玄関で初めましての挨拶をした私。彼に聞いていた通り、やさしくて穏やかなご両親に安堵したのも束の間、家の中からもう1人、女性が顔を出しました。女のきょうだいはいないはず。彼女は一体……?
ドキドキの実家挨拶
「いらっしゃい~!」女性は家族の一員であるかのように私を迎え入れました。彼女を見て彼はびっくり。「どうしてマキがここにいるんだよ!」と、珍しく大きな声をあげました。
その名前には心当たりがあります。マキとは、デート中でもお構いなしに連絡をしてくる幼馴染でした。何をするにも彼を頼ってくるマキは、彼の実家にもよく顔を出しているそうです。実家のカレンダーに書かれた「顔合わせ」の予定を見つけ、勝手にやってきたのでした。
幼いころから家族ぐるみの付き合いをしていたようで、まるで自分の家にいるようにくつろぐマキ。ましてや女の子がいない彼の両親は、娘のようにかわいがっていたそうです。マキは当たり前のように顔合わせに同席します。
ブスと言われた私
改めて挨拶を交わした私たち。「素敵な女性で安心した」「わが家に来てくれてありがとう」と歓迎ムードのご両親にホッとしていると、マキが私をじっと見ていることに気がつきました。
マキは勝ち誇ったように「ブスじゃん! 不合格!」と吐き捨てたのです。まさかそんなことを言われると思っていなかった私。そんな私をひと睨みし、マキは続けます。
「おじさんもおばさんも、結婚相手は私じゃなくて本当にいいの?」とマキは彼のご両親に詰め寄ります。
幸い、マキのこの態度にはご両親もびっくり! マキを制し、しっかり注意してくれました。
大暴れする幼馴染
マキは、まさか注意されるとは思っていなかったようで、きょとんとしています。その後すぐに、テーブルに並んだお皿をひっくり返し、わんわん泣き始めました。
男兄弟しかいないこの家でずっとチヤホヤされてきたマキが、私のことが受け入れられないのは理解できます。ましてや彼のことが好きだったとなると、余計にショックを受けたことでしょう。
しかし、あんなに失礼なことを言われては、彼女の味方はできません。それに、大事な顔合わせの場を邪魔されたことも許せないのです。
私の策略勝ち!
あれこれと考えを巡らせた末、ここはなんとか対処して、嫁としての信頼を得ようと判断した私。保育士の経験が役に立ちそうです。駄々をこねた子どもに接するように、私はマキに話しかけました。
まずマキの思いに共感し、気持ちを肯定し、気分が切り替わるよう誘導します。マキに、私の知らない彼の話を聞かせてほしい、マキのほうが私よりも彼のことを理解している。そう伝えると、マキは泣き止み、彼との思い出を誇らしげに話し始めました。まるでイヤイヤ期の幼児です。
こうして無事ご両親との顔合わせを終えた私。マキのおかげで、ご両親にやさしくて賢い嫁という印象を植え付けることに成功しました。
私の株は爆上がりをしたわけですが、私はやさしいのではなく計算高いだけ。マキに「ブス」と言われた恨みはいつかはらしてやると密かに誓ったのでした。
さすがの対応に「お見事!」としか言えませんね。マキほどの厄介な人に出会う機会はあまりありませんが、クレーマーなどの面倒な人に出くわした際は、参考にしたいと思います。