兄は昔からあまり器用ではなく、人とのコミュニケーションもうまくありません。そのため得意分野の研究を活かした仕事に就くはずが、配属されたのはまさかの営業部。なかなか仕事で結果が出せない中でも、真面目な兄は試行錯誤しなんとかやっていこうとしていました。
兄が仕事を頑張れるワケ
そんな兄の趣味は推し活。とあるアイドルに熱を上げています。あるときは、プレゼン成功のお守りと言って、自分の名前を入れた婚姻届をファイルに入れていました。成約したらファンレターに入れて推しに送るというのでそれはさすがに止めたものの、推しの存在が兄の心の支えになっているのはたしかです。
大きな商談を控えている兄は「上司に認められたいから、頑張らないと」と言い、今週も部屋に閉じこもって準備をしています。
兄曰く、上司はかなりやり手の美人だそう。とても厳しい人だと聞くので、うまくやれているのか、妹ながら心配していました。そんなこともあり、私も商談の練習相手になったり質疑応答の練習に付き合ったりと、できる限りの協力をしていたのです。
兄の失敗
しかし、あれだけ準備していたのに商談は不成立。かつてないほどに落ち込む兄に、何と声をかけていいのかわかりません。しばらくして部屋から出てきた兄は、退職願と書かれた封筒を持っていて「上司に迷惑をかけるのでもう続けられない」と静かにつぶやきました。
せっかく頑張って入った会社ですが、兄が決めたのなら私は背中を押すのみ。翌日、兄は退職願を出したようです。
退職願を出した兄は、吹っ切れた様子で部屋の片付けを始めました。ところがしばらくして、兄の部屋から叫び声が聞こえてきたのです。
何ごとかと思って駆け付けると、兄の手には退職願が握られていました。でも、退職願は出したはず。なんと兄は、記入済みの婚姻届を封筒に入れていたのでした。
上司が持ってきたものは…
翌日、兄が残務のために出勤すると、上司は封筒を持って近づいてきました。兄が謝ろうとすると、上司は「これ……了解です」と言って、封筒を差し出します。中身を確認した兄は思わず二度見。そこには上司のサインが入れられ、すぐに提出できる状態の婚姻届が入っていたのでした。
上司は新人研修のときから兄に好意を抱いてくれていたよう。配属を決める会議でも、こそり私情を挟み、兄を自分の部署に入れたと言います。アイドルしか見えていないと思った兄も、実は上司のことが好きだったそうで、仕事を頑張っていたのは上司に認められるためだったのでした。
この退職届と婚姻届を間違えたことをきっかけに、2人は付き合い始め、ついに結婚が決まりました。ちなみに兄は退職届を取り下げ、開発部に異動。今では自分の知識を活かして、大活躍中! 人生は何が起きるかわかりませんね。
今回はいい方向に話が進んでくれたので、結果オーライでしたが、本来であれば、重要な書類は提出する前にしっかりと確認しなければなりません。兄にとっても教訓になったことでしょう。
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