数週間後。私は妊娠がわかり、実家の近くにある産婦人科に通うようになりました。その日も、駅のホームにあるベンチに座って電車を待っていると、先日ぶつかってきたおじいさんが目の前を横切りました。
駅で出会ったおじいさん
おじいさんは、あのときと同じように若い女性にわざとぶつかり、よろけた女性を邪魔だと怒鳴りつけています。その女性は誰かに迷惑をかけるような行動を取っていたわけでもなく、ゆっくり歩いていただけ。私は女性のもとへ歩み寄り、立ち上がるのを手伝いました。
私はおじいさんを睨みつけて「あなた、わざとこの方にぶつかりましたよね?」と言いました。しかし、おじいさんは謝るどころか逆ギレしてきたのです。
「年長者に向かって、なんだその態度は!? お前の親はどういう教育をお前にしていたんだ!?」
私を怒鳴って、その場から立ち去りました。
妊婦より老人優先?!
別の日、私は妊婦健診のために電車に乗って産婦人科へ向かいました。通勤ラッシュは避けたものの、席はどこも埋まっています。つわり真っ最中の私は立っているのがつらく、座りたいと思っていました。
幸い、マタニティマークに気づいた女性が席を譲ってくれ、座ることができました。気分が悪かったのでそのまま目を閉じていると、とある駅で乗り込んできた男性が私の前に立ち、電話で話をしています。その声には、聞き覚えがありました。
目を開けて見ると、そこには例のおじいさん! 厄介なことになりたくなかったので、私は再び目を閉じました。
おじいさんは電話を切ると、私に「おい! お前、何で席を譲らない!?」と強要してきたのです。私はカバンのマタニティーマークを見せながら、妊娠していてつわりがつらいので座っていると訴えました。
そんな私の言葉はおじいさんには届かず、「妊婦より老人優先だ!」と、聞きません。
降りるのは、どっち?
相手にするのもつらいので、しぶしぶ立ち上がろうとしたところ、近くに座っていた女の子が会話に入ってきました。「妊婦より老人優先ってどういう主張!?」さらに仲間と思われる子も「こんなじいさんに何言っても無駄だわ。お姉さん、こっち来なよ。私らの席、座って」と続け、私に席を譲ってくれたのです。
彼女たちは看護学生らしく、知っている限りの知識を使って私の体を気遣ってくれました。その様子を見てもなお、おじいさんは「妊婦がそんなに偉いのか!」「女のくせに偉そうにするな」と大きな声で怒鳴っています。
すると電車に乗っていた女性が、ひとり、またひとりをおじいさんに近づき、ひと言。「妊婦さんが転んだら危ないでしょ? 責任取れるの?」「おなかの中で子どもを育ててるんだから偉いに決まってる!」「そんなに偉そうにしていると、困ったとき誰も助けてくれませんよ」それを聞いて、みんな頷いています。
何も言い返せなくなったおじいさんは、次の駅に着いたとき、すごい勢いで乗客をかき分けて外に出て行きました。
あの日の経験を忘れない
それ以来おじいさんを駅で見かけることはなくなりました。
私はというと、嫌な思いはしましたが、同じ電車に乗り合わせた看護学生が会うたびに気を使ってくれたり、たまたまいた他の妊婦さんとママ友だちになったりと、素敵な縁が続いています。まもなく出産を迎え妊婦生活を終えるわけですが、あのときやさしくしてもらったことは忘れません。
妊婦さんはもちろん、お年寄りや小さな子どもを連れた保護者、体の不自由な方と乗り合わせたときには、思いやりを持って接していきたいと思います。
妊娠中の女性は体調が悪いことも少なくありません。マタニティマークを身につけている方を見かけたら席を譲り、安全に、そして体に無理のない移動ができるように促してあげたいですね。
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