレ。施設で寝ていることが多くなった父は、筋肉が弱り、立ち動きがままならない状態です。しかし母は、「これからの自宅介護に向けた予行練習よ」と笑顔で話し、ためらうことなくトイレの介助もしていきました。
父が思わぬ行動、そしてひと言
しばらくして、母が「ちょっと早いけどお昼ごはんにしよう」と切り出し、私と2人で昼食の準備を始めます。父が常々言っていた「家に帰ったら、とんかつとうなぎが食べたい」というリクエストに応え、母は奮発してスーパーでパック売りのうなぎを買い、お手製の甘辛く濃いうなぎのタレを手作りしました。
そこへ炊きたてのご飯が登場! うなぎを乗せ、父好みにタレをたっぷりとかけて、うな丼の完成です。そして揚げ立てのとんかつも準備完了。母は父のために、朝からせっせと準備をしていたのです。私も母を手伝い、揚げたてのとんかつは父が食べやすいように小さくカットして、さあ食卓へ。
みんなで「いただきます」をする前、テーブルに運ばれた熱々のとんかつを見た父は、突然、箸ではなく、なんと手でつかみ、口に入れたのです。私は慌てて、「お父さん、やけどするよ、危ない! 箸で食べて」と、キッチンペーパーを使って熱かったであろう父の手から、とんかつを離そうとしました。
しかし父は、それに構わずぎゅっと手でつかんだまま食べ続けます。1切れ、2切れ……。私たちが必死に止めようとしても、ものすごい剣幕で、黙々と食べる父。やけどの心配をする私たちのことなど、まったく気にしていない様子で、私たちはなす術を失いました。
しかし、どうしたもんかと戸惑ったその瞬間、口いっぱいにトンカツを入れた父が、突然、「うんまかね~」とつぶやきました。
父の寝顔を見て込み上げる涙
そんな父の姿に、母と私は思わず苦笑い。「お父さん、何だかかわいいね。いつもの施設の食事ではなく、家で用意した食事をきっと食べたかったんだよ」。父のことが一層愛おしく思えて、母と2人涙が出そうでした。
食事が終わると父は、「少し歩きたい」と言い出します。家の中を歩くというのです。しかし母は、普段の父のリハビリの様子から、自力では無理なことはわかっていました。
私は察しました。父はきっと、久しぶりに家に帰ってこられて、私に元気な姿を少しでも見せたかったんだと……。そんな父の思いをかなえたくて、私と母は父に寄り添い、右手で手すりを、左手でつえを頼りに、一歩、また一歩とゆっくり、ゆっくりと長い廊下を家族みんなで歩いたのです。
その後、父はすっかり疲れて寝室のベッドでぐっすり昼寝。口を開けていびきをかく父の姿を見て、「頑張ったね、お父さん」と、その姿を見て再び涙が込み上げるのでした。
楽しい家族の時間はあっという間に流れていきました。すっきりした顔で昼寝から目を覚ました父は、その日の夕方、施設に戻るため再び介護タクシーへ。私と母は「お父さん、また来月、家に帰って来られるよ。リハビリを頑張ろうね」と笑顔で送り出しました。
まとめ
長いようで短かった、家族水入らずの1日。私たちはみんな、かけがえのない時間を過ごせたと思います。きっとこれから先やってくる父の介護の日々も、今日のように、家族で泣いて笑って過ごせる幸せな暮らしになると、私は心から信じています。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
著者:琥珀乃 たびと/40代独身女性。契約社員として働く。高齢の両親と3人暮らし。現在、父は介護施設に入所中。珈琲とパン、甘いものが好きな食いしん坊。
イラスト:ほや助
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年5月)
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