「中卒なの?」弟の婚約者のひと言に絶句
弟の結婚式を控えたある日、弟とその婚約者のB美さん、そして私たち夫婦で食事をする機会がありました。
B美さんは家族がブライダル関連会社を経営しており、自身もその仕事に携わっているとのことでした。食事をしながら仕事の話になり、私が中学校を卒業してすぐに職人の世界へ入ったことを話すと、B美さんは弟と私を見比べて、驚いたような顔をしました。
「えっ、中卒なの? 彼は有名大学を出ているのに、兄弟でずいぶん違うのね」
思いがけない言葉に、私は返事に困りました。
さらに、私が和装の花嫁衣裳を専門に仕立てる仕事をしていると話すと、
「今はお色直しでもドレスを選ぶ人が多いでしょう? 和装の花嫁衣裳を仕立てる仕事だけで、この先もやっていけるのかしら」
と、私の仕事をどこか軽く見るような口調で言ったのです。弟は気まずそうな顔をしながらも、B美さんを止めることも、私をフォローすることもありませんでした。隣にいた妻も何も言わず、悔しそうな表情を浮かべていました。
腹が立たなかったと言えばウソになります。私がどのように技術を身に付け、どれほどの時間をかけて仕事に向き合ってきたのか、B美さんはほとんど知りません。それでも、学歴や仕事の分野だけで価値を決めつけられたように感じ、悔しくなりました。
しかし、弟の結婚式を目前に控えている中で言い争いになるのは避けたいと思い、私はその場では何も言い返しませんでした。
結婚式で声をかけてきた人物
そして、弟の結婚式当日を迎えました。披露宴には親族や友人のほか、B美さんの家族が経営する会社と取引のあるブライダル業界の関係者も招かれていました。
披露宴の歓談中、1人の男性が私のもとへやって来ました。複数の結婚式場を運営する会社の代表、C山さんでした。仕事を通じて名前は存じ上げていましたが、直接話をするのはその日が初めてでした。
C山さんは私の名前を確認すると、「やはり、あの花嫁衣裳を仕立てている職人さんだったんですね。一度お会いしたいと思っていました」と声をかけてくれたのです。
私は驚きました。C山さんは、以前から運営する式場を通じて、私が仕立てた白無垢や色打掛を目にしていたそうです。「とても丁寧な仕事をされていますよね」と言ってもらい、私は思わず頭を下げました。
そのとき、近くに来たB美さんも私たちの会話を耳にしたようでした。
「そんなに評価されているんですね。でも、これからはドレスを選ぶ方のほうが増えていくんじゃないですか?」
とB美さんが割って入ると、C山さんは、「白無垢や色打掛を選ぶ方は今もいますし、和装にはドレスとはまた違った魅力がありますよ」と言いました。そして、こう続けたのです。
「それに、和装の花嫁衣裳を美しく仕立てるには高い技術が必要です。長い時間をかけて身に付けた技術を受け継ぐ職人は、とても貴重な存在だと私は思っています」
先日の食事では、私の学歴や仕事を軽く見るようなことを言っていたB美さん。その目の前で、仕事そのものを見て評価してくれる人から言葉をかけてもらえたことに、私は胸がいっぱいになりました。
自分が歩んできた道まで否定されたように感じていましたが、C山さんの言葉を聞き、それまで胸に残っていた悔しさが少し報われたように思えたのです。隣にいた妻も、うれしそうな表情を浮かべていました。
誰かを見返すために仕事を続けてきたわけではありません。それでも、自分が積み重ねてきたものをきちんと見てくれている人がいる。そのことが何よりうれしかったのです。
まとめ
弟の婚約者の言葉には悔しさが残りましたが、結婚式でC山さんから声をかけてもらい、長く続けてきた仕事は、見てくれている人には伝わるのだと感じました。
学歴や肩書だけでは測れないものがあることを、私自身も改めて実感しています。
私はこれからも、師匠から受け継いだ技術を大切にしながら、一着一着の花嫁衣裳に誠実に向き合っていきたいと思っています。
人生の大切な日に私が仕立てた衣装を選んでくださった方に、「この衣装にしてよかった」と思ってもらえること。それが、職人として何よりうれしいことです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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