さかのぼること20年前…
あれは私がまだ高校生のころのお話。当時祖父は、開発地区に認定された地域に土地を多く所有していました。マンション建設用に売却してほしいという業者も連日訪ねてきたのですが、思い入れのある山を手放したくないと思い、迷っていたそう。
しかし、マンション業者のヨシダという担当者が熱心に祖父に交渉。今思えば巧妙なわなだったのですが、好条件を確約して説得しようとしたのです。
「思い出の山は削りませんし、最上階のお部屋を分譲します!」
「それなら自分が住んで、いつか息子夫婦にも譲れるし、売ってもいいかの……」
こうしてヨシダは、山の手前までの売却と、マンションが建ったら破格で最上階の角部屋を分譲する、という提案を出して、祖父から土地を買い取ることに成功しました。
いつの間にかマンションが完売済?
それから1年。マンションが完成間近になったころ、祖父はあることに気付き、慌ててヨシダに連絡をしたと言います。
「マンションの看板を見た。完売御礼とはどういうことですか? 最上階角部屋をくれるって話は?」
しかしヨシダは平然と、「一体何のことでしょう?」としらばっくれたのだとか。格安分譲してくれる前提で土地を売ったのに、と憤慨した祖父でしたが、「契約書のどこにもそんなことは書いていない」と言うヨシダ。どうやら、山の手前までという範囲については記載してあるものの、分譲の件は口約束でしかなかったようです。
祖父は弁護士にも相談したのですが、契約書も証人もなく、マンションの権利は業者のものだったので、悔しいながら何もできなかったのです。
高校生だった私は、悲しそうな祖父がかわいそうでした。ところが、このとき祖父は諦めていませんでした。ひそかに逆襲をもくろみ、マンション業者と争う覚悟を決めていたのです……。
反撃スタート
数カ月たってマンションが完成。と同時に、ヨシダが怒り狂ってわが家に乗り込んできました。
「これは何ですか!?」
マンション建設用に売却した土地のほか、その周囲を所有していた祖父は、いつの間にか木の柵を張り巡らせていたのです。おまけに「私有地につき立ち入り禁止」という看板まで。
残されたのは、一般道の細い歩道のみ。祖父の土地を通らなければ車ではマンションまで来られないのですから、業者が慌てるのも当然です。それだけではありません。ヨシダにとっては、分譲して終わりという話ではなかったのです。
「ここの最上階角部屋に住むアンタにとっては、不便なこった」
祖父がもらえるはずだった最上階角部屋を奪ったのはヨシダだったのです。他にも、この悪徳業者の社員たちが最上階を牛耳っていたらしく……。加えて、下層階の部屋は相場より高値で売られていたことも発覚。それを独自の情報網で突き止めた祖父が行動に出たようでした。
契約書はない!
「嫌がらせにもほどがある! そもそもマンション建設時に通行を認めると言ったでしょ」と焦るヨシダに、祖父は開き直ったのだそう。
「建設が終わるまでは使ってもいいと言ったんじゃ。私有地に入るなら、それこそ警察呼んでも構わない。契約書には永久的に通行可だなんて書いとらんからな」
そう。祖父を敵に回したのがヨシダの運の尽き。まさか自分のセリフをそのまま返されるとは思ってもいなかったでしょう。
その後、配達や引っ越しのトラックがマンション前に入れないことや、荷物の出し入れを不便に感じた住人たちは、マンション業者にクレームを入れるようになりました。
悪徳業者のその後
その後、ヨシダは祖父に何度も頭を下げ、周りの土地を高額で買い取ると交渉に来たのですが……。祖父は一切信じようとしませんでした。挙句、ヨシダの会社は住人から集団訴訟を起こされたようです。
その後、いつの間にか権利ごと売りに出されたマンションは、祖父が土地ごと買い戻して管理人に。今住んでいるのも、例の最上階の角部屋です。
「そういえば、山の思い出って?」と尋ねた私に、照れくさそうに祖父が答えました。「あの山からは素晴らしい夜景が見えてな。昔はばあさんとよく見に行った。実はプロポーズもそこでな……」
この街を見渡す素晴らしい夜景。今では、祖父の粘り勝ちで手に入れた最上階角部屋から、毎晩夫婦で眺めていると言います。
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どんなに好条件でも、口約束は怖いですよね。契約書になければどうにも権利を主張できません。しかしそれを逆手にとって、悪徳業者に反撃したのはお見事です。最終的にはマンションごと買い取って最上階角部屋を入手したのはまさに武勇伝。お目当てが、妻との思い出の夜景だったのもすてきですね。
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