しかし結婚が決まってから、母の様子がおかしくなりました。妙に婚約者の父親を気に入り、ソワソワしっぱなし……。両家の顔合わせの席でも、私が恥ずかしくなるほどにキラキラした顔で彼の父親を見ていました。
様子がおかしい母
彼の父親は、ロマンスグレーの髪をした渋い弁護士。イケメン好きの母を興奮させるには、十分過ぎる人です。婚約者の彼は母親を早くに亡くしており、父親はそれ以来ずっと男手ひとつで彼を育てたそう。
母は次第に、父と彼の父親を比較するようになりました。父をさげすむ姿を見ると、胸が痛みます。それでもミーハーな母のことなので、そのうち落ち着いて元に戻るだろうと思っていたのです。
父へのひどい仕打ち
いよいよ結婚式当日。私は支度をして、父が会場へ着くのを待ちました。大好きな父と一緒にバージンロードを歩くことを、本当に楽しみにしていました。
それなのに母は、父を家に置いてきました。継父である父がくるべき場所ではないと告げ、来ないようにキツく伝えたのです。20年もの間ともに私を育て、一緒に生きてきた夫に対して、そんなことを言うとは思ってもみませんでした。
後日聞いた話ですが、母は父を目の前にして邪魔だと言ったそうです。これからは自分と彼の父親・婚約者と私の4人で1つの家族になるから、父は必要ないとも……。
彼の父親はそんな素振りを見せないので、おそらく母は私の結婚を機に猛アプローチする気でいるのでしょう。恋多き女だった母も父と再婚して落ち着いたと思っていたのですが、彼の父親に出会ったことで再燃してしまったのでした。
父とバージンロードを歩きたい
父親として完全否定され、大切に育ててきた娘の結婚式の出席を拒否されたことを、父は一体どう思ったのでしょう。私は考えただけで、悲しくて仕方ありませんでした。
何としても父に出席してもらいたい。一心にそう願い、私は意を決して彼とブライダルプランナーに相談。行動を起こしました。
まず自宅にタクシーを向かわせ、父をピックアップ。式場で急遽燕尾服を借りました。その間、母にはアクシデントを装って頭からシャンパンがかかるようにし、ヘアメイクを直してくるようメイクルームに促したのです。
その隙に私たちは空いていた別のバンケットに移動。母を除いた招待客と父と共に、結婚式を続けたのでした。
母の末路
着替えや化粧直しを終えた母が会場に戻ると、そこはもぬけの殻。もちろん母には移動した部屋を伝えないよう根回ししておきました。
これを機に、母とは縁を切りました。実の母であることに違いはありませんが、父と再婚するまではほぼ私のことはほったらかし。再婚後は父に任せっぱなしで、母親とは思えない行動ばかりで辟易していたのも事実。今回の父への態度で踏ん切りがつきました。
もちろん義父が母になびくことはありません。母が勝手に気に入り、アプローチを試みた結果自爆した、という残念な話です。
これから私の親は、父と義父だけです。一緒に生きてきた年月、そして心のきずな。血のつながりがあるかないかは、問題ではないと思っています。
長年心を通い合わせ、積み重ねてきたものが生んだ、人と人との結びつき。それは、血よりも濃いものになることがあります。
これは夫婦にも言えること。血のつながりはありませんが、日々の積み重ねが強い結びつきを作り出すことでしょう。
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