午後には引っ越し屋さんが来るのに、いつまでも起きようとしない。何度も何度も引っ越しの日を伝えていたのに「今日引っ越しなんて聞いていないんだけど」なんて呆れたことを言う夫。
モグさんが一人でタロくんの面倒を見ながら、細々した荷物の荷造り、掃除、ゴミ出し……必死になっている隣の部屋で、大きなイビキが聞こえる。
結局荷造りは自分の荷物を1箱まとめただけ。所詮引っ越しは、彼にとって他人事。夫に期待してもムダ……。
「顔で選んだ夫がモラハラ夫だった話」第54話
この状況で最初に出てきた言葉がこれだった。
離乳食騒動があってからというもの、夫の前でレトルトの離乳食はあげないようにしていたけれど、引っ越し当日なんて料理している時間も器具さえないのに、この言われよう……。
「平和に1日を過ごしたい」
私のこの願いは離婚するまで続いた。毎日毎日、夫の機嫌を伺うのが私の日常の一部になっていた。こんなこと、おかしいのにね。
自分のことなんだし、薬くらい自分で箱を開けて飲んでほしい。
風邪で頭が痛いのならわかる。
でもその頭痛、昨日飲みすぎたからだよね?
言い返したいけれど、文句を言うとキレる夫が怖い。コップも荷造りして箱にしまっていて文句を言われる。理不尽さにイライラしたけれど、いつも通り我慢して、薬とコップを出した。
引っ越し屋さんが到着すると、何一つ手伝わなかった夫がいつものように「外面が良い夫」に変貌した。
「嫁の手際が悪くて、すみません~!」
愛想笑いを振りまきながら、テキパキと業者に指示を出す夫。荷造りも掃除も一切していないのに、良い夫を演じている。
引っ越しが終わり、一息つくと
「もうちょっと愛想よくするとか、できないの? 俺恥ずかしくなっちゃったよ」
と、呆れたように言われた。
まるで二重人格なんじゃないかなと思うほど、さっきの外面の良い夫と別人になるからびっくりする。
当時は彼のことを「モラハラ」だと思っていなかったけれど、彼の外面の良さは本当にすごかった。そしてこのあと、夫は信じられない行動をし始めて……?