「理想の嫁に取り替えたいわ〜」
今日も義母は嫌みばかり。仕事が忙しい私がお総菜を買って帰ったら、「夕飯は手作りの一汁三菜を用意するのが当たり前」「旦那様とその親に総菜を食べさせるなんて嫁失格!」と文句が止まりません。
「それなら自分で作れば?」と夫が言うと、自分は忙しいと拒否。再雇用で働いており時間に少し余裕のある義父が、「それなら俺が早く帰ってくるよ」と提案すると、「一家の大黒柱が日中から家にいるなんて、ご近所に知られたらどう思われるかわかったもんじゃない!」と義母は強く否定しました。
義母は週に2回、自宅で書道教室を開いていますが、それ以外は比較的ゆとりある生活です。それでも家事への協力は一切ありません。これには夫と義父もあきれていて「母さんには何を言っても無駄だ」と諦めモード。
そして義母は毎回、「取り替えられるものなら、今からでも理想の嫁に取り替えたいわ〜」と、私に嫌みを言うのでした。
義母にとっての「理想の嫁」とは?
義母が思い描く「理想の嫁」は、子どものころからお茶やお花、日本舞踊などの伝統的なお稽古ごとをたしなみ、卒業後は花嫁修業に励むような、昔ながらの落ち着いたタイプのようです。 一方で私は、学生時代からキャリア志向で英語塾や予備校に通い、仕事に打ち込んできたため、たしかに義母のイメージとは違うかもしれません。
義母の嫌みは結婚のあいさつをしたときから始まっていて、私が夫より年上であることや、夫と対等に仕事をしていることが気に食わない様子でした。
最初のころ、私は気を使って「至らない嫁ですが、いろいろ教えてください」と言ったのですが、それが裏目に……。
「じゃあ結婚したらすぐに同居ね」と言われ、そのまま同居が決まってしまったのです。
義母の暴走、そして義父の謎の宣言
しかし、どんなに嫌みを言われても動じない私にしびれを切らしたのか、とんでもない行動に出た義母。ある夜、何枚もの写真を夫に差し出してきました。写真にはきれいに着飾った女性の姿。義母が持ってきたのは、なんとお見合い写真だったのです。
「俺はもう結婚してるんだぞ!」と言う夫の話など聞きもせず、「そんなの別れちゃえばいいのよ! 今どきバツイチなんて珍しいことじゃないわ」と見合いを進めるのでした。
これまでも散々「理想の嫁と取り替えたい」と言っていた義母。まさかお見合いの話を持ってくるとは思わず、私はあきれて何も言えませんでした。
そこで口を開いた義父。
「……じゃあ、俺が理想の嫁を連れてきてやろう」
「母さんが言う、“理想の嫁”を俺が探してきてやるよ」
いつも私の味方をしてくれたはずの義父から、まさかの発言……。驚きのあまり、私と夫は何も言うことができませんでした。
義父が連れてきた“理想の嫁”
それから1週間後、義父はひとりの女性を連れ帰ってきました。
「理想の嫁を連れてきたぞ」
そこに立っていたのは着物姿で背筋がぴんと伸び、所作も美しく、にこやかで礼儀正しい女性。まさに、義母が言い続けていた“理想の嫁”そのもの。
「まあ! なんて素敵な方なの! これよこれ! この人こそ理想の嫁だわ! いいわね、さっさと離婚してこの方と――」
その瞬間、義父がぴしゃりと口を挟みました。
「何を勘違いしてるんだ? 誰がこの人を“息子の嫁”にすると言った?」
義母の顔に、はてなマークが浮かんでいます。
「この人は、俺の“理想の嫁”だ。再婚相手にするつもりだよ」
義母の顔が一瞬で凍りつきました。
「ちょ、ちょっと何言ってるの?!」
「いや、お前が毎日『理想の嫁がいい』『理想の嫁と取り替えたい』って言うからさ。じゃあ俺も“理想の妻”と暮らしてみようかと思ってな」と義父。
驚きのネタばらし!?
義母がパニックになる中、義父がそっと女性に目配せをすると、彼女はほほ笑んで言いました。
「ごあいさつが遅れました。私、フリーで役者をしております。今回、“理想の嫁”役を演じました」
「◯◯さん(義父)から依頼を受けて、奥様にとっての“理想の嫁”とはどんな人か、演じさせていただきました。いかがでしたでしょうか?」
理解が追いつかず、完全に固まってしまった義母。
義父が静かに言いました。
「お前が理想とするような、“完璧な嫁”が実際にいたとして、お前とうまくいくかどうか、俺は疑問だよ。そもそも人に理想ばかり押し付けて、お前自身はどうなんだ?」
なんと義父は、義母に自分を省みてもらうために、フリーの役者を雇って、“理想の嫁”を演じてもらっていたのです。これには私も夫も、ただただ驚くばかりでした。
義母は言葉を失い、しばらく沈黙したあと、何も言わずにその場を去っていきました。
その後、義母に変化が…?
それから数日、義母は妙に静かでした。私に対して文句を言うこともなく、どこか気まずそうな様子。顔を合わせれば何か言いたげに口を開きかけて、やめる……そんな場面が何度かありました。
そしてある日、ふと私と二人きりになったとき、義母はぽつりとつぶやきました。
「……私、自分が理想の嫁じゃなかったくせに、偉そうに言ってたのね」
そのひと言に、義母なりの反省を感じた私は、なんとなく肩の力が抜けた気がしました。謝罪でも和解でもないけれど、十分でした。
それからのわが家は、目に見えて変わったわけではありません。
義母の性格が一気に丸くなったわけでも、仲良くおしゃべりするようになったわけでもありません。けれど、義母は私に過剰な口出しをしなくなり、私はそれだけで十分だと思えるようになりました。
義父は相変わらず静かに笑っていて、夫は「うち、ちょっと平和になった?」と気楽に言っています。
完璧じゃないけれど、ちょうどいい関係が、ようやく見え始めた気がします。
◇ ◇ ◇
理想を押しつけるより、今ある関係を大事にするほうが、ずっと健やかで穏やか。
家族とは、そうやって少しずつ整っていくのかもしれませんね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。