私の実家は、小さな縫製工場を経営しています。父が代表を務め、私も母とともに工場で働いています。ここ数年の不景気のせいで工場の存続すら危ぶまれていたとき、長年の取引先で地元の有名洋服店の社長が資金援助してくれることになりました。
早すぎる展開にあ然
実は私の結婚は、資金援助してくれた社長の跡取り息子との政略結婚なのです。夫の第一印象は、表情が硬く挨拶をしてもにこりともしません。しかし、社長夫妻は私のことが相当お気に入りの様子で資金援助のこともあるので縁談を拒否できない雰囲気に……。その場で婚約成立とはならなかったものの、結婚を前提にお付き合いすることになりました。そして、なんと交際開始からわずか10日後、私は婚約指輪を受け取りました。大喜びの社長に対し、あまりの急展開に不安げな様子の私の父と母。こうして「政略結婚」が決まり結婚式当日を迎えたというわけです。
冷酷な夫からのひと言
結婚式当日、ファッションデザイナーとして活躍する姉が政略結婚と聞き心配して駆けつけてくれました。そして「自分の気持ちに蓋をして、全てが丸く収まる道を選んだのね」とひと言。私は自分で決めた事だから後悔はないと伝えます。そして式の時間となったそのとき、夫が「今後、君とご両親の面倒は見るが干渉はしないで欲しい。互いの利害関係が一致した結婚であることを忘れないこと」と釘を刺すのです。私はこの瞬間、冷めた気持ちでやることをこなしているだけに。こうして、式の翌日から私と夫の愛のない夫婦生活が始まったのです。
夫の本心が明らかに
私たちは義父が購入してくれた家に住み、私は実家の工場勤務を継続、兼業主婦として生活することに。そこで夫の意外な一面を知ることになったのです。結婚を機に2代目社長になった夫は忙しいにもかかわらず、積極的に家事をしてくれるのです。私が感謝の気持ちを伝えようとするといつも最後まで聞かずに逃げてしまう夫。不思議に思い話を聞くと「やって当然。当り前のことしただけだろって思うのが普通じゃないのかな…」と寂しそうに言うのです。そう、彼は仕事のこと、家のこと全てを1人で背負おうとしていたのです。そして結婚式当日に言った「面倒は見るが干渉はしないで欲しい」という発言も「私の人生を奪ったと思い、1人で何とかしなければと思いわざと言ってしまった」と判明。私は「何でも1人で背負おうとしないで。これからは2人で支え合っていきましょう」と伝えます。あの発言の意味を理解した私は、本当の意味でひかれあうようになり愛情が日増しに強まっていきました。
愛のない生活を覚悟したはずが一転!
その後、ファッションデザイナーとして脚光を浴びていた姉が新ブランドを立ち上げることに。実家の縫製工場で製造、夫が社長を務める洋服店で販売することになったのです。私の大切な2つの会社は相乗効果で業績が大幅アップしていったのです。そして、嬉しいことは続くもので、私は妊娠! 先日、待望の長男を無事に出産することができました。
義父は夫と結婚したこと、孫を見せてくれたことに感謝してもしきれないと大泣き! 私は「夫と引き合わせてくれたお2人と私の両親には、本当に感謝しています」と伝えました。続けて夫も「出会わせてくれてありがとう」と言うのです。 私たちの言葉を聞いた両親と義両親は大号泣! 始まりは政略結婚だったけれど、今では幸せな夫婦になれたことに感謝しています。これからも、このかけがえのない家族とともに、幸せに過ごしていきたいと思います。