とりあえず会ってみることに
お見合い話を持ってきた父は、すまなさそうに頭をかきました。「仕事を続けたいという気持ちは承知の上だが、断れなくて。一度会うだけでいいから……」と言います。
相手は、かつて父が起業した際にお世話になった企業の取締役のご子息だとか。外から見れば私も社長令嬢ですし、父のためにも顔合わせに行くことに。一度だけとは言いつつも、あちらも立派なご家庭とあって、ともすれば結婚へつながる可能性もあります。そう考えて、緊張して会食の場に行くと……?
「初めまして、父がお世話になっております。お会いできてうれしいです」とあいさつしてくれたお相手はなんと超イケメン! 物腰も柔らかくてさわやかな印象です。話の運び方もスマートで気づかいもナチュラル。20代ですでにお父様の右腕として活躍し、実質ほぼ社長の仕事を任されている有能な方だったのです。
さらに、「仕事を頑張りたい」という私の意思も理解してくれ、ご両親共々賛成してくれました。私は、帰るころにはすっかり彼に魅了されていて……。
ところが母は…
お見合いが終わってから、私は父と母に素直な感想を伝えました。「すごく素敵な人だったよね。彼となら結婚後もうまくやっていけるかも」と。
父も、「まさかあんなにできた息子さんだとは……」と満面の笑みです。さっそく、「結婚を前提に交際できるよう話を進めるぞ!」と意気込み始めました。しかし、それまで黙って聞いていた母が、「お断りしよう」とキッパリ言い切ったのです。
私と父はビックリ。すると母は「実は……」と話し始めました。こうして母が話してくれた理由に、私たちは仰天したのです。まさか、あの完璧に見える人にそんな裏があったなんて……。
驚きの真実は…
それから私たちは話し合いをし、この縁談を断ることにしました。そしてそのことを伝えようと、双方の両親同伴で食事をすることにしたのです。ディナーに選んだのはあるレストラン。「私のお気に入りだから」と言ってこの場所にしましたが、彼はレストランの前で真っ青な顔で固まってしまい……。
彼に伝えるべきだと思った私は、彼に「あるお話を聞いたのですが」と前置きをしました。彼は、「何でしょう……?」とかすれ声で視線をそらします。
「実は、お見合いの1週間ほど前、私の母がこちらで食事をしたのですが。そのときに偶然、隣の席からあなたの声が聞こえてきたようなのです」。彼は私の言葉を聞くとガタガタと震え始めました。
「母の話では……母の隣の席には2人の男性客が座っていたようです。そして、『A社の社長令嬢と見合いすることになった』と言っていたのだとか」。そう、そのA社とは、私の父が社長をしている会社です。身内の会社名が聞こえてきた母はビックリして聞き耳を立てたそうです。
「結婚を前向きに考えさせて、何としてでもこの女と結婚する。ただ、金づるにするだけ。用がなくなればポイ。キープで遊べる女はたくさんいるし」と、彼が友人に話していたようなのです。
実は彼の会社は業績不振に陥っていたよう。社長令嬢である私と結婚し、なんとかしようとしていたようですが……まさか、「金づる」「用がなくなればポイ」と言われていたなんて。そんな彼ともちろん結婚なんてできません。
ウワサによると
彼のご両親は、彼が考えていたことをまったく知らなかったようです。その場で激怒し、私や父母に誠心誠意謝ってくれました。そして今回の件はすべてなかったことに……。その後、彼がどうなったかは知りませんが、すでに会社からは去っているようです。
この一件で、私はやっぱり、今は仕事に集中したいと改めて思いました。そして、もし今後結婚するとなっても、しっかり相手を見抜く力がついてから考えることにするつもりです。今回、母の話を聞いていなかったら騙されて「ただの金づる」になっていたかもしれません。これからもっと経験を積んで、素敵な大人の女性に成長したいと思います。
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