メール1本で引継ぎもせず出社しなくなった元同僚。今週末に提出する企画書や来週の会議の資料などの作成が彼女の仕事だったこともあり、部署内のみんなで手分けして行うことになりました。
残業漬けの毎日
期日が迫っているため、私もほかのみんなも全員残業。イライラが募り、雰囲気も最悪でした。
そんななか、私の支えとなってくれたのは夫でした。事情を知って、家事をすべてしてくれたうえに、私の好物を作っておいてくれたのです。帰りが遅くなると、駅まで迎えに来てくれることもありました。
夫がいなかったら、きっとこんな日々、耐えられなかったと思います。
まさかの場所で再会
1カ月後――。
ようやく元同僚の分の仕事も落ち着き、普段の生活に戻りつつあった私。その日は、夫と共にとある式場へ出かけていました。夫とはぐれてしまい、ひとりで右往左往していた私。そんな私に声をかけてきたのは、まさかの元同僚でした。
「あれー?久しぶり!なんでここにいるの?」
「私、結婚式に招待した覚えなんてないんだけど」
「え?結婚式ってどういうこと?」と返すと、「またまた~」と元同僚。「新婦の控室から、会場入り口がよぉ~く見えるのよ」「どうせ、私のダーリンの友人目当てで来たんでしょ?」「既婚者のくせに男漁りだなんて、意外と浅ましいのね!」ととんでもないことを言ってきました。
続けて、「今日は招待状のない人は式場に入れないのよ、ごめんなさいね?」「私のことがうらやましいのはわかるけど、今日は帰ってくれないかな?」「同期の私がお医者様と結婚できたからといって、あんたもできると思わないことね!」と吐き捨てた元同僚。
私は夫のことを愛していますし、そもそもそんなつもりでここに来たわけではないのですが……。ぽかんとして何も言えず、立ち尽くしていた私。私に帰る気配がないと感じたのか、元同僚はさらに小馬鹿にしたように続けました。
「呼んでないのに勝手に来るとか超ウケるw」
「この結婚式場にアンタの席はないんだよ!」
「あなたの式に用はないけど?」
「え?」
特大のしっぺ返し
そこの式場は、イベント用スペースとして披露宴会場を提供していました。私はそこで行われる、病院の院長である義父の還暦祝いのパーティーのために来ていたのです。私は院長息子の嫁として、パーティーに招待されていましたが、夫もまた医者です。
そのことを告げると、元同僚は目を白黒させていました。
「でもまさか、同じ日程と場所だったなんてびっくりだわ」
「私たちのパーティー会場は西側だったみたい……私、広くて迷ってただけなのよ」
元同僚はしどろもどろになりながら、「旦那が医者だったなんて……!」とブツブツつぶやいていました。
なぜか涙目になっている元同僚の肩を軽くたたき、「結婚式、楽しんでね!」と声をかけて、私はパーティー会場の方へ向かいました。
その後――。
パーティー中にもかかわらず、何度も着信をよこした元同僚。退職したときは何度連絡しても出なかったのに……と怒りを覚えながら出てみると、「私もそっちのパーティーに参加させて!」と言い出したのです。
どうやら、元同僚の夫は医師免許は持っているものの、働く気がないニートだということで泣きついてきたのです。元同僚は義父のパーティーの参列者に医師たちがいるだろうと考えて、新たな出会いを求めている様子。
もちろん、こちらのパーティーも招待状がないと入れません。今にもパーティー会場に突撃してきそうな勢いだったので、丁寧にお断りをして、スタッフさんにも元同僚を入れないように伝えておきました。
結局、元同僚は無職の夫と入籍したそうです。「寿退職だから」と言って引継ぎもなしにやめた元同僚も、以前勤めていた病院で看護師や患者とのトラブルが絶えなかった夫も、就活に難航しているようです。ときどき、「夫に就職先を紹介して!」と義父をあてにして私のもとにも電話がかかってきますが、まともに取り合うつもりはありません。
大勢から祝福されていた人望の厚い義父は温厚で、私のことを大事に想ってくれています。そして私の夫も、同じように温厚で、誠実な人です。元同僚の夫と比較するわけではありませんが、私は自分の夫と結婚してよかったな、と思っています。