顔合わせをしようと思っても…
僕が小学生のころから、母はアルコール依存症でした。そのため、僕は母を人に合わせるのが嫌で嫌でしょうがなく、友だちには会わせたくない気持ちを強く抱いていました。妻と結婚してからもその思いは変わらず、何かと理由をつけては義家族との顔合わせを先延ばしにしていたのです。
もちろん顔合わせは必要だと思っていました。母は1年のうち1カ月間ほどお酒を飲まない期間があり、そのタイミングを見計らって、母親同士の顔合わせを設定したことも。しかし、結局母は顔合わせの直前でまたお酒を飲んでしまい会話が不能な状態に。
「こんな状態では会わせることができない」と予定を変更することが何度もあり、僕は「もう一生、会わせなくていい」と、あきらめてしまっていました。
妻の親族も不満に感じるようになる
しかし、妻の親族はそんな状況をよしとはしませんでした。
痺れを切らした義両親に「結婚して何年も経っているのに、親同士が一度も会ってないのはおかしい」と言われ、下の子が産まれたタイミングで会わせることになってしまったのです。
「こんな親に会わせたら、自分も同じような人間だと思われてしまうのではないか」と思っていた僕。しかし、紹介できていないことに負い目もあったため、「もう、どうにでもなれ」と投げやりな気持ちにもなっていました。
なんとかして顔合わせが実現したが
顔合わせのときの母親は、アルコール依存症の患者が入るリハビリ施設に入院中。その施設まで僕が義母を連れて行き顔合わせするという最悪な状況でした。
僕は施設に向かう途中でさえも、義母に母がどんな状況で入院しているか伝えることができないまま。しかし、妻から詳細を聞いていたのか、義母は僕に何も聞いてくることはなく……。
施設にいた母は案の定、飲んでいる薬の影響からかボーッとしたままで、義母が話しかけても生返事くらいしかできません。
「早くこの場を立ち去りたい」と何度も思いましたが、これまでできていないことに負い目を感じていた顔合わせができたことで安堵感も覚えるという複雑な気持ちでした。結局、母親同士でたいした話もできず「こんなんでよかったのだろうか」という気持ちのまま、僕と義母は施設を後にすることに。
義母は、帰りの車中でも僕に何も聞くことはありませんでした。ただひと言「お母さん、思ったより元気そうでよかったね」という言葉をかけてくれたのみ。
この顔合わせ以降、母と義母が再び会うことはなく、妻や義母から母の話題になることもありません。本心では母のことをどう思っているのかわかりませんが、母を責めるわけでもなく僕に対しても変わらず接してくれていることにホッとしています。ただそれだけのことなのですが、僕にとってはとてもありがたいことなのです。
母は今、介護施設に入り、お酒を飲むことなく暮らしています。小さいころからアルコール依存症の母のことがコンプレックスで、それを隠すように生きてきた僕。この顔合わせで、これまで生きてきた中で感じていた心の重みが少し取れたような気もして、「この人と結婚してよかった」と思えた出来事でもありました。
著者/坂本 繁
イラスト/マメ美
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