バツイチのシングルファーザーだった夫。私と夫が出会ったころ、娘はまだ2歳でした。意気投合してすぐに結婚を前提にした付き合いを始めた私たち。娘はとても人懐こく、交際を始めてから今まで、私たちは本当の親子のように毎日を過ごしてきました。
血の繋がりはないけれど…
夫の葬儀や手続きがすべて終わったころ、娘は私に「私、ママと血が繋がってなかったんだね」と小さな声で言いました。私たちが結婚したころの記憶はなく、これまで本当の母親だと信じていた娘……。いつかは言わなければと思っていたものの、なかなか言い出せずにここまできてしまいました。
どうやら弔問に訪れた親戚のために、押し入れにしまってあったアルバムを引っ張り出したよう。そこで産まれたばかりの自分と見知らぬ女性が写った写真を見つけたのだそう。まさか、夫がいなくなったこのタイミングで知ってしまうなんて、驚きとショックで私は言葉を失ってしまいました。
独立を決めた娘
「一応戸籍上はママだけど、パパがいない以上、赤の他人になっちゃったんだよね。私、葬儀の間もずっと考えていたんだけど、この家を出るわ。だから、中学卒業まで家にいさせてください」
本当の娘ではないのだから、夫を亡くしてまで面倒をみることはないと主張する娘。でも夫がいなくなっても、私の娘への思いが変わることはありません。私は自分の思いをしっかり伝え、思いとどまるように言いました。
しかし三者面談の席で伝えられたのは『高校に行かず住み込みで働く』という娘の進路。決意は固く、あっという間に就職先を見つけ、着々と引越しの手配を進めたのでした。
卒業式に届いた1通の郵便
ついに中学校の卒業式がやってきました。明日から娘も家からいなくなってしまうなんて、考えただけで悲しくなってしまい、私は複雑な気持ちでした。
式を終えて帰宅し、残った荷物を段ボールに詰めていると、郵便が届きました。開けてみると、SDカードが入っており、差出人には夫の名前がありました。娘の卒業まで生きられないことを悟った夫が入院中に動画を撮影し、病院の看護師さんに卒業に合わせて投函を頼んでいたのでした。
動画を再生すると、そこには夫の姿が……。自分の亡き後を予想していたのか、私が娘に伝えたいと思っていたことのすべてがそこにありました。
私と娘は血が繋がっていないこと。出会って一瞬で私たちが打ち解けた思い出。私がどれだけ娘を大切に育ててきたか……。最後に、ひとりになってしまった私を今度は助けてほしい、と娘に託していました。
娘の目からは涙が溢れ、その横で私も号泣。私たちは、これからも母娘で支え合って生きていこうと誓いました。娘は住み込みで働くのをやめ、今は働きながら夜間の高校に通っています。
かわいい娘を遺してくれた夫。最後の最後まで私たちの身を案じ、切れかけてしまった絆を固く結び直してくれました。
相手の負担になりたくないという気持ちは、お互いのことを本当に思い合っているからこそ。血が繋がっていなくても、心でしっかりと繋がっている、とても素敵な母娘のお話でした。