母の介護のために専業主婦になった私を、見下す夫。母の介護があるというのに、「俺に作り置きを食べさせるとは何事だ」「親の介護と旦那様の世話を両立してこその嫁だろうが」となじってくるのです……。
理解のある義妹
疲労困憊の毎日を送る私に、義妹から電話がかかってきました。
「お義姉さん、お久しぶりです!今度の私の結婚式なんですけど、出席で大丈夫そうですか……?」
私が介護で忙しくしていることを知っている義妹。義妹自身も介護職なので、普段からいろいろと相談させてもらっていました。
「実は母の認知症が悪化しちゃって……」
「施設入所は本人が嫌がるし、同居は夫が嫌がるから……週3で隣の県の実家まで私が様子を見に行っているの」
「それに、夫が『俺が起きる前に起きろ、俺より遅くに寝ろ』ってうるさいから、最近はなんとか3時間は眠れてる感じかな」
疲れもあってか、愚痴っぽくなってしまいました。すると、義妹は「嘘……!」と悲鳴を上げたのです。
「兄ったらそんなことをさせていたんですか!?」
「たしかに、昔から俺様気味なところはありましたけど……うちの兄が本当にすみません!」
続けて、「私がもっと昔から兄をなんとかしていれば……」と後悔し始めたので、私は慌てて「あなたのせいじゃないわよ!」「ちゃんと夫と話し合ってこなかった私も悪いんだし……」と言いました。
「でも、兄って話し合いから逃げません?」「ちょっとでも分が悪いと、『うるせぇ!』って怒鳴って強制終了するし……」と義妹。「そうねぇ、最近だと『離婚するぞ!』に変わったかしら」と言うと、「り、離婚で脅すなんて最低すぎる……!」と義妹はショックを受けてしまったようでした。
少し息を整えてから、義妹は夫から聞いた話を私に伝えてくれました。
『うちの妹は週5で介護施設で働いているのに、妻はたったの週3でへばっている』
『しかも家事をおろそかにして、要領が悪すぎる』
私がいないところでも私をこき下ろしていた夫。あまりの扱いに、私は思わずため息をつきました。私のため息に気付いたらしい義妹は、つとめて明るい声で別の話題を切り出してくれました。
「実は、今度私の職場が新しい施設をオープンするんです!」「そこのショートステイにお義姉さんのお母さんを連れて来てみませんか?」
前に預けた施設は、老朽化が進んでいることもあって母のお気に召さなかったのです。多少の不安はありますが、新しい施設なら気に入るかもしれないと思い、私はその提案にのることにしました。
結婚式は欠席で
そして、義妹の結婚式当日――。
移動中の私に、夫から電話がかかってきました。
「おい、どこにいる?」「まさかこんな大事な日に腹壊してトイレに立てこもってるのか?」と嘲笑うような夫の声。
「違うわよ……」「ついさっき母が脳梗塞を起こして倒れたって病院から連絡があって、タクシーで向かっているの」「だからもう式場にはいないわ、スタッフさんにも義妹さんにも説明はしてあるから」
さすがの夫もこのときばかりは理解してくれるだろうと思っていたのですが、夫は「ふざけるな!」と怒り心頭。「母親が倒れたからなんだっていうんだ!」「お前は嫁として俺の妹の結婚式を優先しろ!今すぐUターンして戻って来い!」と私を怒鳴りつけたのです。
病院からは「できるだけ早く来てください」と言われていました。それなのに、夫は「戻ってこないなら離婚だ!」といつものように離婚で脅してくるのです。
「母親が倒れた程度で俺の妹の式欠席とかふざけるな!」
「結婚式に出ないなら二度と俺のもとに帰ってくるなw」
「最初からそのつもりよ」
「え?」
嫁の決意は揺るがない
義妹と話した後に、夫とこの先数十年、そして老後まで一緒に過ごしたくないという気持ちが強まっていた私。義妹の結婚式が終わって落ち着いたら、夫に離婚を切り出そうと思っていました。
「な、何を言ってるんだ!離婚なんて許さんぞ!」「俺は離婚届にサインなんてしないからな、と、とりあえず式場に戻ってこい!」としどろもどろになりながらも私を怒鳴りつける夫。私は「式場には戻りません、サインをしてくれないなら弁護士を立てるまでです」と淡々と返しました。
「円満に離婚したいと思っていましたが、それが無理なら弁護士を立てます」「今までのあなたの私への言動はすべて記録してあるので」と続けると、夫は慌てふためいていました。
その後――。
母は無事一命をとりとめました。後日、式の当日の欠席を詫びるために義妹に会ったのですが、義妹は私の母の無事を喜び、式での夫の様子について教えてくれました。
「お義姉さんに離婚を切り出されたのがかなり効いたみたいで、私のことをお義姉さんの名前で呼んだり、散々だったんですよ」
「しかも、その後お酒でごまかそうとして飲みまくって泥酔して……私の友だちにもウザ絡みするわで最悪だったんです」
「最終的には両親と親戚が別室に兄を強制収容してました」
しかも、酔っぱらった夫は「専業主婦のくせに、介護しかしてないくせに!」などと私のことをまたも罵倒していたそう。義両親とその親族たちは義妹から私たち夫婦の実情を聞き、私の味方となってくれたとのことでした。
その後――。
義両親や親族、そして義妹のサポートもあり、私たちは離婚。私は慰謝料と財産分与を受け取り、母の施設入居費用に充てることにしました。母は義妹から紹介された施設を気に入ってくれたのです。
一方、元夫は義両親・義妹・親族から総スカンを食らっているようです。義母や義妹とは今でも時々ランチに行く間柄ですが、元夫には金輪際関わりたくありません。母も施設で落ち着いているので、私もひとりでゆっくり過ごす時間を意識的に作っています。