義祖母のための月10万円の仕送り
夫の実家には、義両親と義兄夫婦、そして高齢の義祖母が住んでいます。義両親も義兄夫婦も働いてはいましたが、皆そろって見栄っ張りで浪費癖があり、家計が常に火の車であることは知っていました。
夫は高校卒業と同時に家を出て自立していましたが、実家から「祖母の介護費用や医療費がかさむ」と泣きつかれ、毎月10万円もの仕送りを続けていました。
「祖母には一番世話になったから、祖母のためなら」
夫はその一心で、安くはない金額を毎月振り込んでいたのです。
そんなある日、義実家から「新築に建て替えたから遊びにいらっしゃい」と招待状が届きました。 夫は少し驚いていましたが、すぐに納得した表情で言いました。
「あの浪費家の家族が家を建てるなんて、兄貴たちもようやく心を入れ替えてしっかり働くようになったんだな。これなら、俺の仕送りもそろそろ減らせるかもしれない」
夫は、義兄の自立と義祖母の新しい部屋を確認するために、「最後のお勤め」という気持ちでお祝いに行くことを決めたのです。
義祖母のためのお金…すべて嘘だった!?
私たちはマナーとして相場通りのご祝儀を用意し、今話題の人気店の菓子折りも持参して義実家へ向かいました。
しかし、到着早々、その期待は裏切られたのです。 出迎えた義姉はあいさつもそこそこに、手土産をひったくるように奪い取り、義母に至っては、夫が渡した祝儀袋をその場で透かして金額を確認する始末……。
その後、身の丈に合わない豪華な新築豪邸を案内されましたが、部屋を見て回るうちに私たちはある違和感を抱きました。
一番日当たりの良い1階の部屋が義両親の部屋になっており、義祖母の部屋が見当たらないのです。夫が「ばあちゃんの部屋は?」と聞くと、義両親は悪びれもせず答えました。
「ああ、ババアならとっくに施設に入れたよ。このピカピカの新築が汚れるし、邪魔だからな」
「安い施設が見つかってせいせいしたわ」
夫の顔色が変わりました。「祖母のため」と言って送っていたお金は、一体何に使われていたのでしょうか。
「お寿司は家族の分だけ」通されたのは段ボールの机
そして、決定的だったのが食事の時間です。 ダイニングテーブルには、豪華なオードブルや特上の寿司桶が並んでいました。しかし、私たちが通されたのは、部屋の隅に置かれた古びた「段ボール箱」の前だったのです。
あまりの扱いに私は言葉を失いましたが、夫は小さなため息をつくと、黙って段ボールの前に座りました。幼いころから、両親や兄から理不尽な扱いや冷遇を受けて育ってきたという夫。「どうせ何を言っても無駄だ」と、彼らの幼稚な人間性を誰よりも理解しているからこそ、騒ぎ立てずに嵐が過ぎるのを待とうとしたのです。
しかし、いつまで経っても料理が取り分けられる気配がありません。目の前にあるのは水だけ。
夫が「俺たちの食事は?」と聞くと、上座に座った義兄がニヤニヤしながら口を開きました。
「悪いな弟。お寿司は『家族』の分しか注文してないんだよ」
「お前、昔から小賢しいから俺より稼いでるらしいけどさ……この家での序列は一番下だってこと、忘れてないよな? 下の人間が上の人間に尽くすのは当たり前のことだろ?」
義兄は昔から、優秀な弟に嫉妬する一方で、弟を徹底的に見下すことで自尊心を保ってきました。そのため、この新築の家でも主従関係を誇示しようとしたのです。
義母もそれに同調し、寿司をつまみながら冷淡に言いました。
「そうよ。あんたは昔からかわいげがないんだから、せめてお金を送るのが唯一の『親孝行』でしょ? 家を出て好き勝手生きているんだから、お客さん気分で図々しいこと言わないでちょうだい」
彼らにとって夫は、愛情を注ぐ対象ではなく、搾取するための「都合のいい金づる」でしかなかったのです。
仕送りの真実と、夫の決断
その言葉で、夫の中で何かが切れました。
「……そうか。俺たちは家族じゃないんだな」
夫は静かに立ち上がり、テーブルの上に置いてあったご祝儀袋をサッと回収。
そして、青ざめる義母たちを見下ろして告げました。
「ばあちゃんがいないなら、もう用はない。それから、来月から毎月送っていた10万円、今日限りでストップするからな」
その一言で、部屋の空気が凍りつきました。
「は……? ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「困るよ! この家のローン、払えなくなるじゃないか!」
夫が冷ややかに聞き返します。
「兄貴たちが心を入れ替えて、自分たちの稼ぎで建てたんじゃないのか?」
すると、義兄が気まずそうにこう言いました。
「俺の稼ぎじゃ足りないから、嫁と2人で『ペアローン』を組んで、なんとか審査が通ったんだよ」
さらに義母は焦って墓穴を掘ったのです。
「それなのに、家が建った途端に嫁ちゃん(義姉)が『憧れの専業主婦になる』って仕事辞めちゃったの! 本来なら嫁ちゃんが払うはずだったローン分は、あんたの仕送りで埋める計算なんだから!」
なんと、義兄夫婦は身の丈に合わないローンを組んだ挙句、返済の要である義姉が早期退職し、その穴埋めを夫の仕送りに依存する気満々だったのです。
資金源を断たれた義実家の末路
あきれ果てた夫は義家族に告げました。
「祖母の介護費用だと嘘をついて金を巻き上げ、自分たちのぜいたくとローン返済にあてようとしていたのか。詐欺同然だな」
「『家族じゃない』俺に、金を払ってもらう筋合いはないだろ? 一緒に食事もできないような他人に、これ以上びた一文払う気はない」
義母は「親子でしょ! 見捨てるの!?」とすがりつきましたが、夫は私を連れてそのまま家を出ました。
その後、夫は宣言通り仕送りを完全にストップ。 資金計画が破綻した義実家は、わずか半年足らずでローンの支払いが滞ったそうです。慌てて義姉が再就職先を探したものの、そう簡単には見つからず……。
結局、新築の家は競売にかけられ、義両親と義兄夫婦は多額の借金を抱えたままアパート暮らしに転落したと聞きました。
一方、私たちは浮いた仕送りの分で、義祖母を環境の良い個室のある施設へ移してあげることができました。週末に義祖母に会いに行き、笑顔で話をする時間が、今の私たちにとって一番の幸せです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。