ピザの宅配員は?
事務所で宅配ピザを待っていた私たち。しかし、待てど暮らせど一向に届きません。お店に電話をしても、「もうすぐ宅配員が伺います」の一点張りで、気が付けばなんと2時間が経過。キャンセルしようと思っていたとき、チャイムが鳴りました。
まさかと思いつつドアを開けると、ずぶ濡れの男性がピザ屋の制服を着て立っていました。雨の中、自転車でやって来たようです。
「コンニチワ……。遅クナリマシタ、ゴメンナサイ」
よく見てみると、その人は先日知り合った、さわやかな外国人青年スティーブさん。日本好きが高じて留学生となり、大学に通いながらアルバイトをして、将来は起業をしたいと言っていました。
「こんなに濡れて、大変だったわね」と、奥から母がタオルを差し出し、事務所の待合室で少し休ませることにしたのですが……。
出会ったときのこと…
スティーブくさんと出会ったのは、ほんの偶然。近所の公園で母と散歩をしているときでした。キラキラした目で日本での夢を語る勤勉外国人学生の姿に、私も母もほっこり。心から応援したいと思えるような好青年だったのです。
その日のランチに、近所で評判のピザ屋に行ったのですが……。お店の中はごった返していました。人気店のピーク時なので仕方ないと思っていましたが、少し様子が変だったのです。誰も席を案内に来ないし、厨房のほうでは怒号が飛び交い、外国人ばかりの従業員があたふたと駆けずり回っているようなのです。
そこに店長らしき日本人が私たちの前を通りました。「すみません、ランチを……」と声を掛けると「この状況見てわかんない? ちょっとくらい待てんだろ!?」と横柄な態度。
いくらピザがおいしくてもこの接客はどうかと、このとき私たちはランチを食べずに帰りました。
そうして数日後、宅配なら……と例のピザ屋に再挑戦。宅配に来たのが、なんとあのスティーブさんだったのです。「まさかこのお店でバイトをしていたとは」と話しながら、2時間もかかった理由をやんわり尋ねてみました。
時給を聞いて驚がく
「人ガ少ナイ、忙シイ。ピザ来ルノ遅イ……」
聞けば、調理もデリバリーもすべてスティーブさんが引き受けていて、人手が足りなくても補充してくれないのだとか。「オ仕事、大変……デモ、オ金必要。頑張ル」と言うので、時給を聞いてみると……。
「見習イダカラ、時給365円!」「ええっ!?」。見習いだからといっても、それは安過ぎです。
何かピンときた様子の母。「もう少し話を聞かせてくれない?」と身を乗り出して聞き始めました。スティーブさんが語るお店の実態は、私たちが驚がくする悪質な勤務条件・労働環境だったのです。
「あの店長、とっちめておかないと!」。母と私は温め直したピザを食べながら、作戦会議に取り掛かりました。
悪徳ピザ屋に鉄つい!
数日後。ランチタイム終了時を見計らって、私と母は例のピザ屋に突撃。店内には、店長と外国人の従業員たちがいて、スティーブさんも勤務中でした。
「すみません、店長さん。お話があります」と切り出した母。「何だ、こっちは忙しいんだよ!」と不機嫌そうな店長にかまわず、話を続けます。
「それなら単刀直入に。あなた、従業員を時給365円で働かせていますね? 調査済みなので言い訳は無用!」。そう宣言された店長は、慌てふためいた様子でモゴモゴと何か言っています。
「令和5年10月1日から施行された、東京都のアルバイトを含む労働者の最低賃金は1,113円です。外国人を低賃金で搾取していませんか?」と私も追及。すると店長は「し、知らなかっただけだ!」と開き直りました。「知らなかったで済む話ではないんですよ」
「労働基準法では、事業者は最低賃金以上の支払いを遵守することが定められています。最低賃金法4条2項では、最低賃金を満たさない雇用契約は、被雇用者が合意しても賃金に関する部分は無効です」
すかさず母も加勢してくれました。「ちなみに、違反して差額を支払わない場合は、50万円以下の罰金に処せられます。これは最低賃金法40条ね」
私たち、実は…
母と私の申し立てに圧倒されていた店長が、苦し紛れに絶叫。「偉そうに言ったって、あんたらはただの客。素人は何もできやしないだろ!」
私たちはフフッと笑って顔を見合わせました。
「申し遅れましたが、私は弁護士です。娘は私の法律事務所の助手。専門は労働問題ですよ」
そうなんです、私が合格を目指している資格試験とは、もちろん司法試験。条文がスラスラ出てくるのも努力と実務を積み上げているから。真っ青になった店長を放置して、私たちは労働基準監督署に通報したのです。
その後ピザ屋は行政指導を受け、最低賃金との差額を支払うことに。店長が競馬やパチンコに熱中して負債を抱え、低賃金で働かせていたことが発覚し、罰金も科せられました。お店は休業となりましたが、従業員は公共職業安定所などからそれぞれ次の職場を見つけられました。
一方スティーブさんは、父が経営する寿司屋でアルバイトをスタート。日本で起業という夢のために頑張っています。私も彼に負けないよう、司法試験に合格しないと! と気を引き締めています。
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低賃金での労働者の搾取は違法、犯罪です。さすが弁護士とくれば、黙って見逃すはずがありません。悪質な雇用者を取り締まることができ、真面目にアルバイトを頑張る人たちが救われて本当によかったですね。
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